第4章
私はゆうくんから逃げるように玄関へと向かい、玄関を開けると、走ってきたのだろう。
息を切らしたみーちゃんがいた。そして、私を頭の先から爪先まで眺めた後…。
「…理子姉。どうして、そんなに髪や服が乱れてるの?」
「こ、これは…」
「それに、居るんだよね?…ゆう兄が…」
やはり、気付かれていた。
「…美鈴」
私の後ろから、ゆうくんがみーちゃんに話し掛ける。
「ゆう兄」
二人は暫く見つめあった後、みーちゃんが私を見た。
「ねえ。中に入っていい?」
酷く冷静な声。
私は、言葉を発せずに頷くだけだった。
テーブルを囲んで、私たちは座ったが誰も口を開こうとしなかった。
重たい沈黙が流れる。そして、その重たい空気を払ったのはみーちゃんだった。
「ねえ。二人は、何をしてたの?」
「た、ただ話てただけだよ?」
「どんな?どんな話をしてたの?理子姉の、髪や服が乱れてたのはなんで!?」
みーちゃんの顔が段々と強張り、ヒステリックになっていく。
次に口を開いたのは、ゆうくんだった。
「美鈴。悪い。…俺は、今日理子に告白しにきた」
「……っ!!」
みーちゃんは目を見開くと、悔しげに唇を噛む。
「理子姉。ずっとゆう兄のこと、好きだったもんね。良かったね。…でもね」
みーちゃんは、自分の鞄から何かを取り出すと立ち上がり、ゆうくんへと抱き付いた。
ゆうくんは、目を大きく見開き、再び立ち上がったみーちゃんを見るとその場に倒れた。お腹を押さえ苦しげな呻き声を漏らしていたが、すぐに静かになる。
「ゆうくん!?」
私は驚いて、名前を叫ぶように呼ぶが反応がない。
みーちゃんを、恐る恐る見上げると、ジッとベッドサイドの棚に飾られた、幼い頃の私たち3人の写真を見つめていた。
そして、私は見てしまった。みーちゃんの手に鋭く光る赤く濡れたナイフ。
「理子姉の大切なもの。あたしが全部奪ってあげる。
ゆう兄も、思い出も…」
綺麗な笑顔だった。
怖いぐらいに綺麗な笑顔で告げた後、ナイフがみーちゃんの喉元に刺さる。
鮮血が部屋を赤く染め上げていく…。
「みーちゃんっ!」
私の声は届かず、みーちゃんの体がぐらりと揺らぐと、その場に倒れた。
私は呆然と、赤く染まっていく二人を見ながら、思考が、これ以上頭を働かせることを拒絶した。