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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
ストーキング

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真名


 保健室を後にして廊下を歩き続けるけれど、足取りも不安定で、どこかフワフワと漂う様だ。

窓の外を眺めると、お昼の時間に、天気のいい中庭へと歩いて行く数人の姿。

どこからか風に運ばれた桜の花びらが宙を舞い、外と切り離された静けさに、まるで自分が違う空間をさ迷っているような錯覚に陥る。


これは現実なのだろうか。


 教室に近づき、目を向けると代と智士君が私に気付いて笑顔を見せた。

二人に対して、安心するような息が漏れる。

うん、嫌な気分はない。

自分の知らない前世の罪悪感、それはやはり……問題が自分自身にあると言う事。


「幸、どこに行っていたの?」


どうやら私が保健室に行っていた事を、二人は誰からも聞いていないみたい。

私は二人に、複雑な笑顔を見せたのではないかと思う。

多分、苦笑になった気がする。

私の様子に、二人は互いに顔を合わせて、あまり深く聞いてはいけないのかと戸惑うような反応を見せた。

何だか嬉しくなるのは、どうしてだろうか。

思わず笑みが漏れた。


「ふふ。記憶にない前世に、空想が膨らんだのか寝不足だったみたい。」


私の言葉に、代は穏やかに笑って抱き寄せる。


「まだ、無理をして思い出さなくてもいい。……幸…………」


言葉が途切れた代の温もりと優しさが、心の奥深くに眠る何かに抵触した。

前にもあった気がする。


「もう、二人だけで仲良くしないでよ。俺、腹減った!」


私たちの周りをウロウロと、仲間外れに拗ねる素振りの智士君。


 智士君には、前世の記憶が無い。

私にあるのは曖昧で、空想のような記憶とは呼べないようなもの。

代の記憶は、まるで生き写しのように備わっているんじゃないだろうかと思ってしまう。

どこまで覚えているのか、聞いたわけじゃない。

それでも鮮明に刻まれた魂の記憶が、私たちを見つけるほどに……何かを求めて探り当てた。


 代の配慮なのか、記憶具合なのか……3人で一緒に居て、前世の話が出る事はほとんどない。

それでも話の合間、ふとした瞬間に垣間見せる懐かしいような雰囲気。

それは『敵』だったはずの智士君からも感じる。

あの懺悔に対する私の答えは、彼女の存在の否定……前世の智士君がいなければ、罪悪感を抱かずに済んだだろうか。



 お昼の時間を共に過ごし、クラスの違う代と廊下で別れる。


「幸、俺……お前といると安心する。

前世で、本当に『敵』だったのかと思うほど……

シロは嘘を吐いていなくても、俺に黙っていることがあるはずだ。

幸、前世は一つなのだろうか。」


答えに困り、何かを告げようと口を開いた瞬間、予鈴が鳴り響いた。


「幸、後でな!」


ニコリと笑顔を見せた智士君に、私は頷いて自分の席に向かった。


 輪廻転生……

生まれ変わりを繰り返す。

それは何度……

偶然などではない。

必然的に引き合わされたのだとすれば?

今の私たちは誰の意図で、何の目的があって存在するのかな。

3人で過ごす時間が増えれば増えるほど、心に巣食った罪悪感が、黒く染まっていく。



 帰り道、二人と別れて自宅そばの公園に立ち寄った。

夕暮れの桜並木。

満開のピンク色に、オレンジがかった光が徐々に夕焼けの赤みへと変化していく。

風に舞う花びらはまるで……火の粉…………


「……ぁ……つい」


穏やかな風が身を纏うのに、記憶の熱が全身を焼き尽くす様な痛みを生み出す。


「××××」


聞き取れない言葉。

声に反応した身体は、熱と痛みから解放されて、今度は重りを被さったように動かない。

言葉を出そうとするけれど、すべての力を振り絞っても動かない体に恐怖と焦りが生じる。

一体、何が起きているのか理解できない。


「ふっ。くくく……あはは!今度こそ、逃がさないからな。」


先ほどの声の主と同じ……

背後から近寄る人影。私を追い越し、背を見せていたのは一瞬。

判別できる後ろ姿に、何故?という疑問が生じた。

彼は体の方向を変えて、今まで遠目に見ていたのとは程遠い表情。

探る様な視線で私の表情を読み取って、不敵な笑みを浮かべた。

背筋を通る寒気。

逃げなきゃ……

でも、どうやって?


 近づく彼は私の首を絞めるように右手を添えた。

緊張に、自分の喉を通る唾液が分かる。

もう駄目だ……

諦めかけた私の目に入った彼の表情が変わっていく。

私の首に添えた手は優しく、落とす視線の鋭さを和らげて目を細め、顔を近づけて止めた。

目の合ったまま、唇をなぞる指の感覚に心臓が跳ねる。


「真名を手に入れた。今度こそ、俺の子を宿せ。」


まな?

子を宿す…………は?


理解不能に陥りながらも、状況を把握しようと必死で頭を働かせる。

体は硬直のまま、近づく顔に何故か受け入れ体勢……

あぁ、私のファーストキスがぁ……


『××××』


叫ぶような声。

涙目の私が見ているのは、目を閉じた状態でギリギリ息のかかる距離の顔。


「こんなことの為に、真名を教えたんじゃない。ジキ、約束を守れ!」


体に掛かっていた重圧から解放され、その場に座り込んで息を整える。

この声、代だよね……。

まだ気だるい体で、思う様に動かないので視線だけを声の方へと向けた。

彼も私と同様、目の前に座り込む。

そして舌打ちして小さく唸るような低い声。


「ちっ。煩い黙れ……」


怖い!

遠目に見た時は、もう少し冷静沈着に見えたのに。


 彼は私に視線を向けた。

相多あいだ なお

代が呼んだのは前世での名、ジキと……真名。


 代は私と相多君の真名を知っていた事になる。

頭に浮かんだのは、前世の私を裏切った時と同様に『そう感じることが必ず生じると思って欲しい』という言葉。

うん、約束通り。代は私を『守護』してくれた。


この出逢いが……

私の自由を奪う真名を彼に教えた事が、私から見れば裏切り……

それでも、私を護る為に必要だったこと。


真の名……ゆきでもサチでもない名。

なおでもジキでもない名。


魂を揺さぶる刻まれた記憶が…………

真実を告げる。

更なる罪悪感へと誘う、私の本質……真名…………




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