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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
寒曇

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17/40

傷ついた体に密着する熱は溶け入る


 夜が明け、ざわめく声がして目を向けると、大勢の民が建物に入って来た。

部屋に留まるように兄様から告げられ、そっと扉の隙間から様子を窺う。

聞こえる怒鳴り声。


敵であるジキは、こことは違う民との戦に出かけた。

ジキの意思ではないだろう。

イチシとの結婚と同様、逆らえないお父様の命令。


私たちは戦いを望まない。

ここの民の恐怖心は騒乱を巻き起こした。

兄様に詰め寄り、戦場が拡大して近隣の抗争に巻き込まれるのではと、訴える。

イチシの連れた軍に、民は広がる疑念を抑えることが出来なかった様だ。

臆病な民。

生贄の私に、敵の妻からの敵対心を目にした民が出した結論。

命の保障はなく、いつ敵に切り捨てられるとも限らない。


正常な判断など出来ず、身を滅ぼすような浅はかな決断を推し進める。

きっと、この民の行動より、戦い慣れた民が反旗を感じ取って滅ぼす方が早いだろう。

末路は同じ。

命などない。


そんな危険を冒すことを、ジキは分かっていたはずだ。

周りからの反対もあっただろう。

だから私を、この隔離された場所から出さなかった。

連れて帰ることなど出来ない。

私に居場所など……



 立ち尽くす私を見つけた民の一人が近づき、叫んだ。


「我々の巫女なら救え!あいつを殺して、この地を取り戻すのだ。災いを告げただけではなく、これ以上……」


詰め寄る民と私の間に兄様が割って入り、眩い光が包む。


「下がれ、サチにもジキにも手を出すことは許さない!」


異様な光景に、詰め寄っていた民と見守っていた周囲の人々は重い沈黙に包まれる。

兄様にも、特異な力があったなんて。

後退する弱々しい足が、逃げるような散り尻になる足音に変わっていく。


 静寂に、兄様の後姿を見つめ続けていると、弱々しく振り返る様子に胸の痛みが生じた。


「……ごめん。」


その謝罪は、何に対して?

不透明な予知とは明らかに違う力を、私に隠していた事?

それとも、別の何かが待ち受けているのだろうか。

どう反応していいのか、何を言えば良いのか分からずに戸惑う。


兄様は、そっと私を抱き寄せて囁いた。

久々の抱擁だというのに、以前ほどの歓びも感じない。

小さな声に耳を傾けた。


「サチ、俺も明日、戦地に向かう。」


聞こえた言葉を認識できず、思考は上手く機能していないのか茫然となる。

見上げた私に、兄様は視線を合わせずに突き放す様にして距離をとった。

包んでいた温もりが逃げていき、凍えるような寒さが身を包む。


「兄様、何故?……嫌です……嘘だと言ってください!どうして……戦に赴いて何を……」


離れる辛さと、嫌な予感。

吐く息は白く、震える手を必死で伸ばした。

苦しそうな表情で後退り、首を振る兄様の拒絶に、突き放されたような悲しみ。


「サチ。血を分けた者なら、ずっと見守れると思った。だがしかし、彼は……望んだ未来に応えることは出来ないだろう……これが戦乱の世ではなく、平穏な時代であったなら……」


何を言っているの?

兄様は視線を真っ直ぐに向け、口を開いた。


「……××××。」


聞こえたけれど、聞き取れない言葉なのか、何らかの力を発動する呪文だったのか……薄れゆく視界に、不安定になる足元。

支える腕は、きっと兄様の物。

懐かしい香りに包まれ、遠退く意識。


「……置いて行け、足手まといだ。」


耳に入ったのはイチシの声だった。

兄様は戦に、イチシと共に行って、戦いに加わるのだろうか。


そうして、私の元を去るんだ……ジキも、兄様も。

取り残され、力のなさに悲観を味わい……


イチシのように共に戦うが出来れば。

それでも『望んだ未来』は、手に入らない気がする。

それを裏付けるようなことが前にも……記憶にもない出来事が、絶望へと導く。



 どれほどの暗闇にいたのだろう。

目を開けると、吐く息は白くて凍えるような寒さ。

身に被さった布は、予見に備え、防寒用に兄様と一緒に準備した物。


「兄様?」


弱々しく呼んでみるけれど、返事は無い。


「……兄様、兄様……シロ、返事をして下さい!」


叫んだと同時で大きな衝撃音。

その音のする戸が開いて、光が差し込む。

逆光で顔は見えず、背の高さは男性。

身が竦む。


「……はぁ。はっ……お前なぁ、俺は帰って来るって言ったよな?それなのに、呼ぶのがあいつとか勘弁して……くれ。」


この声は……


「ジキ!」


包まった布を跳ね除け、駆け寄ると、彼は壁伝いに座り込む。

顔には大量の汗が滴り、激痛を耐えるような表情で腹部を押さえた。

大きな切り傷が目に入り、ジキの手から血が滲んで、溢れるように流れていく。


 応急処置が頭に浮かび、自分でも驚くほど機敏に行動した。

私は、まがいもなく巫女。

清潔に保たれた布で傷を覆って当て、止血する。

思ったより傷は浅く、当てた布は血で染まっていくけれど、直ぐに止まるだろう。

それより気になるのは発熱。

意識がはっきりしていないジキに語りかけ、傷を押さえて寝転がるようにと指示をした。

私の力でジキを運ぶことは出来ないから、ゆっくりとした動きでも反応をしてくれるのは有難い。


 戸の向こうに見えたのは、白い世界。

寒さに吐く息は白く、未知の物に恐怖などなく、可能性に懸けて外に飛び出した。

足を捕らえる冷たさ。

手ですくい、口に運ぶ。

これは空から降って来ている。雨と同じなら体に害はないはず。

口に広がった冷たさで歯が凍みるけれど、味はなく、自分の予測が正しいと判断した。

布に包んで、ジキの元に近づき、脇下に入れて熱を下げようと試みる。


 何度目かに足を運んだ際、視界の端に入ったのは、見たことのない民族の死体。


ジキの傷は新しかった。

逃げ帰る様な人ではない。

帰ったジキを狙っていたのだろう。

他に死体は存在しないし、気配も無いから、きっと戦場での決着がついたのを知らない脱落者。

死を目の当たりに、冷たさを超えて足の感覚が鈍くなる。

急いで部屋に戻り、目に入った光景に、集めて布に包んだ物を落としてしまった。


 先ほどまで、発熱に苦しんでいたジキが震えを起こしている。

首や脇の下、膝の裏と股の付け根に挟んだ布を取り払い、防寒用の布を掻き集めて被せた。

足りない……

このままだと、ジキは死んでしまう。

傷を避けて彼の着衣を脱がしながら、傷周りを丁寧に拭って消毒を施す。

後は熱を与えるだけ、私に出来る事は…………


 血に染まった手を拭い、吐く息は白さを増していく。

凍えるような寒さの中、常に身に着けていた白い衣を肩に滑らせるようにして動かしていく。

止め紐の位置を変えて解くと、一気に身を覆っていた布が離れた。

緊張と決意に、もう寒さは感じない。


それほど無感覚だったはずなのに、傷ついた体に密着する熱は溶け入る……




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