【オマケ短編2】帰路
翌朝、代と智士くんは何事も無かった様に帰ってきた。
ぎこちなかった私と直は、智士くんの悪ふざけで通常に戻る。
夜の事は互いに触れず、休暇の予定を楽しんだ。
そんな時間は呆気なく過ぎて、帰路の車内。
狙ったかのように、智士くんが軽く訊いてくる。
「ね、直。どこまでいったの?」
思わず飲み物を吹きそうになる。
代の隣で、口元と目元を緩ませた笑顔の智士くんに苛立ちが募っていく。
それは直も同じか、それ以上。
話を逸らそうと、私は直に話題を振った。
「ね、……相多君は、県内の幼稚園からエスカレータ式の学校だったと噂で聞いたけど。
何故、この高校に受験したの?
誰にも理由を言っていないみたいだけど、訊いても良い?」
あの夜以降、思わず直と呼んでしまいそうになり、今回も間を誤魔化したつもりで早口になる。
まだ、この二人の前では相多君で通していたい。
相多君は少し不満そうだったけど、この車内の智士くんの様子で納得してくれたかな。
「恥ずかしい話。父が仕事で責任を取らされ降格・転勤……
俺は居辛くなって学校を変えたんだ。」
訊くタイミングを間違った。
謝ろうとした私より先に、代が話を始める。
「あぁ、忘れていた。そんな事、あったわね。
大丈夫よ、直のお父様には悪いけれど囮捜査だったの。
家も私が押さえてあるから、安心して。」
…………。
…………。
「……は?」
代は皆の視線を受けても、悠長に飲み物を口に運んで息を吐く。
「数元?」
動揺の見える直に、代はいつもの微笑み。
「明日には、昇格してもらうけれど……
もう少し内部の現状が知りたいから。ごめんなさい。」
直は怒りで振るえ、立ち上がる。
「お前、まさか!
この前世の為に父と母を巻き込んだのか?」
智士くんが直を取り押さえ、代の答えを待つ時間が私にも苦しく思えた。
「それが一番の目的ね。」
平然と腹黒い事を言う姿は、まんまシロ兄様。
「俺達が、どれだけ……絶対に許さないからな!」
「赦して欲しいなんて思わないわ。」
あれ?この流れって、もしかして?
「代、あの……私の父の転勤も、あなたなの?」
県外から、本社への配属……急な転勤と、今の学校への推薦。
「そうよ。金と権力、全て使える物を駆使した。」
代の後悔などない真っ直ぐな視線に、直は力が抜けるように座り込む。
「本当に……お前だけは……」
小さな声だけど、直の中では感情が処理できたのだろうか。
私たちの前世。
繰り返されてきた悲恋……出逢わなければ、こんな結末も無かった。
知らずに居れば、何も変わることなく時間は過ぎていただろうか。
分からない。
「ちっ。
これだから金持ちの考える事なんて分からないんだ。」
私立の学校に居た直も、私にすれば同じだけど。
「直、俺は違うよね?」
調子がいいのは、リコリスと少し毛色が違う。イチシには、その雰囲気があったのか私には分からない。
智士くん特有のものだろうか。
「何だよ、別荘って。」
「オヤジ、負けず嫌いだから♪」
……何とも不思議な組み合わせ。
意図的な巡り合せを、裏でしてきた代。大人の世界も手中で……
「ちょっと待て、さっきの数元の発言……まだ父を利用するのか?
何だ、ソレ。
前世に固執するならまだしも、結局、現世を楽しんでいるようにしか見えないぞ。」
呆れながらも、どこか安心したように見える。
代は首を傾げた。
「二人の人事に手を出すなら、それに付随する人生を見守るように父から言われたの。」
……うん?忘れていたみたいだけど、どこまで本気なのかな。
直は、大きなため息を吐いて私に目を向ける。
「幸は良いのか?
県外から、自分の意思に反してここに居るんだぞ。
その元凶が分かったんだ、何か言っておけ。」
何か……ね。
「ふふ。
代、前世からのストーキングはお断りなのですよ。」
end




