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先制点

 ロッカールームに、ハーフタイム終了のブザーが鳴り響き、選手たちはピッチに戻ってきた。

 何事もないように、すたすたとゴールマウスに向かう友成を見て、剣崎は歯軋りをする。

「っの野郎~、俺の事見下しやがって~」

「ユースのときからああいうことはあったでしょ?ゴールっていう結果出して見返しゃいいんだよ」

 栗栖の一言に、剣崎は目の色を変え、鼻から大きな息を吐いた。

「わかってるよっ、クリ。というわけで、後半も俺にどんどんパスを出してくれよっ」

 気合の雄たけびを上げながら、剣崎は走っていった。

「相変わらずバカのまんまだな。まあ、そういうストライカーは頼もしいけどね」


「おっす、友ちん」

「・・・あ?」

 声をかけた内村に対して、友成はガン付け返す。

「つれないな~。チームメートに対してにらむことないじゃん」

「だったら、その『友ちん』って呼び方はやめろ。胸クソ悪い」

 友成は、内村の実力を認めながら、その言動が嫌いだった。特にチームメートをあだ名で呼ぶとき、女性芸能人の愛称を使うことに。

「そういうなよ、友ちん。この方が呼びやすいんだから」

「そうかい。一度でいいから、公衆の面前であんたを半殺しにしたいね、今」

 殺意すら感じる言葉に、内村はすねながら話し続ける。

「こういっちゃあなんだけどさ、お前と仲の悪い剣崎、身体能力はどんな感じ?」

「はあ?」

 質問の意味がわからず、友成は唖然とする。

「なんで俺に聞く。本人に聞けよ」

「そうしたいのは山々なんだけどさ・・・。頭が悪いのは間違いないから、聞いたところでまともな答え返ってこないだろ」

「正論だ。で、何が聞きたい?」

「うーん、ジャンプ力とヘディングのうまさ。それさえわかればいい」

「・・・。あんま言いたくはないが、まああんたがドイツで見てきた選手とは・・・比べ物にならんな。2部どころか1部にもなかなかいない」

「おー、思った以上に高評価だね。本人に言ったことないだろ」

 大げさに驚く内村に対し、友成は舌打ちする。

「まあな。気にいらねえが、実力は確かだ」

「本人の前じゃ、死んでも言わないほめ言葉だね」

「生まれ変わってもな。・・・・あ」

 言い終わったと同時に、友成はふと思いついたことを聞く。

「なんでそんなこと聞くんだあんた?」

「ん~?2点お膳立てして、俺がマンオブザマッチになりたいからね」

 にやりと笑って、内村はポジションに戻っていった。

 その後姿を見て、友成は首をかしげた。

「剣崎だけで2点・・・なんて面じゃなかったな。もう一人はだれに取らすんだ?」

その直後、後半開始のホイッスルが鳴った。


「前半は和歌山のペースだったな。戦い方は変える必要はないな」

 記者席では、玉川と浜田が前半の戦いを講評していた。

「でも、こういうときってカウンター食らうともろいですよね。それの備えがしっかりしてないと」

「まあな。でも、それにはチョンがしっかり目を光らせてるし、奈良が動かない限り和歌山が失点する可能性は低いな」

 つまり、今の奈良にとって、状況を打開するには選手を交代することが、最良の策だというのが記者2人の見方だった。

「浜ちゃん。こういうとき、曽我部監督って誰代える?」

 去年までは和歌山の監督だった、曽我部監督への取材経験が多い浜田はうなづきながら考える。

「う~ん・・・。曽我部さんって、ベテランなんですけど、結構実績重視なところがあるんですよね。だから、元日本代表の渡辺選手とか、オリンピック代表候補の高橋選手はまず代えません。代えるとしたら・・・。一番実績の少ない久保選手じゃないですか」

「へー。だとしたら、和歌山にもチャンスあるな。今日の試合じゃ、その久保が結構基点になってるしな」







「奈良ユナイテッド、背番号8番、久保に代わり、背番号26番、パウロ・シウバ選手が入ります」

 交代のアナウンスに、今石はつぶやいた。

「先に動いたか…。まあ、ほとんど試合を動かせてないからな。しかし、久保を入れ替えるあたり、変わってねえな」

同時に今石は、自分の読み通りであることにほくそ笑んだ。

真意が気になった和泉コーチが尋ねる。

「久保の交代、読んでたんですか?」

「あのおっさんは、前々から実績を重視する傾向が強くてな。選手の獲得や起用は、まず肩書が最優先でくる。去年うちがボロボロだったのは、元日本代表のポンコツばっかり呼んだことも一因さ」

「あ、だから高橋と渡辺は代えないんですね」

「高橋は五輪代表、渡辺は元A代表、特に高橋は一昨年和歌山で一緒になってる。エリートに対しては、妙な親心を見せてしまうのさ。今入ったパウロも、U−18のブラジル代表だったらしいし」



 しかし、過去であるとはいえ、代表に選ばれる程の実力者であることに変わりはない。事実、パウロは挨拶がわりに、素晴らしいパフォーマンスを披露した。

右サイドでボールをもらうと、爆発的なダッシュで、対峙する村主をあっさりかわしてペナルティーエリアへ切れ込んできたのだ。そうはさせじと、川久保がコースをふさぎにかかるが、「じっとしてろっ!!邪魔だっ!!」と友成に一喝されたじろぐ。

「ヨシッ!モラッタッ!」

 川久保の動きが止まったのをチャンスと見たパウロは、迷いなくシュートを放ったのだか、

「ナニッ?!」

蹴った方向には既に友成が反応しており、シュートはがっちりと抱え込まれてしまった。


 頭を抱えて悔しがるパウロを、友成はしてやったりと鼻で笑った。

「ナイスセーブだ、友成」

「すまない、助かった」

 川久保と村主が手をたたきながら友成を称賛する。が、友成は安堵の表情を浮かべる先輩二人を一喝した。

「あっさり抜かれてんじゃねえよ、ボケェッ!この状況で入ってきたブラジル人がどんなタイプがイメージしてたのかよっ」

言いながら、村主を指差して説教する。

「サイドバックのくせに、一対一で簡単に突破されんで下さいよ。飛脚を見守る道祖神じゃないんだから」

 あまりの迫力に、村主は思わず「あ、ごめん」と尻込みした。

 友成は川久保にも指示をだす。

「シュートコース塞ぐのはいいけど、あんまし俺の前に立たないで下さい。蹴り足が見えなくなるんで」

「あ、ああ。分かった」

「一対一は全部俺が責任持つんで、あんたらはいい体勢でシュートを打たせないか、コースを限定させて下さい」


 ゴールキックでの試合再開。友成は、どこに蹴ろうか考えていた。その時に、右サイドバックの内村と目があった。内村の目は「ちょうだい」と訴えていた。


「お手並み拝見だ」とつぶやきながら、友成は内村にパスを出した。

 受け取った内村は、そのままサイドを駆け上がる。当然、敵も黙って突破を許す気はない。対峙する高橋が奪いにかかり、竹内が内村のフォローに入る。その時だった。


「竹内っ!」

「あっ、はいっ」

内村が危機迫った表情で、竹内を見た。竹内も思わず返事をする。だが、内村の顔は急にほころび、ペロッと舌を出し、

「ごめん。呼んだだけ」

と、呆気に取られた敵と味方を抜き去っていった。


 内村は、そのままゴール前に駆け上がる。絶好の状態で味方の位置を見る。手前には西谷、奥には剣崎が、それぞれディフェンダーに付かれながら待っていた。

 「あっちゃん、行くぞっ!」


 内村は再び味方の名前を口にだし、クロスボールを蹴り上げた。だが、ボールはジャンプした西谷の、遥か上を通過。相手キーパーの伊藤も「こりゃミスキックか」と真上を通過するボールを見送っていた。

 だが、剣崎は高々と跳躍し、ヘディングの体勢に入っていた。角度はほとんどない、ゴールのほぼ真横と言っていい位置だった。 呆気に取られる伊藤。

(その位置から来るのか?無理に…)

「決めりゃいいんだよっ!!」

 伊藤の心の声に対し、剣崎は渾身のヘディングシュートを放つ。伊藤の足元でバウンドしたボールは、クロスバーにたたき付けられて、ゴールの中に転がった。


 一瞬の沈黙の後、レフェリーのホイッスルが鳴り響き、ゴール裏の和歌山サポーターから歓声が起きた。剣崎はそのままサポーターの下へ駆け出し、

「どうだオラァッ!」

と、拳を作って右腕を振り上げた。

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