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ロスタイムの追い討ち

「ん?嶋のやつ、友成を睨んでるな」

「ほー、あいつもなんかしといたのか。こりゃ、すぐにチャンスかな」

 松本コーチと今石監督のPK直後のやりとりである。標的とされた嶋に危機は迫っていた…という言い方でいいのかはわからない。


 ともあれ、なんとかPKをしのぎ、和歌山は残りの時間も攻めに転ずる。だが、尾道の選手たちも怯むことなく、陣形をコンパクトに保つ。そしてロスタイム1分と表示されたころ、嶋がパスカットでボールを奪った。

(あの野郎…俺の才能見せつけてやる!)

 嶋の頭の中は、友成への復讐心でいっぱいだった。そこにこの試合中、ずっと嶋につきっきりだった江川が、またもボールを奪いにかかる。

「ちっ!邪魔くせえんだよてめえ」

「そういってくれると、僕的にはうれしいっす。これしか能が無いんで」

 嶋はとにかく不愉快だった。自分ほどのテクニックがありながら、まるで帰宅部のようなか弱い体格の選手に、ここまでいいようにマークされていることに。何度振り切ろうとしても、江川は常に一歩早く動いている。フェイントを入れようが、走り出してもだ。そして、また笛が鳴った。

 この瞬間、嶋の堪忍袋の尾がちぎれた。

 江川がファールをとられ、尾道ボールでの試合再開である。周りから見れば嶋の粘り勝ちである。

 だが、嶋にとってもうどうでもよかった。

「こんの…。ぃい加減にしろやあっ!!」

 嶋は無意識のうちに、渾身の裏拳を江川のみぞおちに叩き込んでいた。


 甲高いホイッスルが鳴り響き、主審が駆け寄って嶋の正面に立つ。足元には悶絶する江川。主審が嶋を叱責した。

「自分が何をしたか、わかっているね!ピッチの外で反省しなさい!」

 そして高々とレッドカードを掲げた。



「江川をつけたのは…、まさかこういうことなのか?今石監督」

 あっけにとられる尾道ベンチで、水沢監督はふんぞり返っている今石監督を見た。

「確かに、嶋が未熟がゆえに起きた結果だが…。これを作戦と呼んでいいのだろうか」


「水沢監督、俺の采配をどう思うだろうねえ」

「まあ、正直気持ちはよくないだろうな。コーチの俺ですら、あんまりいい気分じゃない」

 一方の和歌山のベンチ。今石監督は水沢監督からの視線に気づき、バツが悪そうにつぶやいた。そして、松本コーチの言葉には苦笑いを浮かべるだけだった。そして自虐的にぼやいた。

「選手としてはろくに活躍できず、指導者としても旧時代的なやり方でしごき、指揮官としても才能に頼りきったサッカーしかできない…。だからこんな作戦しか出来ねえ。…ほんとダメ監督だな」

「だが、選手に対して全幅の信頼を置き、勝てば選手をたたえ、負ければ責任を背負い込む。何より、一度ほれた才能をとことん信じきる。…だから選手はお前の無茶についてくるんだよ。今石」

 松本コーチのフォローに、今石監督はただ苦笑するだけだった。


 嶋の退場というアクシデントで、和歌山にフリーキックが与えられた。ロスタイムの1分はすでに経過しているが、このフリーキックをラストプレーとするようである。

 キッカーの位置はセンターサークルに、ちょうど尾道ゴール側の外円で、距離にして40メートル以上はある。ボールの側に立つのは栗栖と朴。精度で行けば栗栖だろうが、キーパーの松井は朴が蹴ると考えていた。実際、そうなった。駆け出した栗栖がそのままボールをスルーすると、ついで走ってきた朴が思い切り左足を振りぬいた。


 だが、その瞬間、スタジアムが凍りついた。


 朴の渾身の一撃は、壁の上を越えると、そのままうねりを上げてどんどん伸びていく。そしてそのまま失速することなく、ゴールに突き刺さったのである。

「うそだろ…。あんな距離から弾丸ライナーでくるのかよ…」


 同時に前半終了のホイッスルが鳴った。だが、和歌山の選手たちが若い尾道イレブンに与えた衝撃は強烈で、誰もが下を向いて引き上げてきた。水沢監督も渋い表情でロッカールームに消えた。


「よしっ!お前らよくやった。2-0で折り返すなんざ上出来すぎらあな」

 引き上げてきた和歌山イレブンを、今石監督は破顔一笑でたたえて迎えた。

「ただし、だ。あいつらの中で退場した嶋は攻撃的なポジションであり、人数が減ったとはいえ向こうの守備力が落ちたわけじゃねえ。向こうは戦い方がはっきりして前半以上にきっちりとしたブロックを敷いてくるはずだ。江川に代えて小西入れるから、じっくり揺さぶっていけ」

 そしてすぐに表情を引き締めると、すぐさま攻撃のプランを指示した。その後、二人の選手に声をかけた。

「江川、今日は俺の無茶によく答えてくれた。…こんな嫌われるような役割を全うしてくれて、感謝するぜ」

「何言ってんですか監督。僕みたいな選手にしっかりと仕事を与えてくれて、僕のほうこそ感謝です。またこういう役割はどんどん僕にまわしてください」

「それと、友成よ。約束通り、2点差着いたからここまでな」

「へいへい。だったら初めから使うなって思うけどな」

 江川をねぎらい、友成の肩をたたいた後、今石監督は全員に叫んだ。


「さあお前ら。今日もきっちり勝ってこいやっ!まだまだJ2をめちゃくちゃにするぞ」


こんな内容で、チームを貸してくれている沼田さんがどう思うか心配。まさか絶縁されないだろうか…(汗)

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