××××は逆境の忠節
口を閉ざした代を見守る私たち。
転生に絡んだ願いと枷。それは私たちにも存在するのだろうか。
代は何を話せばいいのか迷っているように見える。
何か言おうと思っていた私より先に、口を開いたのは相多君だった。
「次元を超えた話だな。
前世の時点で、俺には理解を超えていた。
だけど互いの前世を知る事は良かったと思う。」
「だよな。
もっと時間が欲しい。先に何か食べて、現世を楽しむのも良いと思う!」
智士くんは、勢いよく立ち上がり私たちに視線を向けた。
相多君は智士くんに向けて苦笑し、立ち上がる。
「何かって、バーベキューだろ?
料理は、どちらにしても得意だったよな。ほら智士、腕をみせてみろ。
ふ。嫁にはもらわねぇけどな。」
相多君の口調の変化に、どこか懐かしさを感じた。
智士くんの表情は満面の笑みで、涙が浮かんでいる。
「料理の腕は任せろ!
だけど残念。俺は恋多き男だから、もう直には惚れないぞ。」
イチシとジキとは違う関係。リコリスとユウエンとも異なる。
今、私たちの在り方。
私も立ち上がり、代に手を差し伸べる。
「案内してよ。」
代は変わらない優しい微笑みで、私の手を取って立ち上がった。
「料理は二人に任せて、外のウッドデッキに出て景色でも見ましょうか。」
緑の多い静かな場所で、風も涼やかに流れていく。
どこか懐かしく、切なくて甘い。
肉の焼ける美味しそうな匂いに負けず、沢山の野菜も手際よく、智士くんは焼いていく。
懐かしい姿。
前世も忘れ、記憶を操作された時のような楽しい日々を思い出す。
だけど、私の心には転生に望んだ自分の願いを探していた。
生を基に、願いと枷を背負い……
繰り返してきた転生は、悲恋の中にも生きた証が存在するようで後悔など忘れてしまう。
罪悪感も過去の物。
「ほら幸、もっと食べろよ。」
トングに挟んだ大量のお肉。
私のお皿が山盛りになったのを見て、言いにくそうに智士くんが尋ねる。
「あのさ、訊いても良いかな?
サチは、シロが世話をしていただろ。ラセイタが料理をしている姿も見たことがないし……
幸は、料理が出来るのかな。」
……確かに、質問の内容は少し失礼な気がする。
だけど、思わず笑みが漏れた。
「多分、私の願いかな。」
シロが願ったサチの家庭環境が与えた産物かもしれない。
私は母から日曜日に、料理を学んでいた。朝が弱くて、お弁当は無理だけど。
私の答えに、何かを納得したような智士くん。
「あぁ、そっか。
俺さぁ、リコリスの性格が、どうしてイチシになるのか分からなかったんだ。
理解できないのは俺が男だからかと。なるほど。」
トングの先を何度かカチカチと合わせ、私を探る様な視線を向けた。
「幸も同じだろうね。
ふぅ~ん、ふふっ。何だか嬉しいなぁ。」
意味が分からないけど、何だか見透かされたようで少し嫌な気分。
「智士、お前は本当に恋多き男だなぁ。
一緒に、焼いてしまおうか。」
怖い顔の相多君にトングを奪われ、逃げ腰になる智士くん。
「焼いているのはモチだろ、直。
俺が幸を理解できるのは当然だぞ。だって、ユウエンよりラセイタの方が大切だったからなぁ。ザマー。」
そんな状況で喧嘩を売るのも、どうなのかな。
「相多君。
サチとイチシは、ラセイタとリコリスが互いに憧れて転生時に望んだ姿なのよ。」
代は簡単に言い、キャベツを口に入れて知らぬ顔。
……あぁ、うん。シロ兄様の一面だわ。
「何だよ、代!俺が気づいたのに、簡単に言いやがって。
楽しみを奪っておきながら、そのクールなのも許せない。て、何で不思議そうな顔なの?」
今更だけど、代や智士くんの呼び方が変わったことに気が付いて、心は寂しさを感じる。
それが正しいのだろうけど、感情は処理できない。
複雑な思いが心を占め、相多君の視線に気づくのが遅れた。
「直、何で嬉しそうなの?」
智士くんに指摘され、私と目があった瞬間に相多君は視線を逸らす。
どんな表情だったのか、とても気になるんだけど。
「別に!
肉が美味しいから、顔が緩んだだけだ。」
顔を背ける彼に、智士くんはニヤニヤした笑みで何度も問い詰める。
「当ててやろうか?
ぷふ。幸、コイツは~……モゴッ」
からかっていた智士くんの口を手で押さえ、言葉を閉ざす。
え、何。私に関係する事なの?
目を代に向けると、彼女は首を傾げて口の中の物を呑み込んだ。
「リコリスに憧れた原因はユウエンよね。
シロもサチの面倒を見ながら不思議だったけど、新たに知ると可愛いわ。」
……あ、転生後の性格はラセイタの望みだったのよね。
ユウエンに対する想いから、なりたいと願った結果がサチ。
一気に熱が上昇し、顔や体が熱い。
なぜ私が恥ずかしい気持ちになるのかな。
視線を落とし、顔を両手で覆う。
「また、そうやって代は俺の邪魔をする!ちっ。
だけどユウエンもジキも、何に惹かれたんだろう。」
智士くんの失礼な視線を受け、イチシを思い出してしまう。
何に惹かれたのか。確かに気になる。
目を上げ、視線を相多君に向けた。
彼は私の視線に後退り、顔を逸らして……驚いた表情で叫ぶ。
「智士、肉!野菜も真っ黒だぞ。」
騒ぎに、私の疑問は解消されることが無かった。
こればかりは、代でも分からない事だから。
食べた後の片付けをしながら、転生の願いと枷について考えていた。
ラセイタの願い。リコリスに憧れて、サチのような女の子になったけれど、本質は変わらなかった。
多分、ジキはラセイタのような乱暴な平手に懐かしさを感じたのかもしれない。
……物好きね。
私は?
ラセイタのような活発さも無く、どちらかと言うとサチ。
私は、出来ればラセイタのような自由さが欲しかったな。
これが枷だろうか。
サチは願い通りの姿だったかもしれないけど、ラセイタと同様に親の愛情を知らず、隔離状態。
特別な力は、あの文様と同じなのかな。
洗い物を終え、食器を運ぼうとした私の横から取っていく手。
目を向けると、隣に立っていた代が微笑みを見せる。
「幸、ラセイタは真名に相応しい。
逆境に面しても忠節を尽くす。死に面しても、相手を思う気持ちを固く守って、他へ移さない。」
「移したわ!それも、呆気なく……
貴方は見て、知っているはずよ。」
思わず感情的になる。
だって、私は……
「最期に選んだのは、本当に愛していた人ね。」
代は空を見上げ、口もとは笑みを浮かべていた。
私は視線を逸らし、食器を持って家の中に入る。
ラセイタが罪悪感を抱いたのは、アスターやユウエンに対して。
だけど今なら後悔はなかったと思える。
過去は変えられない。
今、この現世で私は真名の通り?それは私の天性の物だと言える?
……ラセイタは逆境の忠節…………




