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開幕戦決着

 豪快なヘディングシュートで、先制点を叩き込んだ剣崎に栗栖が飛びつき、チョンや村主も駆け寄って祝福する。その輪には内村も加わった。

「いやあ剣崎助かったわ、ヘディング決めてくれて俺のミス帳消しにしてくれて」

「なあに、あんぐらいちょろいもんですよ。これからも俺にどんどんパス下さいよっ!」

 賛辞を贈る内村に、剣崎は上機嫌だった。

 遠巻きに輪を見ていた竹内も、剣崎のゴールに圧倒されていた。

「相変わらずすごいな、あいつは。内村さんのミスを、最高の形でフォローするなんてさ」

「ちげーよ」

 感心する竹内に、西谷が不機嫌そうにぼやく。

「あの野郎、俺達を完全にダシにしたんだよ」

「えっ?」

「考えてみろよ。普通ワンツーパス出すときに、声かけるか?」「うーん、なくはないけど…考えすぎじゃあ」

「いーや。あいつはまず味方を欺いた。クロス上げるとき、全然俺を見てなかった」


 敵の目を引くためにわざと大声を出し、結果的にフリーとなっていた剣崎にクロスを上げた。相手に錯覚させるため、剣崎が届くかどうかという雑なボールを通したと、西谷は仮説を立てた。そして西谷は、最後に付け加えた。

「内村さんもすげえけど、剣崎もすげえな」




 一方、奈良の背番号9、渡辺は屈辱感でいっぱいだった。 名もない新人がゴールを決めた一方で、実績十分の自分は、ルーキーのマンマークに手こずり、シュートすらまともに打てていない。

 苛立ちは募る一方だった。

(このガキが…。俺に恥をかかせやがって…)


 渡辺は、自分を執拗に張り付く猪口を睨みつけた。


 レフェリーのホイッスルで試合が再開された。後半10分という時間帯に試合が動き、両者のサッカーがよりアグレッシブになった。ホームの和歌山は追加点、奈良は同点ゴールを狙って攻勢に出る。

「絶対に守りに入るなっ!最後まで攻めまくれっ!!」

 タッチライン付近から、今石が選手に激を飛ばす。

「敵は前がかりだ、裏をしっかり取りにいけ」

 こちら奈良の曽我部監督も、再三指示を飛ばし、立て続けに攻撃的な選手を投入する。

「俺もそろそろ動くか…キリっ、ツルっ」

 奈良の慌てたベンチワークを見て、今石もカードを切った。


 西谷が鶴岡と、小西が桐島と交代し、鶴岡はそのまま2トップの一角に入り、桐島は左サイドハーフにつき、栗栖が中央にポジションを変えた。 試合展開はほとんど五分。この状況を打破しようと、渡辺は奮闘したが実らない。キープしようにも、自分へのパスは猪口にカットされ、ダイレクトシュートを試みても万全の体勢で打てないために、ボールは枠を捉えられない。

 時間を重ねるごとに渡辺は一層不利になる。これだけ激しいぶつかり合いをしているにも関わらず、消耗は自分のほうが著しかった。

 元来、渡辺はプライド…というより、虚栄心の固まりのような性格で、非エリートと言っていい猪口に完封されていることに、納得できないでいた。

 今日、何度目かわからないボールキープ。だが、相変わらず猪口が体を入れ、自由を許さない。ついに渡辺の集中力が切れた。

「ウゼェんだよ、このガキャっ」

 激昂した渡辺は、右ひじを猪口目掛けて突き出した。とっさの行動に猪口は対応仕切れず、もろに鼻にもらった。

 ベキという音が聞こえたときは、もう遅かった。仰向けに倒れた猪口は、鼻を抑えながら悶絶。レフェリーが笛を吹き鳴らして駆け付け、和歌山ベンチからも担架とドクターが飛び出した。

立ち尽くしている渡辺には、レッドカードが提示された。唖然としているのは曽我部監督も同じで、

「何をやっとるんだ…」

と、頭を抱えていた。猪口の出血は止まらず、ドクターストップ。慌てて園川がアップをすませて交代した。




「決まったなこりゃ。ここでこんなポカやらかすとはねぇ」


 記者席で玉川がつぶやいた。

「マンマークぐらいであんなにいらつくもんかねぇ。元代表が聞いて呆れるぜ」


 突き放す玉川。浜田も渡辺に同情しつつ、玉川に同調する。


「空回り、ってことかしら。曽我部監督はどうするんでしょう」

「どうしようもないさ。ビハインドの状況でカードも使いきった後だからな。ピッチの選手がどうまとまるかしかないね」



 この浮足立った奈良に、とどめを刺したのは、またも内村だった。

 先制点の時と同じく、友成からボールをもらうと、今度は中央に切れ込んでオーバーラップを仕掛けた。途中に栗栖とのワンツーを経由したが、選手を抜くたびにギアを上げ、あれよあれよの間にペナルティーエリアまで侵入した。

 奈良のセンターバック、アンドレと野口が二人がかりで抑えにかかったが、

「馬鹿だねえ。二人とも同じとこ来てどおするよ」

と、あざ笑いながら、並走していた竹内にヒールパス。どフリーの竹内は、冷静にゴール左隅にパスを出すかのように押し込み、ネットを揺らした。

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