試合後の余韻
今回は少し短めです
天翔杯3回戦で実現した尾道とのラバーマッチは、過去2試合と同じゴールラッシュとなったが、大きな違いはそれが一方的だったということだ。
ピッチに整列し、レフェリーの笛が吹かれる。両チームの選手たちは握手と言葉を交わす。
同じように、ベンチ前でも今石、水沢両監督が握手を交わしていた。
そこで水沢監督は嶋に対する作戦を、単刀直入に聞いてみた。
「嶋の退場、あれは想定内か?」
「当然ですよ。あんたが以前面倒見てた佐久間と同じ匂いがしたんでね。佐久間が一番嫌がることをあいつにしたまでですよ」
包み隠さず答える年下の指揮官に少し眉をひそませながら、鼻で笑って見せた。
「…。つくづくライセンスが出なくて、よかったと思わせるチームになっているな。プレーオフでは当たりたくないよ」
「まあ、お宅らと違って、こっちは来シーズンの明暗がかかっているんでね。昇格を目指すチームには悪いが、椅子をひとつ無駄にさせてもらいますよ」
今石監督は不敵な笑みを見せた。
そして二人は別れた。ふと、水沢監督はもうひとつの質問を思いつき、聞いた。
「今石監督」
「はい?」
「若い選手をあそこまでためらい無く使えるのはなぜだ?ユースから指導し、力量を知っているからなのか?確かに、彼らは才能のある選手たちだが…」
「う~ん…。まあ、一ケタの背番号あげてるからしょうがないでしょう」
「な、何?」
「高校野球でも、背番号が一ケタの選手が出ないとカッコつかんでしょ。それにね、俺の持論じゃ『強さが長持ちするチームは、スタメンに一ケタナンバーがいる』ってのがあるんで」
「そ、そんな理由でか?」
「そうっすよ。あいつらに長期政権を作ってもらいたいからこそ、極力一ケタや若い番号を振ったんですよ。やっぱ、スポーツやってるなら一ケタ番号は誇れるものじゃないとね」
今石監督はそういって振り返った。水沢監督は苦笑するしかなかったが、共感できる部分があった。
(一ケタが出ないと、カッコがつかない、か。なるほど、言い得て妙なりでもあるな。確かに、強いチームほど、イレブンの番号は若い選手が多いな。…次はこうは行かんぞ)
「やあ、今日もまたやられたね」
「お、野口じゃん」
ピッチ上では、野口と栗栖が会話していた。
「尾道ユースから昇格してきたのがお前だけとはねえ。まあ俺たちが特殊なのかも知んないけど」
「まあ、6人はあんまり無いからな。それにしても、剣崎はずいぶん成長したよな」
「そうじゃなきゃやってらんねえんだよ」
剣崎について感心する野口に、丁度剣崎が声をかけてきた。
「あん時は俺がぶちこんでもよかったんだけどよ。おめーが邪魔で打てなかったから鶴さんに譲ったんだよ」
まるで『お前のせいで2点目をとり損ねたんだ』という言い様である。膨れっ面をする理由がなんとも剣崎らしく、傍らで栗栖が苦笑する。野口はひとつ聞いてみた。
「なあ剣崎。お前来年はどうするんだ?今年の出来なら、いろんなクラブからオファーがあると思うけど…」
「けっ。くだらねえ事聞くんじゃねえよ。俺は来年どころか死ぬまでこのクラブにいるつもりだ」
「死ぬまでって…。そんな大げさな」
「マジで言ってんだよ。俺は日本で一番最初にJ1通算200ゴールを決める予定だからな。俺を拾ってくれたクラブで歴史刻んでやるのが、俺の恩返しだ」
「どんなオファーがあってもか?」
「たりめえだ。俺がこのクラブからいなくなるときは、死ぬときだけだ」
すごいクラブ愛だなと感心する野口。最後にもうひとつ聞いてみた。
「あのさあ、なんでお前そこまでゴールにこだわるんだ」
剣崎は憮然とした表情で言い切った。
「テクニックがねえんだからしょうがねえだろ。それに9番つけてるフォワードが点を欲張んなきゃだめだろ。9番はエースストライカーの番号だろ!?俺はできることを必死にやってるだけだぜ」
できることを必死にやる…。
だからこそ、こいつはすごい成長を遂げた。
同い年のフォワードは、そう感じた。
剣崎もまた、同い年のフォワードにこうエールを送った。
「おめえもフォワードだったらもっとゴール狙おうぜっ!」
引き上げる剣崎は、栗栖につぶやいた
「はは。なんか、敵に砂糖を送っちまったぜ」
「ばーか。それを言うなら塩だろ」




