【オマケ短編3】お泊り会
何となく言い出せずに、報告が直前になってしまった。
「え、数元の家に泊まるって……今日?」
「うん、だから今日は一緒に帰れない。あの、良い……よね?」
私の横に笑顔で立っていた代を睨んで、直は一言。
「駄目だ。」
ですよね。前世で男、しかも恋敵の代とお泊りなんて。
だから言い出せなかった。
「何もしないわよ?」
直の視線にも動じず、笑顔のまま答えるのが胡散臭いと思ってしまう私が居る。
そこへ智士くんが現れ、話がややこしくなるかと思ったけれど。
「もう、直は女心が分かってないなぁ。だから自信過剰で失敗するんだよ。」
……痛いところを突いちゃったのかな。
項垂れ、言葉を失った直の背を押しながら智士くんは合図を送る。
前世女の子と現世女の子に、ずっと男だった直が女心を否定できるはずはないよね。
何だか、可哀相なことをしちゃったかな。
だけど少し落ち着いた頃に、代と前世の話をしたかった。
聞かなければいけない事があるはず。
日常では現世が色濃く、前世に浸る間もなく足掻いて生きている。
もっと時間が欲しい。
代の家まで、二人並んで歩きながら普通の女友達と変わらない会話をする。
花や小物を売っている店の前で立ち止まり、時に洋服の店に入る。
アイスを買ってベンチに座り、景色を眺めた。
この平和な時代、隣に居るのは私の友達。
変わらない。他の友達と、何ら違わない。
代の家に着き、部屋で談笑して、贅沢な夕食を頂く。
大きな家。立派なお風呂。広い部屋。デカいベッド。
夜の時間が迫り、ベッドの上に二人が座って向き合う。
この場面を直が見ればと想像しては、懐かしいような罪悪感。
「幸、何を考えているの?」
きっと、代の予測通りだと思うけれど。
苦笑しながら、私は答える。
「前世と現世の両方。直はアスターを意識して、今頃……」
「そうね。女の子相手に、何を取り乱しているのかしら。
直がそんな状態では、幸を任せておけないわ。……もう私と幸せになる?」
どこまで真剣なのか全く読めない。
私は笑みが漏れる。
「ふふ。直が私と幸せになりたいと言ってくれたの。
ごめんね。」
私の表情を見つめ、優しく微笑みながら代は口を閉ざしたままだった。
「代。アスターは、あの後……私たちの村に、どうして来たの?」
そう。あの夜が最後だと別れたはずなのに、すぐ再会するなんて。
しかもラセイタが取り乱していたとは言え、アスターはユウエンに躊躇することなく攻撃を仕掛けた。
「夢で見た通り、ラセイタの聴いた情報には、聞き取れなかった言語の不足があったのよ。」
「そうね。すべて殺されたと読み取ったラセイタは、ユウエンが生きていることに驚いた。
ラセイタの知らない何があったのか、それを知りたい。」
「……憶測だけれど。
ユウエンは、仲間より貴方を優先して行動したのだと思う。」
……村の人達より?
胸騒ぎがする。自分の浅はかな行動が招いた結末。
私は胸元の服を握り締め、代の言葉に耳を傾けた。
「あの夜が明けて、アスターは拠点に戻った。そこで見たのは部下たちの死体。
唯一の生存者……ラセイタの言語を理解する者は、身に印のある一人の男が、物凄い勢いで襲ってきたと報告した。
彼の目的は、その場所に貴方の特徴に似た女性を探しに来ていたと。」
ユウエンが独りで敵地に乗り込み、ラセイタを探していた……
「嘘だ。そんな、彼が……
村の規律を乱すような人じゃないし、無謀すぎる。」
だけど、私を探して無茶をするような人を他に知らない。
「ラセイタが聴いた通り、視察に出ていた戦力の男性たちは、幾つか組織されていたみたいだけど……すべて鎮圧して殺害した。」
残った戦力は彼、ただ独り。
「アスターは村に戻ったラセイタを心配して、後を追った。
そこで見たのは、仲間であるはずの彼を拒絶するラセイタの姿。
護りたい一心だった。
死を願ったアスターが、誰かの命を奪うなんて……
それは誰かの幸せを願い、共に生きたいと望んだ結果。」
私の心が痛い。
アスターの想い。彼は自分の死を覆し、ラセイタからの愛情を望んでいた。
それなのに、目の当たりにしたのは彼女の心が砕けた瞬間。
彼が彼女の身に刻んだ文様は枯れ果て、降り積もるのは後悔。
淡い想いを封じて、転生を繰り返し……
「代、あなたにも死の渇望が備わっているの?」
常に備わって来た希死念慮。
それは今も?
「備わっているけれど、同じではないような気がするわ。
答えは、まだ見つからない。見つかるまで私の転生は続くのだと思う。
それよりも、幸……あなたは直が好き?」
意図的な転生から、代は解かれることがあるのだろうか。その答えを知っているのは一体、誰なの。
代自身も分からない。ただ……彼女の前世からの願い。
私を守護してきた人に、自分の想いを伝えるべきだと思う。
「直が好き。
前世に由来する想いも関係なく……私の心は……変わらない。」
うん、いつか代が言った通り。
私の真名、本質は逆境の忠節……
「それを聞いて、私は生きる意味を自覚できる。
私は直の前世での生き方を目の当たりにする度に、彼らを尊敬していた。」
代の意外な言葉に、驚いてしまう。
「アスターも?」
「そう。逃げ道として死を願ってきたアスターと異なり、たった独りで生に固執するようなユウエンの戦い方。
それは愛する者の為。
そしてシロが見たジキの死。
前世を知らなかったはずのジキが最期に望んだのは、仲間との死だったのかもしれない。」
無意識に涙が溢れて零れ落ちていく。
代は私を抱き寄せて、優しく頭を撫でた。
「孤独な枷を負ってきた直に愛しさを募らせ、共に生きる未来を願って欲しい。
来世ではなく現世で、繰り返されることのない時間を大切に。この平和な時代で……」
「代、あなたを解放したい……
来世までのストーキングはお断りなのですよ。」
end
【オマケ短編4】未来
代の出産祝いに、病院へと向かう。
すると、仕事の帰りに寄ったのか先に着いた直の声が聞こえる。しかも病院だと言うのに大きな声。
病室に入ると、ベッドで起き上がった代が赤ちゃんを抱いていた。
感情的になる様な状況が理解できない。
近づいて間に入ろうとすると、平然と、代はいつもの笑顔を私に向ける。
嫌な予感。
「直、俺の娘を見てくれよ!
代に似て、冷静だよなぁ。ん?俺に似て、動じないのかな。」
……あの、空気を読んでくれないかな、智士くん。
「揃いも揃って、俺をどうしたいんだ?」
状況が把握できないけれど、直は混乱しているように見える。
「幸、俺……数元の会社の社長に就任した。」
は?
私も驚きで、代に視線を向けた。
「大丈夫よ、株の大半は私たちが所持しているから。」
「だから、そんな一族で占めた会社の社長に、どうして俺なんだよ?」
代は冷静と言うより、どこか冷めているだけなのかな。
「しょうがないじゃない。
だって、私の夫が別の会社の社長だから。」
智士くんは照れながら、調子よく答える。
「オヤジ、負けず嫌いだから♪」
一番凄いのは、智士くんのお父さんかもしれない。
思わず苦笑が出てしまう。
何を言っても、どうにもならないと諦めたのか、直は大きなため息で項垂れる。
「直、昇進祝いにコーヒーを奢ってやる!ついて来い。」
結局、直の事を一番上手に操れるのは智士くんだったりするのよね。
昔から変わらない関係も微笑ましいと思える。
「騒がしくてごめんね。
出産、おめでとう。」
声をかけた私に、代は穏やかに笑う。彼女の小さな変化に気付き、私も笑みが漏れた。
智士くんは直を連れ出したのかな。
「幸、私は何の為に転生を繰り返すのか分かった気がするわ。
引き継いできた希死念慮……
死を願い渇望してきたけれど、願いは増えて命に希望を抱いた。」
意図的な転生の末に、彼女が出した結論。
「アスターは死を覆すほどの愛を知った。
シロは死に際に来世を願った。
力のない私は死を願って来たのに、命を産み出した。
死を覆す願い……
私はもう、転生することは無い。きっと……もっと、ちがう今を願うから。」
「そうね。もう……
前世からのストーキングはお断りなのですよ。」
END




