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友成、一人カテナチオ状態

 試合は動いた。前半にあげた3点のリードは、後半が始まって10分も 経たない内に1点差に詰められ、それ以上にアガーラの守備陣がガリバの攻撃力にのまれていた。同点どころか逆転も時間の問題…の、はずだった。


 ランドールやペリーニョが正確無比のシュートを打ち、コーナーキックでは長身センターバックの長沢がヘディングを叩き込む。フリーキックでも新藤や三川が美しい弧を描き、時に壁の下を鋭く転がす。そうして叩き込まれたシュート数は、1点差に迫られてからの20分間で実に13本。しかもすべて枠に飛んでいる。だが、どれもゴールネットを揺らしても、ゴールマウスには1つも入らなかった。

『ちくしょうっ!!あんな小さい野郎がキーパーなのに、何で入らねえっ!!』

『やつは化け物か。フェイントを入れても全部一手早く読まれてしまう・・・』

 ランドールは地団駄を踏み、ペリーニョは唖然とする。それだけ、友成のセービングは際立っており、176cmの守護神が文字通りガリバ攻撃陣の猛攻に立ちはだかっていた。

「なんで入らないかって?単純な話さ。・・・てめえらが俺よりヘボだからだよ」


 友成は自分の興奮を抑えられないでいた。いや、興奮する体の意のままに従っていた。

(すげえ・・・。あいつらのシュートが全部見える。正直、ゼロ距離で打たれてもやられる気がしねえ・・・)

 そう思っているところに、ランドールが1対1の局面を作ってきた。

『これならどうだっ!!』

 ゼロ距離に位置する友成に対して、意表をつくチップキックで浮かせる。だが、友成の手が届き、はじかれる。それを桐嶋に変わって左サイドバックに入った村主が懸命にクリアする。

『ば、バカなっ!!どうやったら奴から点が取れるんだっ!!』

 ランドールは驚愕する。神がかりのセービングをいとも簡単に連発する友成に、もはや恐怖に近いものを感じていた。



「友成のやつ…、ゾーンかなにか入ったか?すげえな…」

 ベンチの松本コーチはただただ驚くばかりだった。だが今石監督は憮然とした表情を崩さない。

「確かにやつはなんか目覚めたっぽいが、裏を返せば俺達の守備がそれだけザルいって訳だ。一応村主を入れてみたが、焼け石に水だったか…」

 顎をさすりながら策を巡らせる今石監督。いい加減手を打たないとまずいと感じていた。

「反撃すっかね、そろそろ。ミヤケン、園川ソノと小西に急いでアップするよう言ってくれ」

 宮脇コーチに指示を飛ばすと、今石監督はボードを手に、マグネットをいじりながら考えた策を確認した。






(ん?交代か…。やっぱ二人いっぺんか)

 栗栖はチラリとベンチを見た。今石監督が小西と園川に指示を出している。やがて、第4審判とともに二人がピッチサイドに立った。しかし、審判が掲げた交代を示す電光板に驚いた。

(小西さんはツルさんか。…え、ソノさんは、内村さんと!?)

「あー…俺交代か」

 栗栖を尻目に、内村は残念そうにぼやく。

「まー、俺は今日赤点の出来だからな。反撃ムードの邪魔にならあな。じゃな」

 内村は笑顔で交代に向かう。だが栗栖は内村の言葉を真に受けていない。

(嘘だ。この試合も内村さんが攻撃の起点としてで効いてた。なんか訳があるんじゃ…ん?)

 思案する栗栖はふと内村の動きに気づく。

(なんだ?いま右脚…)

 ほんのわずかな、よほどのことがないと気づかない、微妙な違和感。気をとられている栗栖を現実に戻したのは小西の声だった。

「おいクリっ!」

「あっ、はい」

「お前、トップ下気味にポジション上げろ。前線を剣崎、西谷、竹内の3トップにして相手の最終ラインに圧力かけるぞ」

「はいっ」

 小西の伝言に頷き、栗栖は「…今は試合に集中だ」と違和感を胸の奥に押し込んだ。





 後半に猛攻を仕掛けて瞬く間に2点を返したガリバ大阪であったが、それ以降の同点のチャンスを再三再四友成のファインセーブに阻まれ、攻め疲れもあって次第に流れが変わってきた。

 それに追い撃ちをかけるように、猪口が新藤のマンマークについた。まずこれがハマった。


「ほう。チビのくせになかなかやるな」

「嬉しいっすね。現役の日本代表に褒められて」

「ケッ。こいつ…」

 新藤にパスを通すまいと、猪口が必死に食らいついて自由を奪う。この猛攻の間、8割方が新藤が起点となっていたガリバの攻撃は明らかに迫力を失っていた。現状打破のためにガリバの松上監督が施した策は、疲れの見えたペリーニョ、三川に代えて高さのあるFW佐倉とジョーカーの快速MF佐々原を入れたぐらい。穴ともいえた左サイドバック(アガーラから見て右サイド)は、言ってしまえばほったらかしだった。控えには守備に定評のある選手はいたが、サイドバックに欠かせない攻撃参加の能力は春日を超える選手はいない。反撃に備えたいが、備えれば備えればで同点に持って行ける攻撃力はなくなってしまう。完全に手詰まりであった。

 この状況に今石監督は、小西と園川の同時投入から、選手全体の布陣を代えた。

 まず今の状況を整理すると、最終ラインは左から村主、園川、チョン、佐久間。チョンとコンビを組んでいた猪口は一列前に上がって、内村がいたポジションで新藤を押さえ込む。小西は猪口とのダブルボランチとなり、最終ラインと最前線の繋ぎ役、いわゆるリンクマンを担う。それに合わせて栗栖はトップ下のようなポジションをとり、最前線は中央に剣崎、左翼に西谷、右翼に竹内を横一列に並べる3トップに変わった。

「友成ばっか目立ってたまるかい!俺がトドメ刺してやらあ。クリ、どんどんいいパスよこせよっ!」

「いいやっ!!俺が派手に復帰戦を飾るんだ!クリ、左から崩すぞ!」

「むこうは弱点に手をつけてない…。右から攻めよう、栗栖!」

 剣崎、西谷、竹内の3人が、いずれもストライカーとしての本性を出してパスを要求する。栗栖も刺激を受け、笑みを浮かべる。

「はいはい。前向きに考えるよ。そんかわり、俺も狙えたら狙うかんな」



 試合はロスタイムに入り、時間は3分と表示された。



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