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フィーカスのショートショートストーリー

届け、ぽち袋に込めた思い

作者: フィーカス

 最近は家の裏でマンボウが死んでいるPさんの曲にはまっています。

 彼の描く独特の世界観を真似しようと、何故かお年玉をテーマにした小説にしてみました。

 しかし、さすがに思わず笑ってしまうような異様な発想はそうそう思いつくわけ無く、なんかイマイチな仕上がりに(汁

 最後はちょっと自信あるのですが。

 笑顔はお金で買えないと言われるけど、お年玉をもらったときは笑顔になった。

 だから、そんなお金もぽち袋に入れてしまえば、それで笑顔を買うことができる。僕はそれを証明したい。

 これは多分、そんな僕の人生年記なのだと思う。


 22歳。

 とうとう今日から社会人。一ヵ月後には初給料。

 今まではお年玉を貰う側だったが、来年からは僕が渡す側。

 渡して喜んでくれる子供の顔を思い浮かべると、ワクワクする。

 とりあえず、来年のターゲットは、三歳になる姉の息子かな。


 23歳。

 ぽち袋に百円玉一枚入れて、姉の息子に渡した。

 自分で稼いだお金で、初めて渡したお年玉だ。

 しかし、姉は「この子はまだわからないから」と、渡したぽち袋をすぐさま奪った。

 姉の息子はわけも分からずきゃっきゃとはしゃいでいたが、僕の心はがっくりとうなだれていた。


 25歳。

 こんな僕にも嫁ができた。

 一歳年下の、可愛い妻。

 これから子供をたくさん作って、たくさんお年玉を配ろう。

 そのために、仕事を頑張るよ。


 28歳。

 息子がもう三歳になった。

 そろそろお年玉をあげてもいいかなと思い、ぽち袋に百円玉一枚入れて渡した。

 しかし、妻は「この子はまだわからないから」と、渡したぽち袋をすぐさま笑顔で奪った。

 息子はぽかーんとした表情だった。僕もぽかーんとした。


 30歳。

 二人目の子供ができた。

 姉の子供も小学生に入ったし、これからどんどんお年玉にかかるお金が増える。

 この娘にお年玉を渡す頃には、息子も小学校に入学している頃だろう。

 さあ、頑張ってお金を貯めよう。


 32歳。

 いとこのお姉さんやお兄さんの子供も大きくなった。

 お年玉をあげる子供がたくさん増えた。

 もっともっとお年玉をあげようと、残業を増やしてもらった。


 33歳。

 お小遣いの使いすぎと、妻からお小遣いを減らされた。

 このままではお年玉があげられないと思った。

 俺は泣く泣く趣味だったカードゲームを売った。


 35歳。

 子供達も大きくなって、お年玉の量も増やさなければならなくなった。

 もともと酒もタバコもやっていなかったが、仕事の付き合いの飲み会までも少しずつ断るようになった。

 

 37歳。

 普通にあげるのもおもしろくないと思い、少し変わった趣向を凝らそうと思った。

 お札を折り紙にしていろんなものを作るという本が手に入ったので、早速野口さんにターバンを巻いてみた。

 が、小さすぎて渡した子供はそれに気がつかず、捨てようとしたのであわててとめた。


 38歳。

 小さいのがまずいのならと、今度は千羽鶴ならぬ千円鶴を二羽折ってぽち袋に入れた。

 見たときに子供は喜んだが、病気になった友達がいるからと千羽鶴に混ぜようとした。

 僕はあわてて折り紙で折った鶴を何羽か渡した。


 39歳。

 折り紙は子供達に難しかったかと、今回は何故か持っていた五百円札をお年玉にあげた。

 すぐさまお店で五百円のものを買おうとして、それを使ったら、店員が間違えて九千五百円お釣りを渡してきたので、あわてて普通の五百円玉を渡したらしい。


 40歳。

 今度は懲りずに、額面千円の記念貨幣を混ぜてぽち袋に入れた。

 同じくお店で五百円のものを買おうとしたら、今度はお釣りをもらえなかったので、あわてて普通の五百円玉と交換したらしい、。


 42歳。

 別にお金でなくてもお金の代わりならいいかと、郵便為替で「2951ふくこい円」をぽち袋に入れて子供に渡した。

 しかし、換金方法が分からなかったらしく、ずっと換金されないままだった。


 43歳。

 ならばと今度は小切手で「4649よろしく円」と書いてぽち袋に入れて子供に渡した。

 今度はおもちゃのお金か何かと間違えて遊びかけたので、ぽち袋に入れてその親に換金を頼んだ。


 44歳。

 そういえばいとこのお兄さんのところは旅行好きだと思い、トラベラーズチェックをぽち袋に入れて子供に渡した。

 が、仕事が忙しすぎたらしく、トラベラーズチェックを使う機会が無かったらしい。


 45歳。

 別に現金じゃなくて物でいいんじゃないかと思い、残っていたカードゲームを適当にぽち袋に入れて配った。

 今度は「高校になってカードゲームなんてやらない」とか「ルールが分からない」とか「レアリティが適当すぎる」とか「サポート終わってる」とか言われて反感買った。


 46歳。

 ならばと、大事に取っていた超レアカードをスリーブやプロテクターで厳重保護してぽち袋に入れて配った。

 結局価値も遊び方も分からず、子供たちは投げたりめんこ代わりにしたりしようとした。せめて価値の分かるカードショップかオークションで売ってあげてくれ。

 

 47歳。

 始まりがあるものは終わりがある。そんなことは分かっていたが、まさかこのタイミングで来るとは。

 近年のインフレにより、会社が経営維持できず、倒産してしまった。

 このままではお年玉があげられなくなると、アルバイトをしながら再就職先を探した。


 49歳。

 妻が病気で倒れた。

 子供ができてからも働き続けていた妻だったが、ここに来てその疲れが一気に出たようだ。

 御見舞い代わりにと、アルバイトで稼いだお金をぽち袋にいれ、妻にはじめてのお年玉としてあげた。


 51歳。

 再就職先が見つからず、アルバイトもとうとうやめさせられてしまった。

 これからは貯金を切り崩す生活になりそうだ。


 53歳。

 お年玉をあげていた子供達もすっかり成長し、早くも結婚している子もいる。

 何とかお金を稼ごうと、この歳で株を初始めてみた。

 ヘタをすれば凄い借金をすることになると覚悟して始めたが、思ったより減らなかった代わりに思ったように稼ぐことはできなかった。


 54歳。

 息子も結婚し、子供も生まれたらしい。

 初孫の笑顔のためにも、お年玉はしっかりと渡そう。

 お金で笑顔は買えないといわれるだろうけど、俺にはそのお金が笑顔を買えるお金にする魔法の袋があるのだから。


 55歳。

 最近は子供達にお年玉を渡しても、あまり嬉しそうな顔をしない。

 以前は自分から貰いに来たり、貰ったら凄く嬉しそうな顔をしていた。

 それを生きがいにして今まで生きていたのに、どうしてだろう。

 渡す金額が少ないからだろうか。もう少し、渡す金額を増やしてみよう。


 57歳。

 とうとう病気で倒れてしまった。

 定職にも就けず、アルバイトもすぐやめさせられるこのからだが、いつどのタイミングで悪くなったのか分からない。

 それでもお年玉だけは忘れずに渡そうと、現金きもちを入れたぽち袋を毎年妻に託すことにした。


 59歳。

 妻も頑張っているのだからと、病院で内職をすることにした。

 もちろん内容は、ぽち袋の作成。

 病院の先生から「入院費用を稼ぐためですか?」と聞かれたので「お年玉費用を稼ぐためです」と答えた。

「入院費用を稼ぎなさい」と怒られた。


 61歳。

 妻が定年を迎え、会社を退職した。一応退院したものの、病気はまだきちんと治らない。わずかな退職金を手に、妻は介護生活を始めることになる。

 お年玉にしか興味がなくなった妻が、どうしてここまで私についてきてくれたのかは分からない。

 今はただ、妻に感謝するばかりである。


 63歳。

 お見舞いに来た息子夫婦の子供にお年玉を渡したところ、息子から怒られた。


「お年玉より先に借金を全部返したらどうなの?」


 65歳。

 シルバー人材センターからも投げ出され、とうとう働き口が無くなった。

 借金が何とか返せそうだけど、年金だけで暮らせるだろうか。

 だけどお年玉だけは忘れない。

 お年玉だけはわすれてはならない。


 67歳。

 妻が亡くなり、わしももう病院で寝たきり生活。

 息子夫婦に託したかったお年玉。だけど息子夫婦は断固拒否。

 今年もたくさんのぽち袋を抱えたまま、病室で眠る。


 69歳。

 もはやぽち袋にお金を入れることもできない。

 今年はもうお正月には間に合わないかな。

 正月二日、息子夫婦と一緒に、いとこの姉夫婦、兄夫婦もお見舞いに来た。

 そして、その子供達が次々と何かを取り出し、テーブルに並べた。

 目の前には山盛りのぽち袋。

 その一つを手にとってあけた。

 中身を確認して、もう一つ手に取った。

 あける度に、一年一年を思い出した。

 徐々に目の前が見えなくなっていった。



 たった一枚だけの百円玉。

 ターバンが巻かれた野口さん。

 二羽の千円鶴。

 くしゃくしゃの五百円札。

 きれいに磨かれた千円の記念貨幣。

 2951円と書かれた、権利期限の切れた郵便為替。

 4649円と書かれた、小切手。

 何も書かれていないトラベラーズチェック。

 何十年も前にサポートが終わった、カードゲームの束。

 スリーブとプロテクターに保護された、何十年も前は超高額だったレアカード。

 内職のときに作ったぽち袋。


 そして、はじめて見る最後のぽち袋には、現金とメモ用紙が入っていた。



――これでおじいちゃんの笑顔を、一つください――



 思わず涙を流しながら笑った。

 わしから買えるのは、よぼよぼの泣き顔だけだよと、心の中で呟いた。



 70歳。

 わしは寿命で死んだ。

 最後までぽち袋を握っていた。

 せめて最後のお年玉には、一人ひとりにメッセージを書きたかったが、そんな余裕は無かった。

 死ぬ直前、たくさんの人が病院のベッドの回りにいたのだけは覚えている。

 ちょっと、服を引っ張られていたような気がした。

 でも、もうそんなことはどうでもよかった。

 少し悔いが残ることといえば、今年生まれたひ孫に、お年玉をあげられなかったことか。




 父が死んで最初の正月がやってきた。

 まったく、父は最期までぽち袋を握っているなんて、よっぽどお年玉に執着してたんだな。

 父の墓の前に、もう二十歳を過ぎた息子がぽち袋を置いた。

 その息子の頭をなでながら、妻は息子に言った。

「おじいちゃんも、孫からお年玉を貰うなんて思わなかったでしょうね」

 実際はお年玉とは違うんだけどな。

 寒空の墓参りも終わり、帰ろうとして、ポケットをまさぐった。

 ポケットの中には、いとこの子供に渡す、自分が準備したぽち袋。

 そして、父が最後まで握って離さなかった、ぽち袋。

 一年遅いけれど、今年渡しておこう。


 

 笑顔はお金で買えないと言われるけど、お年玉をもらったときは笑顔になった。

 だから、そんなお金もぽち袋に入れてしまえば、それで笑顔を買うことができる。

 父はそれを一生かけて証明しただろう。

 本当は歌詞にしたかったのですが、長くなったので曲には無理でした。本当はまだ詰め込みたいネタがあったのですが(←

 これで来年お年玉をたくさんの人に渡したくなったら、作者としこの上ない喜びになるんですが、まあそううまくは行きませんか。


 もっと笑いの部分を独特な表現で示せれば、最後の感動シーンとのギャップができるんですが、まだその腕はないみたいです。

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