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⑦前世からのストーキングはお断りなのですよ  作者: 邑 紫貴
因果

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垣間見た悲しみに覚悟を決めて・・


 走って帰宅した私は涙を誤魔化すために、洗面台へと向かった。

水を大量に流して顔を洗うけれど、滴るのが水道の水なのか自分の涙なのか区別もつかない。

感情が落ち着くまで、息苦しいのを我慢して何度も顔を洗う事を繰り返す。

タオルに手を伸ばして、顔を拭い、零れるものがないのを確認してから鏡に視線を移した。

泣いたのが明らかな酷い顔。


 誤魔化し切れないのをあきらめ、自分の部屋に移動して着替える事にした。

カバンを机に置いて、制服を脱ぐ。

目に入る鏡に映った下着姿の自分と手を重ね、見つめる自分がここに居るのだと思うと、ホッとした。

前世……

私は、相多君を選ばなかった。

垣間見たもう一人の人格なら苦手だからね。

『くくく……今度こそ、逃がさないからな。』

『俺の子を宿せ。』

……思い出すだけでも、問題が山積みな発言だなと、苦笑しか出ない。


 “今度こそ”逃がさない……

逃げた私は、彼の子を宿すのが嫌だったのかな。

まぁ……そんな事を言われて、喜んで!とは言えないなぁ。

戦乱の世で、代は私を彼に差し出したのだろうか。

それなら罪悪感を抱いているのは代も同じはず……感じる矛盾。

この平和な時代に、再び彼と私に繋がりを与えた。

しかも真名を教えることまでして……。


考え事をしながら鏡に触れている方の腕に、鳥肌が立っているのが見えた。

じっと下着姿で居るには、春で温かくなったとしても寒い。

部屋着に着替えなきゃ『……寒い。』


 突然、視界が歪んだと思えば、目の前を覆うほどの大量の雪が現れた。

降り積もっていく猛吹雪。

暗闇に立ちつくし、さっきまで居た自分の部屋とは明らかに別の場所。

触れていた鏡もない。

これは……

頭に響く声が大きくなっていく。


『……きっと……この想いは、もっと他の感情。ちがう。好きになっていたなんて認めない。』


……好きになっていたって、それは誰の事を?

自覚して、見つめることを恐れて募るのは罪悪感。

胸の痛みと悲しくて切ない気持ちに、激しい後悔が湧き上がる。

自分の吐く息は白く、足は雪に埋もれて身動きもとれない。

冷たさに感覚が狂って、痛みが熱に変わり……痛覚が麻痺していく。

眠気を誘うような温もりが深く……



「……き、幸!」


叫んで私を抱き起している母の姿が目に入った。

ここに雪など存在せず、寒さも和らいだ自分の部屋に居る現状を知って、思考は落ち着きを取り戻していく。


「ごめんなさい、ちょっと……疲れが出たのかな。休んでも……いい?」


母は、目に涙を浮かべて必死だった表情を和らげて、頷きながら笑みを見せた。

私はそんな母に寄り掛かり、ベッドまで数歩進んで寝転がる。


「引越しや高校入学で、環境も随分と変わったから……それに、最近は友達が出来たみたいだし、慣れて安心したのね。無理せず寝ていなさい。」


布団を被せ、私の頭や額を撫でて優しい笑顔を向ける母。

そっと、私の部屋から出て行った。


「っ。ふ……うぅ……」


声が漏れ、布団を身に覆って涙を零す。

湧き上がる悲しみに近いのは、失恋のような感情。

さっき自覚した気持ちを否定し、自分の想いが不安定で悲しくて……

実らない恋に、どうすることも出来ないもどかしさ。

それが、もっと現実的で……身を切り刻む様な喪失を痛感した。

今の私じゃない……前世の刻まれた記憶だ!


 罪悪感がある。

赦して欲しいと願いながら、それも叶わないような罪を犯したのだと感じるような記憶。

淡い恋心も、掻き消されるほどの罪の意識に苛まれる。

私は彼を選ばなかった?

違う、選ぶ事が出来なかった。


だって恋心に気付いた時には……もう、貴方は…………

死んでいたの。

喪った……

想いを伝えることも出来ずに。


 記憶の引き金は何だったのかな。

無意識で出した言葉かもしれない。

相多君は、大丈夫だっただろうか。

何かを思い出したんだと思う。

切なくて苦しい。


『離れないで。』

その言葉を思いだし、自分に喜びが生じる。

痛みに加わる甘さ……

複雑な感情に、処理が追いつく暇もなく涙が流れていく。

このまま流し去って欲しい……


 現世を望む私は、全てを忘れて……生まれ変わって違う生き方を願わないだろうか。

悲しみと罪悪感、憎しみや激しい後悔……

足りない記憶が矛盾を生んで、処理できない感情が中途半端な未来予想図を描く。

いっそのこと、曖昧な前世の記憶よりも、魂に刻まれた全てを受け入れた方が先に進めるかもしれない。

私の想い……


 刻まれた魂の記憶よ、見せて欲しい。

受け入れたい。

きっと、もっと……ちがう未来があると信じたいから。


彼が望むのは、今の私じゃない……

だけど、貴方が望んだ私も……前世には存在しない。


貴方を選ばなかった事実は変わらないから。

それは、この現世でも同様だと思う。

繰り返さないことを、何故、代は望むのかな?


 涙は止まって、意識は落ちていく。

眠気に誘われるまま、深みに堕ちながら……魂に刻まれた過去を探す。


それは今の私に関係がない。

悲恋の物語を、今更、どうすることも出来ない。

それでも何かが、きっと……もっと、ちがう未来になるよね。


 雪に覆われ、身体が記憶する熱とは異なる記憶。

垣間見た悲しみに覚悟を決めて・・




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