表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/100

雑誌の特集記事

小説の世界の中に登場するスポーツ雑誌に、玉川記者が寄稿したアガーラ和歌山の記事です。正直つたないですが、作者のサッカーに対する疑問を書いてみたつもりです。

~アガーラ和歌山の戦いぶりが問う、「魅せる」重要性~(玉川重樹)


 快進撃。


 今石博明新監督が率いたJ2のアガーラ和歌山の戦いぶりはそう表現されてしかるべきだ。リーグ戦の最終成績は25勝3分14敗の勝ち点78で3位。得失点差は総得点103に対して総失点56のプラス47。ライセンスの関係でJ1昇格プレーオフは出場できなかったが、仮に出場できていたら・・・と惜しまれた。


 躍進の要因は言うまでも攻撃力だろう。リーグ得点王でエースストライカーの剣崎龍一を筆頭に、ゴールもアシストも量産した竹内俊也、オーストラリアからの逆輸入巨人鶴岡智之ら多種多彩でそれぞれに必殺技を持つFWの陣容はJ1どころかアジアの各リーグと比べてもなんら遜色ない。脇を固めるパサーも奇想天外な内村宏一、正確無比のレフティー栗栖将人が良質のパスで血路を開き、多くのゴールを演出してきた。何より和歌山の最大の特徴はゴール前にキーパーすら顔を出すアタッキングサードにおける波状攻撃だ。ボールポゼッション率自体は平均的ながら、セカンドボール奪取率と一試合平均のシュート数が9本前後というシュート意識の高さが多くのゴールに襲い掛かり、こじ開けた。リーグで最も小柄な守護神、友成哲也も当たり前のように好セーブを連発したことも忘れてはならない。


 しかし、アガーラ和歌山の戦いで最も褒められる点は「90分間攻め続ける姿勢を保っていること」だろう。無論全てのチームは勝利を目指して全力を注いでいるのだが、和歌山の場合はその度合いが皆無と言っていいくらいなかったのだ。勝っている時の常套手段である時間稼ぎのボールキープがほとんど無く、ライン際に追い詰められたら平気で外に出し、相手にスローインを促す。面白いのは被ファウル数の少なさで、和歌山の選手はよほどの、それこそ一発レッドクラスのタックルを受けない限りは倒れない。つまり「時計も人も動き続け」るのである。そこには今石監督の哲学があった。


「粘っこくボールをキープしたり、大げさに倒れて試合を止めたりして時間を稼ぐ。勝つことが大事な勝負事には重要な要素だが、スタジアムに来ているお客さんは何に対して90分間の金を払っているかだよ。サッカー選手は何で一般人から金をもらっているんだ?サッカーの試合を見せて、でしょ。リードしているからといって、なんでちまちました時間稼ぎを見せなきゃいけないんだ?焼肉食べ放題なのに野菜しか食べられない時間要らないでしょ」


 ボールキープの技術や老獪な試合運びもサッカー選手として重要な資質だ。今石監督もそれが重要であることは承知している。している上でそうした試合の進め方を極端に嫌う。


「静岡とか埼玉とかのサッカーどころならまだしも、和歌山はサッカーは全国でも最低レベル。そんな玄人好みのプレーを褒められる域にまで素人の目が肥えてない。『常に攻め続けてゴールをどんどん奪う。』わかりやすい結果とプレーをする方がチームに関心を持ってもらえる。Jリーグが技術の見本市じゃなくてお金をとる興行ならば、素人受けサッカーをするべきだと思ってこの戦いを続けたんです」


 Jリーグは興行。その言葉を聴くと頷ける要素はある。

 プロとして存続するためには勝利を重ね結果を残すことが大切である一方で、勝ち点を意識するあまり露骨な遅延行為で時間を稼ぐという手法は、日本人の気質からして潔くは移らない。ましてやサッカーは時間中は状況が千変万化し数字に残りにくい要素が多い。より多くのゴールを重ね、より長い時間敵陣でプレーする。目に見える数字や状況を作るのも重要なのだ。すべてのプロスポーツにおいて勝利とエンターテイメント性は二立相反する永遠のテーマであるが、スタジアムをより多くの観衆で埋めるためにはビギナー、ライト層の人々を引き込めるかにかかってくる。それゆえにわかりやすい結果を目指し続けた和歌山のサッカーはひとつの正解だといえる。事実、今シーズンの観客動員数は本拠地の紀三井寺陸上競技場を使えなかったにもかかわらず、観客動員数に変動が無い上にサポータークラブの新規会員数は前年比の33%増しだと言う。「誰が見てもわかるサッカー」のひとつの成果といえるだろう。

 勝利は応援してくれるサポーター、観衆へのプレゼントであるが最高とは限らないし、悪く言えば雑な和歌山のサッカーは玄人受けはしない。それでも土地柄に合わせたサッカーをすることは、リーグの理念である「地域密着」に重ね合わせた際に、ひとつの回答としてなりえるのではないか。「魅せることに特化するのもまたサッカー」だと。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ