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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
先導

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22/40

最期に見たのは白い世界と血塗られた手


4月。

温暖化の深刻な問題を抱えた現代。異常気象は春の季節に豪雪をもたらした。


雪とは無縁に近い温暖な地域。

どれほどなのかと問われれば、冬の季節に風雪を5度でも見かけるのは多い方で、1時間で解けてしまう積雪も珍しい。

十センチの積雪なら十数年に一度だと報道されるような場所。


空を見上げると雪は止み……

…………寒曇……




 朝、学校からの連絡がメールに表示される。

雪に慣れていない地域での登校時の安全を考慮し、本日の休校が決定したと。


 カーテンを開け、窓の曇りを手で拭って外を眺める。

一面、白い世界。

吐く息は白く、寒気に身をすくませて周りを見渡した。

これ程の寒さを予測できずに、分厚い冬物は片付けた後。

私に予知などない。

クローゼットを開け、コートを出して羽織る。


部屋を出て階段を下りると、仕事に出ようとする父と外出の準備の整った母が居た。


「おはよう。今日は学校が休みでしょ?もう少し、ゆっくりしていなさい。」


母の手には、大きな手提げ袋。

近所に住むお婆ちゃんの所へ行くのだろうか。


「父さんは、こんな日にも仕事なの?」


いつも出る時間より、かなり早い時間。

雪で車は危険だし、運転に気を付けていても何が起こるか分からないよね。


「幸。お昼には雪も大方解けるだろうから、朝は外に出るんじゃないぞ。その為に学校は休みになっているんだからな。」


お父さんは自分の事を告げずに、私への注意だけで満足げな顔をしている。


「うん、そだね。」


私の呆れたような返事に、何故か安心した笑顔を見せる。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか。母さんは、お義母さんの所へ行って様子を見て来るわ。きっと、予想外の寒さに困っているだろうし。雪道をお父さんが一緒に歩いてくれるなんて、珍しい事でしょ?」


二人は嬉しそうに玄関を出て行く。

一緒の時間は特別な事なんだ。

あまり仲が良いとか、意識したことが無かったけれど……

私たちの過去に幸せは、どれほどあったのだろうか。


 独りの家は静かだ。

白い雪に覆われたあの日と同様、音を吸収したように静寂が包んでいるのだろうか。

リビングへ向かい、大きな窓を開けて庭に裸足で飛び降りる。

滅多にない環境に、心は浮かれるようで異なる。

自分の奥深くに眠る罪悪感が呼び起こされ、足の裏は冷たさを全身に伝えて震えを生じさせた。


吐く息は白く、凍えるような寒さ。

冷たさを感じていた足は痺れ始め、感覚が鈍くなったと思えば、今度は熱が生じるように熱く感じた。

家の中に戻り、真っ赤になった足の裏を拭いて、今までにない感覚に我を忘れて取り乱した。

あの日の事を思い出せるのではないのかと、軽率な行動。


 床に寝転び、呼吸が整っていくのが分かる。

温かくなっていく足に心は安らぎ、身を起こした。

多分、この状況を逃せば記憶は曖昧なままかもしれない。

その考えに変化はなく、部屋に戻って服を着替え、寒さ対策を万全にする。

コートは羽織るのではなく、腕を通した。

片付けていた冬用のブーツを取り出し、手には手袋で耳にはイヤーウォーマーを装着。

ブーツを履き、玄関を開けて先ほど自分の立っていた庭に向かう。


 空を見上げると、すぐに解けるような粉雪が舞い落ちてきた。

吐く息は白く、寒さを感じない静けさ。

白く広がる庭は、どこか懐かしいようで悲しく切ない。

込み上げる感情。

涙が溢れて零れ、頬を伝って流れていく一筋。


あの後……ジキとの幸せな一時、それが彼女にとっての最期の思い出。

その後の出来事は、何て呆気なく過ぎ去る記憶なのだろうか。

一瞬で呼び起こされ、価値などないように……。

そこに意味があるのだとすれば、この現世の雪は偶然なのかな。


 ポケットから携帯電話を取り出す。

登録から選択し、迷うことなくボタンを押した。

耳元で響くコール音。


静かな声が聞こえ、いつもの穏やかな笑顔を思い描く。


「代、思い出したわ。あなたが導いたサチへの記憶すべて。……一つの前世、サチとしての人生を。」


そう、智士くんが言っていた疑問と一致する。

『前世は一つなのだろうか』


「幸は相多君が好き?」


私にとっては、“まだ知らない前世”に対する抵抗がある。

何故その状況で問うのだろうか。


「代……彼を好きだと思う心が現世の物なのか、前世による物なのか私には分からない。『きっと……もっと、ちがう未来を願う……どうして、あなたは……』」


前にも無意識で出た言葉。

今の私でも、続く言葉はまだ見つかっていない。


「本当は、もう一つの前世を……あなたに知られたくない。できれば知られずに、現世の想いだけで二人が幸せになることを願った。

でも、サチとジキは前世を知らずに生きたけれど結果は同じ!

戦乱の時代と共に、身近にいたシロとイチシが災いを招いたのも過去と同様。

だから、全ての力を注いだ。私はこの現世での先導者。」


前に代が言っていた。

前世に対する解釈の違い。『私たちのケースは稀』だと。


 代の前世に感じた寒さ。

サチは拒絶のような冷たさを味わい、突き放されたような寂しさに行き場を失って悲しみに染まった。

あれはシロの覚悟だったんだ。


あの血塗られた短刀がシロの願いだったと。

それは形を変えて今も私を『守護』している。


 彼の言葉も今は私の胸に刺さる。


『今度こそ、逃がさないからな。』


真名……それが、もう一つの前世。

サチの前世と同様?

今は戦乱の世でもない。予知も不思議な力も無い。

だから繰り返すことなど決してない。


私は、この現世を願った。

過ちを繰り返さないために。


サチが……

最期に見たのは白い世界と血塗られた手…………




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