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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
炎雨

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死を願う者に希望を与えることは絶望を生んだ


 一度口を閉ざした代は、相多君に目を真っ直ぐ向ける。


「神話の様な時代……

それは、この地球上の出来事だったのかも、命が何処を廻ってここに辿り着いたのかさえ私には分からない。

ただ、あなた方の種族は特別な力に守護されていた。」


“あなた方”はアスター以外の私たち、三人の前世が同じ種族だったと言う事?

神話など想像も出来ないような前世……それでも、智士くんと共に居る時に味わった懐かしいような雰囲気は、イチシでは説明が付かない。

例え、存在を否定するほどに智士くんの前世を憎んだとしても、魂に刻まれた記憶は正直に反応したんだ。


相多君も智士くんも、それぞれ何かを考えているのか車内は沈黙に包まれる。

代は言葉を小さく吐き出して、未知の話を連ねていく。


「異なる種族だったアスターは、力が備わっていたと言うより……あなた方に係わった処罰なのかもしれない。

天性として備わっていた希死念慮に、心配したアスターの父は、家臣の提案を受け入れた。

……一人に生きる希望を与え、すべての命を奪う結果になるなんて。」


戦の無い世界を望んだ代。

この前世を、ずっと私に伝えることを躊躇するほどに……過酷な出来事が詰まっている気がする。


だって、垣間見た記憶はどれも……

思い出すだけで罪悪感が私を攻め立て、恐怖で包んでいく。


「処罰……当然じゃないのか。

俺は、お前に殺された。

一生触れる事さえ叶わず、愛した者の命約を目前に。」


「やめて、相多君。

代を……アスターを責めないで。

彼に生きる希望を与えたのは私。あなたを……ユウエンを殺したのは、ラセイタが招いた事。

あなたが死んだと聞いたから、生きているとは思わなかった。

一縷の望みを絶ったリコリスから真実を告げられたのは、アスターを受け入れた後。

どれほど再会を憎んだだろう……」


 記憶が、魂に刻まれた想いが揺さぶられる。

どんなに足掻いても、取り戻せない過去。

私の前世は、常に悲恋を繰り返した。

愛する人を信じることが出来ず、自暴自棄になったのは認める。

それでも、アスターを受け入れたのは紛れもない私自身ラセイタの愛情。


「代、言葉を交わすだけ無駄だと思う。

出来るのでしょう?」


以前、サチの前世を私に見せたように。

私たちに、過去を見せることが出来るはずだ。

そうでなければ、わざわざこんな回りくどい事をしていないだろう。

この休みまで私たちの記憶を操作し、数日の休みを利用して夢を同時に見ることのできる環境を整えるなど。


「……えぇ。

その為に皆を別荘に招いて、準備をしたのだから。」


 私たちの会話に、智士くんが首を傾げて不安そうな表情でみつめる。

代は、それに応えるように優しい笑顔を向けた。


「私はイチシの前世リコリスを知らない。

イチシ……あなたは恋多き人。シロはそんなイチシに惹かれた。

ふふ。殺すつもりだったのに……

力で覗いた記憶がシロを止め、愛情を芽生えさせるなんて。」


シロがイチシを殺さなかった理由。

それって、つまり……代、あなたは。


「さぁ、始めましょう。

今から幸に刻まれた前世を通して、全員に過去を見せる。

別荘までの距離では全ての記憶を見るには時間が足りないけれど、着いてからの事は気にしないで。

使用人に、“車移動で疲れて”眠った私たちを部屋に運ぶように伝えた。」


私に刻まれた前世の記憶を、全員が……


「待って、私だけの記憶では。」


「そうね、きっと欠けた部分は彼らが補ってくれる。

私の力ではあるけれど、自分が制御できているわけではないの。

足掻いて来たのは私も同じ。

本来、私には力など存在しない……だからシロが全てを使い果たしたのだと。

……幸、今なら止められるわよ。」


もう、ここまで来て引き返すなど考えられない事だ。


「いいえ、ラセイタの全てを見て欲しい。

そして、ラセイタの知らなかった想いを皆が教えて。

もう二度と、繰り返すことのない過去の出来事……取り戻すことのできない日々を。」


代は席を立ち、私の座る足元に屈んでから、手を頬に当てて目を真っ直ぐに合わせた。


「……巡り廻る転生。

真名に相応しい逆境の忠節。貴方の名前はラセイタ。

稀なる生まれ変わりに刻まれた記憶。呼び覚まされた共有の時間を再び望む。」



……私の名はラセイタ……


 目を閉じると、沈む様に意識が混濁する。

遠くから聴こえる声に耳を傾け、懐かしいような香りに息を大きく吸った。

大輪の文様が暗闇に浮かぶ。



 小さな統治で満足できる者など、どこに居るだろうか。

力を誇示して権力を強め、領地を拡大して貪欲に染まる。


圧政の暴虐で血に染まった大国を、いずれは引き継ぐ者の心にはただ一つ。

『自分は死ななければならない』という使命感。

天性の希死念慮。

生きる望みを持ち合わせはしなかった。

そう、君に出会うまで…………


 圧政から離れた地で、特異な力に恵みを受けた民は繁栄を続けて穏やかに暮していた。

男性は体の一部に固有の文様を生まれ持ち、女性は男性を受け入れた時に、その印として体全体に文様が現れる。

生涯その文様のある女性に触れるのが許されるのは、同じ文様の男性のみ。

慎ましく貞淑な夫婦の絆は強く、文様は奇跡の印。


他民が触れてはならない一族。

しかし噂を聞いた家臣は、生きる希望として告げる。

死を願う者も、自分独りを生涯の伴侶に選ばれては、安易な行動を控えるのではと。


それが全てを呑み込む炎雨を、繰り返される悲恋を生じさせるなど誰も思いはしない。

そう。皮肉な事に、死を願う者に希望を与えることは絶望を生んだ……




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