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かくして、物語の扉は開かれる。

 千九百二十五年、南緯四十七度九分、西経百二十六度四十三分、南太平洋上。


 そんな大海原の只中に、通常ありえぬ姿の物体が、並々ならぬ存在感を放っていた。


 蛸とも思える頭部、烏賊を想起させる無数の触手。その手足には巨大な鉤爪を持ち、背中と思しき部位には蝙蝠のような翼。そして何より、それはあまりにも大きすぎた。


 しかし今、その異形の肉体は傷つき、たわみ、崩れ、消滅しようとしている。それは、大いなる邪神が、小かな人類に屈しようとしていることを意味している。


 旧き支配者の周りに、彼の者を見上げるようにして空を踏みしめている存在が二つ。


 一つは薔薇の冠を頂く、麗しくも雄々しい純白の女神。

 そしてもう一つは、青の星地球を思わせる、生命力溢れる半生半機の女神。


 機械を纏った女神が、雄たけぶ。


「今少しじゃ! 力を隕石に!」

「いいですとも!」


 機械の女神の声に応じて、薔薇の女神が動いた。そのまま等間隔に異形を囲むと、彼らは同時に不可思議な文言を唱え始めた。

 それに呼応するように、二柱の女神に、神々しい光の粒子が満ちていく。それは赤であり青であり紫であり、また緑でもあり黄でもあった。


「GHOOOOUUUURYYYYY!」


 突如、異形が意味不明な叫びを放った。その声はあまりにも大きく、空気を引き裂き海原がちぎれ飛ぶ。


「ひるむでないぞ! 死んでも力を放て!」

「く……相変わらず無茶を言いますね!」

「! あれは……」


 やがて破壊力を伴う音は、空間をも切り裂いた。そうして断裂した空間の彼方から、巨大な、地平線の彼方に隠れそうもないほど巨大な、扉のようなものが現れる。

 だがそれは扉というにはあまりにも生々しく、てらてらと不気味に光る表面はまたどくどくと脈打ち、今にも何かが生まれ出そうな母胎にも見える。


「まさか……窮極の門!?」

「ぬう、彼奴め、魔界に逃げるつもりじゃな!? そうはさせぬぞ! ローザ!」

「心得ています!」


 再度機械の女神が吼え、薔薇の女神が応じる。

 そんな彼女たちを尻目に、異形は海水を滴らせながら、緩やかに空へと浮かび上がった。それにあわせて、扉が不快極まる音と共に開いていく。


「行くぞ!」

「ええ!」


 巨大な異形が、それよりもさらに巨大な門へと飛び込もうとしたその瞬間、女神たちが同時に魔の力を行使した。外なる力がほとばしり、青い地球の大空を貫く。


 そして刹那、その彼方が煌き、無数の光が降り注いだ。

 それは隕石のようだが、そのような生易しいものではない。純然たる破壊力に加えて、さらに物も魂も、すべてを穿つ力を備えている。そしてそれは、一つも漏らすことなく異形の肉体を撃ち抜いた。


「RUCHHHYUUUUIIIEEEEE!」

「やった!?」


 異形の肉体が、崩れていく。光の粒子となっていく。旧き支配者が、堕ちる――。


「――逃さぬ!」


 朽ち果てながらもなお門をくぐろうとする異形を追って、半生半機の女神が空を蹴った。


「藤子さん!? 無茶ですわ! それ以上は――」


 薔薇の女神の制止も聞かず、機械の女神が両手に翠緑の光を宿して異形迫り、その力を開放した。


「星の裁きを! 我らが母の、青き裁きを!」


 七色の霊妙なる輝きを放つ、一条の光線。それは光線と言うより、巨大な津波のようであった。

 周囲すべてを巻き込んで、周囲すべてを震撼させて、それは異形を貫く――。


「…………。……よし! これで、これで地球が彼奴の恐怖にさらされることはあるまい! のう、ローザ!」


 闇の中、女神が振り返る。しかし、そこに見知った太平洋の光景はなく。


「藤子さん!」


 ただぽっかりと空いた四角い空白の中から名を叫ぶ薔薇の女神が、遠ざかっていく。

 そして同じく遠ざかる機械の女神の姿が、ゆっくりと崩れていく。


「……ふっ、そうか。もう戻れぬか」


 女神がぽつりと、ひとりごちた。


 門が、閉じる。


「それもよかろう。ローザ!……さらばじゃ。息災でな」


 その声が、彼女が呼んだ相手に届いたかは定かではない。それを確かめる術も、彼女は持ち合わせていない。


 やがて、崩れ行く彼女の肉体が、人間の姿を取った。


「……窮極の門、か」


 闇の中に一人、人間の姿がある。

 鴉の濡れ羽色した髪をポニーテールにまとめた少女。赤と青の、対なる瞳を持つ少女。彼女が、ひとりごちた。


「彼方に見えるも、此方に見えるも、すべてはわしか。一は全、全は一なれば……。よかろう」


 そのまま彼女は、どこまでも続く闇の彼方へと歩き始める。


「行けるところまで行こうではないか。勝ち負けなぞ関係なく、ただ己の限界を目指して」


 彼女の名は、ひかり藤子とうこ

 災厄の魔女の名をほしいままにしながら、ある者からは天使が愛でる青き藤とも称される花。


 そう、彼女こそ闇に生き闇に咲く、枯れない藤の花である――。

pixivに投稿していた同名作品の転載です。

投稿の際には加筆修正を加えているので、要所要所で描写が変わっているはずです。

なお、毎週金曜日に更新予定です。

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