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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
最終章:天性

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××××は諦めと悲しい思い出を語る


 涙が止まらず、顔を覆って声を押し殺す。

懐かしい感覚。癒されるような安心感……

あぁ、ラセイタがアスターに惹かれたのは、相多君ユウエンと同様の資質を重ねたのかもしれない。

失った恋を埋めようと、悲しみを癒そうとして……ラセイタはアスターに逃げただけなのかな。


 自分の前世……だけど自分じゃない。

その時に生きた瞬間は、ラセイタやサチ、私……それぞれ違う。

各々で、異なる結末を迎えたかもしれない。


 涙が止まらず、過去とは違う罪悪感が芽生えていることに気が付いた。

それが自分の今の想いまでも否定するようで、恐怖に変わっていく。

顔を上げて彼に視線を向けると、そこには変わらない優しい視線があった。


「落ち着いた?」


ずっと、そんな視線を私に向けて待っていてくれたのだろうか。

涙は止まり、平静を取り戻していく。

とても単純に一喜一憂するのね、私の心は単純だ。


「……過去は変えられない。だけど、『もしも』を考えずにはいられない。

自分の事ではないのに可能性を探して、罪悪感が形を変えて押し寄せる。」


苦しい。

きっと、あの時もう少し時間に余裕があれば……

もっと、あの時に彼らと打ち解けて素直に話が出来る状況であれば……

ちがう、過去は変えられない。

変えることが出来たとすれば、今が存在する価値はないと思う。


「……そうだね。

それは俺も同じで、そして……

お前もだろ?なぁ、智士……下りて来いよ。」


え、智士くん?

相多君は視線を階上に向けて呼びかけている。

私が目を上げると、階段の手すりから智士くんの顔が少しずつ見えた。

徐々に視線を逸らし、気まずさに複雑な表情で立ち尽くしている。


「聞かせて欲しい。お前が過去に何を感じ、何を思ったのか。

俺は知りたい。智士、来いよ。」


優しい口調に、智士くんも私も相多君を見る。

ずっと立っていた相多君は私の前の椅子に座り、位置をずれるようにしてスペースを作る。

そして、そこに座るように叩いて促す。

勢いよく階段を下りる音がして、近づいた必死な顔の智士くんが相多君の横に立つ。


「ほら、座れって。話が出来ないだろ。」


イスに座る智士くんの複雑な表情に、嬉しそうな笑みが垣間見えた。

智士くんは私に視線を向け、言いにくそうにしながら口を開く。


「……幸、ごめんな。前世での俺は自由過ぎた。

イチシもリコリスも、お前たちが恨んで当然だ。」


「恨んで当然……確かに、そうかもしれない。

だけど自分に問題があったから、内に宿ったのは罪悪感。

この現世で智士くんと一緒に居る時間は懐かしいと感じた。」


まとまり切らない思考で、偽りなく、出来る限りを言葉に出来ているだろうか。

私の不安に、智士くんは笑顔を見せる。


「この現世で、俺は直と友達になりたかった。

過去と同様、慕う気持ちだろうか。

幸、意外に思うかもしれないけれど、リコリスもイチシも……ユウエンとジキには憧れの様な感情で、固執は恋ではない。」


何となく言っている意味が、分かる気がする。

サチがシロに対して抱いたような愛着。

身近に常にいる家族のような存在で、心惹かれる存在ジキとは異なる感情。


代の言葉を思い出す。

『イチシは恋多き人。シロはそんなイチシに惹かれた。

殺すつもりだったのに。力で覗いた記憶がシロを止め、愛情を芽生えさせる』


「智士くん、リコリスが身に纏った印は誰の物なの?」


恋多き人……ラセイタが知らないリコリスの想いを知りたい。

友として身近にいたのに。

ユウエンへの憧れも、身に文様を刻んでも良いと思えるような人が居たのも知らずに……

悔しい。

ラセイタが思うほど、リコリスは心を開いてはくれていなかったのかな。


 智士くんは、そっと相多君の表情を確認してから私に視線を戻す。


「ユウエンの従弟だよ。

甘味料を……その、貢いでくれていた人だね。」


苦笑して、何だか申し訳なさそうに答えた。

あぁ~そんな人いたの?と言うよりも……貢いでいたって、それは。


「うぅ~ん。はっきり言っちゃうと、最初はその程度だったんだよね。」


リコリスは恋多きと言うより悪女じゃない!

思わず口を開け、呆れて放心状態になってしまう。


「はは、呆れるよね。

前世の記憶を思い出したら女って怖ぇーって思ったぜ、俺。」


笑えない。だけど、その感情が変わったんだよね。

相多君は、その辺りの事を知っていたのだろうか。

黙って、智士くんの話に耳を傾けている。


「……ある日、偶然に見たんだ。

固有の印なのに、ユウエンと瓜二つの文様。

彼の背……見ることのできない位置。ただ、そんなに酷似していたなら彼は知っていただろうね。

長たちの決定に、彼だけが私の味方だった。

一緒に逃げてくれると言ってくれて……それを止めたのは、ユウエンだけどね。

同情してくれたのは本当。」


自分の感情で頭が一杯だった。

敵の迫る緊迫した状況だけじゃない。日常の中でも、自由気ままに我儘で。

自由なのは、ラセイタも同じ。

それが、あの時代・あの環境での生い立ちなのかな。


「……甘味料を手に入れるのが、どれほど危険で困難だったか。

リコリスは、知らなかった。で、惚れちゃったんだよね。」


自分の事のように、智士くんは恥ずかしそうに笑う。


「どうして、本当の事を言ってくれなかったの?」


もし、あの時に本当の事を知っていれば……


「リコリスがユウエンに憧れ、好きだったのはラセイタとの楽しい時間だったからだよ。

失うのが怖かった。

結局、その関係を壊したのは自分自身。……本当に、浅はかだった。」


これが真実。

言葉にしてしまうと呆気なく感じてしまう。

だけど、過去は取り戻せない。


私は言葉を失う。

ラセイタではない今、何と答えて良いのか分からなかった。


「……イチシも同じ。

シロがサチの為に戦に参加するのを見下して、イチシへの殺意も馬鹿にしていた。

シロの考えなど、すべて理解した上で同行したんだ。」


シロの殺意を知りながら……イチシは、シロを戦に誘った。

リコリスとは異なる強い女性のよう……それはラセイタとサチも同じ事。

生まれ変わっても、全て同じではない。


「イチシは、シロを殺すつもりだったの?」


「そうだね。

イチシは、自分の大切なジキを奪われたように、サチからシロを奪うつもりだったんだ。」


争いの世界に、芽生えた殺意……

簡単に命を奪う思考回路。


「ふっ、本当に単純だよね。恋多き女性だよ……

シロのイチシに対する眼、対応の仕方に惹かれた。

心奪われるのを認めず、抗っていたのに……

敵からの攻撃から庇って大きな傷を負ったシロ。

……短刀で刺さなくても、いずれは尽きた命。イチシが奪った。」


サチにはシロの傷など分からなかった……イチシの手当てがあったのね。


「あの当時には在り得なかった雪が、敵の罠を覆って……ジキと仲間は無残な死を遂げた。

予言を告げたサチに対する憎しみや逆恨み。

ジキを奪い、心惹かれるシロの愛情を受け……戦から離れて待ち続けるサチへの怒り……

そのままぶつけた。」


これも一つの真実。

自分の前世サチに降り懸かったことなのに、イチシの想いを知るだけで何と愛しく思えるのだろうか。


「……仕方のない事だったのね。」


時代が招いた悲恋。

もう少し時間があれば、きっと……もっと、ちがう結末があっただろう。


「前世を全て思い出し、現世での代の言動を理解して、傷つくなんてな。」


『俺を初めて見たシロは泣きそうなほど嬉しそうな顔をしていた』


以前に聞いた言葉……

前世、過去の出来事を考えるなら残酷な歓び。


「……二人の障害となった女性。リコリスとイチシ。

俺が男なら、前世と同様の邪魔はない。

馬鹿だよね。俺は、代が直を好きなのだと……だから、二人の仲を気にするんだと思っていたのに。」


だから、あんな探る様な言葉と視線。


『幸と直が仲良しになったみたいだけど、“良い”のか?』


代も智士くんの様子を観察していた。……だけど。


「智士くん……代はあなたを警戒して、身近で見張っていると思ったの?」


智士くんの何かをあきらめたような力の無い言葉と悲しそうな表情に、もどかしさを感じる。


「かもな。」


代の気持ちは、きっとシロの時と同じ。

だけど私が智士くんに告げるのも、どうなのだろうか。


「代は、現世での思い出を楽しそうに話していた。

最初から全ての記憶がある彼女が……

それだけは忘れないで。」


恋の多さに伴う悲しい思い出と諦め……

真名の通り。智士くんの天性の物。


リコリスは諦めと悲しい思い出を語る




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