感嘆したりのまれたり
徳島とのダービーに快勝したアガーラ和歌山は、中3日で天翔杯3回戦を迎える。
会場は神戸ウイングスタジアム。J1ヴォイス神戸のホームグラウンドであり、長居スタジアムのような間借りと言うよりは、中立地開催でこうなったというほうが正しい。対戦相手は何の因果か、尾道である。
リーグ戦は1勝1敗。前回のホームゲームでは逆転負けを喫した。ただし、その後数試合を経たリーグ戦の順位は和歌山が上。昇格圏クラブとの対戦をほとんど終えている和歌山と、残っている尾道とでは勝ち点のペース配分が出てもまあ不思議ではない。ただ、残りのリーグ戦を考えたとき、両チームともメンバーの変更はあると考えたほうがいい。
「そろそろ剣崎とか竹内を休ませたいんだがねえ…」
宮脇コーチが今石監督に進言する。ただ、監督の顔にはそれを了承する意志を感じない。
「まあ、そいつは難しいな。今のうちには結果が必要だからな。ここまできたなら、メンバーは厳選したほうがいい」
「だよな。ただベテランは休めた方がいい。あと、フィジコの報告じゃあ内村はこの試合もアウトだと」
「…それがきついわな。まあ、大森とか江川が良さそうだし、もうちょっと考えてみっか」
今石は、直近の尾道のリーグ戦のDVDを見ていた。ここにきて若い選手が戦力として結果を残しはじめた尾道は、自分から見て若い選手だけでも戦えると感じていた。ライセンスを獲得し、昇格の可能性を残すだけに、港や山田らベテラン勢を休養に回すことも有り得る。ただ、そうなったとしたら好都合この上ない。同じ若さなら、場数を踏んでいる自分たちの方が有利だからだ。
「向こうは、何人休ませるんだろうな」
映像に映し出される尾道の選手を見ながら、今石監督はほくそ笑んだ。
時間そのまま、ところ変わって尾道市。ジェミルダート尾道のクラブハウス。 尾道の水沢監督も同じように、メンバー選考に頭を悩ませていた。2回戦では静岡県代表の駿河水産大に勝利したが、あの時と違って間隔が短くすぐにリーグ戦が控えている。ただでさえベテラン勢に疲労の色が目立ちはじめているなか、メンバーを入れ替えて臨みたいところだが、踏み切れない理由があった。
「若手中心で行きたいが、個々の個性が強くなりすぎる。…態度で引っ張る選手がいないんだよな」
年齢で言えば鈴木だったり、リーグ戦の成績では金田や今村らだったりと候補はいるが、いま一つ決め手を欠く。
「…しかし、高橋や有川の力を借りるわけにもいかん。“困ったときの…”の繰り返しでは若手も成長できない。少し博打だが、彼を試してみるか」
そして10日午後7時、神戸ウイングスタジアム。
中立地開催だが、頻繁に乗り換えが必要な和歌山県民、和歌山市民に対して、ほぼ一本道の尾道市民の方が便がいいせいか、ジェミルダート側の歓声が些か大きく聞こえた。
スタメン
アガーラ和歌山
GK20友成哲也
DF26朴康信
DF5大森優作
DF11佐久間翔
DF35毛利新太郎
MF4江川樹
MF2猪口太一
MF8栗栖将人
MF16竹内俊也
FW9剣崎龍一
FW18鶴岡智之
ジェミルダート尾道
GK23松井正武
DF21橋本俊二
DF25鈴木仁
DF3山吉貴則
DF26深田光平
MF13中村純
MF7今村友来
MF10金田正和
MF29嶋照平
FW16有川貴義
FW24御野輝
両チームとも、とにかく若い布陣だった。なにせ平均年齢が、和歌山、尾道ともに21で最年長が鈴木の29である。サポーターも若さあふれるフレッシュな戦いを期待した。
だが、試合が始まると、明確に差が出た。
「くそっ、こいつらどんどん来やがる…」
「落ち着け!ラインを下げるな」
舌打ちする橋本に、松井が指示を出す。しかし、今季初出場の松井もまた、和歌山の迫力にひるみつつあった。
「づおりゃあっ!!」
今も剣崎の強烈な弾丸ミドルがクロスバーを叩き、肝を冷やしたところだ。
試合開始早々、ボールを奪われてからというものの、尾道は敵陣に嶋を残して自陣でのディフェンスに忙殺されていた。右からは竹内が駆け上がり、左からは栗栖から高精度のパスが出る。中央で待ち構える剣崎がヘディングやミドルでゴールを脅かす。さらには朴のロングフィードを、制空権を確保している鶴岡が絡む。オールレンジで繰り出される猛攻は圧巻の一言に尽きた。
「…すげえなあ」
尾道のベンチで戦況を見守るFWの野口はふとつぶやいた。隣に座るMFの茅野が、少しふて腐れたようにぼやく。同い年がピッチで躍動する姿は、正直見ていて気分は良くない。
「…そりゃあ、あんだけ試合出て結果残してりゃな。」
「そりゃそうだけどさ。ユースの時から対戦してるから、余計にな」
「ああな。そん時からあいつら凄かったのかよ」
「まあ、去年はリーグもカップも優勝したからな。でも、プロになっても自分を貫けるって、やっぱ尊敬するな」
お前はそうかもしれないが、俺は悔しくて仕方ないね。そんな表情をして茅野は足を組んだ。
(ウサやゲンさんから聞いていたが…、こいつら去年まで高校生だったんだろ!?成長早すぎだろ。なんでこんな堂々と出来てんだよ…)
自分自身はJ1清水で若かりし時期を過ごしたが、それでも1年目からここまで堂々とプレーした選手は相手にもチームメイトにもいなかった。そんな選手を、まさかJ2で見るとは思ってもみなかった。
「だが、今までのシュート4本は全部ミドル。焦りが出てる証拠だ。冷静にシュートコースを消させればいい。俺自信が落ちつかねえとな」
そうつぶやいて、山本はどっしりと構える。
同じように、和歌山の猛攻に耐えながら、懸命に気持ちを高めている選手がいた。




