和歌山対尾道マッチレポート
Jペーパーに記載されたかの試合の選評です
〜リベンジ成る。長居に響く双子の凱歌〜(浜田友美)
試合終了のホイッスルと同時に、和歌山の選手たちはピッチを叩き、尾道の選手たちは天を仰いだ。プレーオフ圏外同士とは思えない激闘を制したのは、「前回の屈辱を晴らしたかった」(山吉)尾道だった。
ただ、尾道にとって楽な戦いではなかった。この日初コンビとなった内村と栗栖の攻撃的なダブルボランチ、とりわけ内村のタクトに「ものの見事に振り回され」(山田)、さらには注意していた右サイドではなく、西谷、桐嶋の左サイドに自由を許し、警戒していた先制点を献上していまう。しかし、この日のために非公開練習で仕込んできた3トップが見事な連携で同点に。「前半のうちに追いつけたので、後半を自然体で入れた」と有川が言うように、尾道はとことん食らいついた。
剣崎に強烈なミドルを叩き込まれて再びリードを奪われたが、「明暗分けた」と今石監督が悔やんだように、キラー荒川と復帰戦となった高橋が躍動。対して和歌山は先手を打ちつづけたが、結果として勇み足となり、生じた隙を両ベテランに突かれて逆転負けを許した。
「これで心置きなく昇格できる」と胸を撫で下ろした荒川。長居の夜空に尾道の凱歌が上がった。
採点・寸評
和歌山
20 友成哲也 5・5
超人的なセーブ光るも尾道にいいようにあしらわれた
2 猪口太一 5・5
出来自体はよかっただけに高橋にかわされたのは悔やまれる
5 大森優作 6
制空権をキープ。コーナーキックの守備で持ち味出した
11 佐久間翔 5・5
古巣相手に果敢に攻めたが、スペースのケア足りず同点機許す
7 桐嶋和也 6
西谷との連携で左サイドを支配。クロスの質も○
3 内村宏一 6・5
前半は独壇場。パスワークは赤子の手を捻るが如く
8 栗栖将人 5
及第点の出来に終始し前半限り。もっと違いを出すべき
16 竹内俊也 5
対面するマルコス・イデに沈黙。この日は風が吹かなかった
22 西谷敦志 6
圧倒しただけに負傷交代は無念。骨は剣崎が拾う
9 剣崎龍一 6・5
敵将も脱帽のらしい2得点。目標の30点は射程圏
18 鶴岡智之 6
存在自体が効いていた。モンテーロ退場後は存在に拍車かかる
10 小西直樹 6
後半から起用。内村との違いをハッキリと出した
35 毛利新太郎 5・5
西谷負傷で緊急出場。果敢なチェイシングを披露
26 朴康信 5
鶴岡をより生かしたが、結果的に起用があだになった
C 今石博明 5
先手を握りながら自滅。リード時の采配に工夫が必要
尾道
20 宇佐野竜 6
被シュートが多い程彼のパフォーマンスは光る
2 モンテーロ 6・5
彼なくしてバイタルエリアの制空権保持は有り得なかった
5 港滋光 6
冷静にラインをコントロール。オフサイドトラップもよく決まった
3 山吉貴則 5
西谷に完敗。桐嶋との連携で再三狙われた
30 マルコス・イデ 6
竹内封じの任務を完遂。同点につながるコーナーキックも秀逸
7 今村友来 6
攻撃の基点として好パス供給。ゲームメイカーとして一皮むけたか
6 山田哲三 5・5
山吉のフォローに忙殺。内村への対応も後手に
29 嶋照平 5・5
時折光るパスはあれど、守勢に回っては彼は生きない
24 御野輝 6
見事な決勝“ドリブル”。シュート精度克服は早急の課題
16 有川貴義 6
この日は味方を生かすことに徹底。3トップのセンターをこなす
11 ヴィトル 6・5
鮮やかな同点弾。裏を狙い再三ゴールを脅かす
21 橋本俊二 5・5
ヴィトル負傷で鶴岡をマーク。ただ、相手が悪すぎる
8 高橋一明 7 MOM
復帰初戦で大仕事。内村を抑えて決勝点をアシスト
27 荒川秀吉 7
同点弾を奪い逆転弾防ぐ。ストライカーの嗅覚を発揮
C 水沢威志 6
ベテラン起用が当たり逆転勝ち。非公開練習の甲斐もあった
試合後コメント
和歌山
今石博明監督
「手を早く打ちすぎた。3人目の交代は向こうが鶴岡に脅威を感じているから、それに勢いをつけようと思った。ただ、それで生まれた守備の隙をものの見事に突かれた。監督として采配の底の浅さを感じたよ」
-就任当初の構想だった内村のボランチはどうだったか
「言うこと無いでしょ。150点の出来。もし勝ってたら200点」
-剣崎が2得点を挙げた
「今日のあいつのモチベーションならダブル(ハットトリック)もいけたんじゃないかな。どっちもこぼれ球を押し込んだやつだけど、ルーズボールへの反応がよかった。ただ、うちの基本はサイド攻撃であってチーム全体としてはうまくオフェンスが出来なかった」
-残り試合はどう戦うか
「昇格するのは何度も言うが来年でいい。ただ肥やしにするならプレーオフも出たい。天翔杯も含め1試合でも多く戦ってすごしたい」
尾道
水沢威志監督
「非常の疲れるゲームであって勝ててよかった。選手や首脳陣だけじゃなく、クラブ自体がこの1戦に燃えていた。結果を出せて満足している」
-ベテランがよく活躍したが
「荒川はもちろん、まずは高橋がよくやってくれた。内村をあのままにしていたらたぶんじゃなく絶対に負けていた。得点のアシストもそうだけど、内村を止めてくれたのが一番のお手柄。港も向こうの波状攻撃に対してよく冷静に対処してくれた」
-3トップを含め、今後の戦い方について
「今日の布陣はあくまで和歌山対策だし、もともとFWの駒がうちには足りない。相手にあわせて組んでいくことになる。残り試合も少ないので昇格のためにはまず勝ち点を意識した戦いになると思う。もともと尾道はねちっこく守って少ないチャンスをものにするスタイル。チームとしての連帯感を重用していきたい」
COLUME和歌山
古典的か、救世主か、若き得点王の伸びしろ~FW9 剣崎龍一(浜田友美)
「私の指導者人生でも記憶に無い」と敵将・水沢監督も脱帽したのが2得点の剣崎だ。オーバーヘッドとミドルシュートという得意分野でしとめたこともさることながら、誰よりも真っ先にボールに反応したが故の得点だった。
ただ、開幕前にこれほど活躍できるとは、育ての親である今石監督自身も予想していなかった。「嗅覚など得点を取るための能力はぬきんでていたが、現代サッカーのFW像とはかなりかけ離れている『点を取るだけの古典的なストライカー』」というのが前評判だった。
しかし、その本来の嗅覚を発揮しつつ、ポジショニングや前線のプレス技術が成長している今、確実に彼は稀代の、そして日本代表待望の和製大砲としての地位を固めつつある。「少なくとも点を取るだけならプレミアクラス。掛け値なしにそれだけは言える」と今石監督。J2とはいえ得点王の肩書きがつけば間違いなく株は上がる。古典的で終わるか、救世主となるか。今がサッカー選手・剣崎の分岐点である。




