表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

Sex Friends

 彼は、事の後、私に背中を向けて煙草を吸った。


 煙草を吸うなんて行為に意味なんてないくせに、彼は尊大に、なにか必然的な神秘的儀式行為のように煙草を吸っている。蝉が夏に鳴かなければならないように、彼も終わったあとに煙草を吸う。


 何で彼は、煙草を終わった後に吸うのだろうと私は考えた。煙草の煙の成分から考えると、タールが足りていないのだろうか。もう少し彼の体にタールが足りていれば、腰の動きはもっと軽やかだったのかしら、なんてことを考えてると、思わず私の口から笑い声が洩れた。


「何を笑っているの? 」と彼は尋ねた。


「余韻に浸っていただけよ」と、私は答えた。


「そんなによかったか? 」と彼は聞いてきた。


「ええ。良かったわよ」と、私は答えた。


「どちらが大きかった? 」と彼は聞く。


 彼の真っ直ぐすぎる質問に、私は思わず笑ってしまった。


「もちろん、貴方に決まっているじゃない。若さって表現すれば良いのかしら。大きさも堅さも、前の人とは比べられないわよ。ほんとに凄かったわよ。頭の中が真っ白になって、貴方の事以外、考えられなくなっていたわ」と私はいった。嘘は付いていない。


「そうか」と、彼は言って、白煙を口から天井に向かって吹き出し、煙草の先に溜まった灰を、居眠りをしたふくろうが木から落ちたみたいに、トンっと灰皿に落とした。


「でも、若さは大事に為た方がいいわよ。もっと若い子なら、もっとすごいんじゃないかしら。だって、若い子って、往々にして凄いじゃない? 」と私は言った。


「そうかも知れないな。テクニックはどうだった? 」と彼は聞いた。


「随分と、比べたがるのね。どちらも良かったわ。私はどちらにも満足している。それでは駄目なの? 」と聞き返した。私の中に残った彼が、私の体の中でまだ暴れている。繋がりが切れたあとも、そこには何かがあるように感じる。遠く離れて、歩いては辿り着けないあの満月が、私とつながっているように。


「それで納得しないのが、男性というものだ。常に相手に勝ちたいのかな? 教えてよ? 」と言って、彼は煙草の火を消して、私に口づけをした。私の心はキスでは完全に開かない。でも、私のファンデーションケースに入った、哀れにひび割れたファンデーションを彼に見せるくらいのことは、打ち明けても良いのではないかと思った。


「もう少し、緩急が欲しかったかしら。ゆっくりのところは本当にゆっくりでいいのよ。あと、錆び付いた南京錠を開けるときみたいに、もっと中を引っ掻き回してくれてもよかったわ」


「そうか」と彼は言って帰り支度を始めた。


「ねぇ、もう帰るの? 」と私は聞いた。用事をすませたあと、さっさと帰ってしまう彼を引き止めたいのではない。彼の律儀さ、例えるなら、真夏の炎天下、新しくオープンしたラーメン屋の長蛇の列に並び、額の汗をハンカチで何度も拭くような、そんな彼の律儀さと、私自身を天秤にかけてみたくなったの。


「ああ。もう時間だ」と、彼は言った。彼の律儀さと私、それを両側に載せた天秤は、公園のシーソーのように揺れることなく、落ちた。


「あらそう。さよなら。ねぇ、私達、いつまでこんなことを続けるのかしら? 」と私は聞いた。


「僕達が未来を作るまでだよ」と彼は言った。


「ふふ。そういうチープな台詞、私、嫌いじゃないわ。またね」と私は言った。彼は何も言わず、そのまま部屋から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ