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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
緩晴

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【オマケ短編1】危険な夜(前編)


 相多君の視線は、どの時代でも変わらない。

優しく私を見つめ、切なさと望みを含んだような表情に心苦しくなる。


「相多君。ジキは、あの後……イチシが見たように雪に埋もれた罠で死んだの?」


思い出したくないような枷となる記憶に、どこまで触れても良いだろうか。


「あぁ、敵にしてみれば雪は計算外だっただろう。」


意図的な罠ではなく、偶然の……


「最期に何を考えた?」


ユウエンの最期と同様の結末に、何を思ったのかな。知りたい。

サチの心残り。

必ず帰ると約束し、見せた後ろ姿を引き留めることも出来ずに見送った。


ジキと共に死ぬよりも、シロが傍に居るなら寂しくないだろうと……

諦めと同時に、後悔が押し寄せた。」


そうね。確かにシロ兄様の命を奪ったからか、サチはジキと幸せになれないと悟っていたのかもしれない。

胸に刺さった矢は息苦しい痛みなのに、自分の罪を癒すような甘さ。

白い世界が体温や感覚を奪って、罪悪感を覆すような願いが生じた。

あの時と同じ。

炎雨の中、熱も暑さも感じず……死を願ったのと同様に。


「相多君、前世の記憶は私たちの想いを左右している。

だけど私は、この恋を大切にしたいと願い、今を大事に生きて行きたい。

あなたの願いも同じだと思って良い?」


 あの桜吹雪の中で、あなたを見つけた。

視線を奪われ、言い知れない感情に苦しみながらも……あなたを少しでも知りたいと思ったのは本当。

偽りはない。


「言ったよね?俺は、前世を利用するくらいの感覚だったと。

初めて君を見た時から、胸騒ぎに急かされるような日々が辛かった。

もどかしさで、微かな前世の記憶に身を委ねては暴走して、君を怖がらせてしまったよね。

ごめん……きっと、ジキも同じだったと思う。

はは。だけど、サチの反応は楽しんでいたかもしれない。」


「ふっ……酷い事言うのね。

サチはジキのセリフに絶叫していたでしょう?

本当に、好きな子を虐めるなんて大人気ない。」


ユウエンの態度も似たようなものね。……あれ、それってもしかして。

口を開こうとした私を止めるような携帯の着信音が響く。


「ん?智士からだ。幸、ちょっと待っていてね。

……何?」


何の連絡かな。

智士くんの話に耳を傾けていた相多君に焦りが見え始め、どんどん表情が変化していく。


「は?何を言っているんだ。ちょっ、俺達の事は……

おい!」


電話は切れたみたいなのに、呆然と地面に視線を向けたまま。

何があったのかな?

不安を煽る様な沈黙に耐えられず、そっと近づいて覗き込む。


「うわっ。

……あの、違うから!」


何が?

そんなに驚く事をした覚えはないよ。

状況が把握できない私を取り残し、相多君は誤魔化すような笑みで距離を広げる。


 今さっき、私の気持ちを伝えたばかり。そして彼も私に、素直な気持ちを伝えようとしてくれたよね。

そんな一時を覆すような、ぎこちない空気。

智士くんは一体、何を告げたのかな。


「何だったの?」


「え?何が。」


……明らかな挙動不審。

視線を泳がせて私を見ずに、電話の内容も言わないで、はぐらかすとか。


「……相多君、さっきの話はなかったことで良いかな?

信用できない人を好きになるとか無理。」


不機嫌な私に、彼は大きなため息を吐いた。

あ、調子に乗って嫌気がしたのかな。大人気ない私に愛想を尽かしたかな。

臆病になる。

失う事を恐れ、そんな恐怖に怯えるくらいなら……もういっその事…………


「幸、今夜は……俺達二人だけだ。」


え?

彼が何を言ったのか理解できず、さっきまでグチャグチャだった頭の中も真っ白になる。


 思考は徐々に回復。

今夜は二人だけ。私と相多君で二人。だけ?

え、智士くんや代は、どこに行ったの?置いて帰るとかは、さすがに無いよね。

私の戸惑いに相多君は小さな声で説明を始める。


「智士も近くに別荘があるらしい。それで、その……

そこに数元を連れて行って……今夜は、数元の別荘には戻らないと宣言しやがった。」


代と二人きりで智士くんの別荘、それってつまり?

私たちの間に流れる沈黙が更に重く圧し掛かる。


「智士に電話を掛け直したけど、繋がらない。」


…………。

…………。


私はポケットから携帯を出し、代にかける。


『電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため……』


耳に入る代の声ではないアナウンスに、力が抜けていく。

嫌な予感はしたのだけど、何か企んでいるだけだよね。それとも自分たちの事だけなのかな。

視線を相多君に向けると、逸らされてしまった。

気まずい。


「……幸、別荘に戻ろうか。ここに居ても状況は分からない。

智士の悪戯かもしれないし……居場所のメモがあるかもしれないから。」


言い捨てるような早口で、彼は私に後姿を見せる。

来た時とは違った背中。

速度も微妙に早くて、距離は縮まらない。寂しさが募る。


 戻った代の別荘の入り口には、見知らぬ男の人が居た。

服装は料理人で、私たちを出迎えて家に入るようにと促す。

気まずさは残るのに誰かが居た事に安心し、残念に思う自分がいる。

別荘の中には、代も智士くんも不在で、男性は台所へと私たちを誘導した。


「あの、あなたは……?」


不安そうに問う私に、彼は笑顔で答える。


「バーベキューをした時間が中途半端だったので、夜に軽い物を食べられるようにと準備させて頂きました。

二人分です。

あ、俺は仕事が終わったので帰宅しますよ。」


それ以上の質問は受け付けないかのような胡散臭い笑顔で、業務的に仕事を終えて去って行く。

智士くんの差し金なのだろうか……憎い。あいつ後で覚えてろ。

大きなログハウスに、置き去りにされた感で沈黙が辛い。


「幸、俺……風呂に入るよ。

その部屋でテレビでも見て、ゆっくりして。」


相多君は逃げるように、視線も合わせず去って行く。

……あぁ、うん。逃場なんてないよね。

気まずいけれど、お風呂に入れば落ち着けるかな?

けど、その後の事は……考えないようにしよう。



(後編へ続く)

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