前半は優勢
両チームのスタメンです。できるだけ、飛ばさずに一通り目を通してください。
なおフィールドプレーヤー(キーパー以外)について、DFは上に書かれた選手が一番左側。MFは名前の後ろにVと入っている選手はボランチで、無い場合が前の位置にいます。
アガーラ和歌山
監督 今石博明
スタメン
GK20友成哲也
DF13村主文博
DF6 川久保隆平
DF2 猪口太一
DF3 内村宏一
MF17チョン・スンファンV
MF10小西直樹V
MF8 栗栖将人
MF16竹内俊也
FW9 剣崎龍一
FW22西谷敦志
サブ
GK1 天野大輔
DF15園川良太
DF24根木光人
MF23布山明憲
MF25野上康生
FW7 桐嶋和也
FW18鶴岡智之
奈良ユナイテッド
監督 曽我部雄三
スタメン
GK1 伊藤隆
DF3 上野祐二
DF25野口公博
DF5 大野倫太郎
MF2 アンドレV
MF6 加藤秀行V
MF16高橋祐輔
MF10近藤一樹
MF7 木村翔太
MF8 久保友也
FW9 渡辺健二
サブ
GK21中村久
DF4 江尻慶介
DF22仁村利和
MF15ソウザ
MF26パウロ・シルバ
FW11佐藤博実
FW13鈴木秀和
主審のホイッスルで試合は始まった。奈良のFWが、センターサークルから自陣にボールをけり返した。
「ん?なんだ」
奈良の1トップを任された渡辺は、自分の前に立った和歌山のディフェンダーを、珍しそうに見つめた。
(何だこいつ。ずいぶん小さいな)
「おう、お前が俺をマークするのか?」
ためしに渡辺は挑発した。
「はい。よろしくお願いします」
「確かお前ルーキーだよな。まあほろ苦いデビュー戦になるだろうが、しっかりがんばるんだな」
「ええ。僕も今日はあなたの存在を消して見せます」
(このガキ・・・)
見下すように声をかけてきた渡辺に対し、猪口は真顔で淡々と、それでいて強気に言い返した。
(なめやがって・・・。元日本代表の格の違いを見せ付けてやるよ)
猪口もまた、渡辺を見返した。
(20センチ差か・・・・。でも、気持ちと口では絶対に負けないようにしないと)
そう思い、改めて気合を入れた。
互いにメンバーを刷新しているだけに、昨年の試合データは参考にならないと、両チームともけん制しあいながら試合が進み、主導権は和歌山が握っていた。栗栖、小西という優秀なパサーがいて、機を見て竹内が右サイドからドリブルで仕掛ける。奪われた際のカウンターには、チョンが常に目を光らせ、奈良がバックパスをしても、剣崎、西谷の2トップが果敢に奪いにかかる。まるで、獲物を見つけた肉食獣のような激しいプレスに、奈良はボールを奪ってもなかなか前に運べなかった。
そのうち、奈良の連携が乱れ、竹内がボールを奪った。
(!)
前を見た瞬間、竹内は目の前にスペースを見つけた。そして一気にギアを上げ突破を図った。
(いけるっ!!)
「うおっ!」
対面する加藤を振り切り、さらに止めにかかった上野を、またぎフェイントを入れながら突破した。
「しまったっ!」
「大野っ!野口っ!FWにつけっ!」
キーパーの伊藤がすぐに味方に指示を出す。竹内が動き出したと同時に、剣崎はファー、西谷はニアに走りこんでいる。
(よしっ!)
2人を確認すると、竹内は地を這うような鋭いパスを出した。転がってきたボールを、西谷はダイレクトで蹴るような仕草を見せた。つられて伊藤も反応する。それを見た西谷は、
(かかったっ!)
と、蹴らずにスルーした。
「よっしゃあっ!!」
「やらすか」
きっちり反応していた剣崎は、ディフェンダーにマークされながら、強引にシュートを打った。キーパーの逆をついたが、ボールはクロスバーをたたいて跳ね上がり、そのままピッチの外に出た。
「っ・・・!くっそおっ!!!」
地面を蹴り上げて悔しがる剣崎。和歌山サポーターや味方が「あ~」とため息を上げる。対して奈良のサポーターは安堵の表情を浮かべる。
「トシッ!アツッ!悪い、ミスったっ!」
絶好機を外した剣崎は、大袈裟なジェスチャーで、竹内と西谷に謝罪する。
「気にするなよ、切り替えていこう」と竹内は励まし、
「外しやがって・・・。次は俺が決めるからな」と西谷は悪態をついた。
「おうっ!フォワードにミスはつきもんだっ!!だからどんどんパスをくれっ!」
剣崎は気合を入れ直したが、中盤でやり取りを見ていた栗栖は、
「いや。ミスあり気じゃ困るぞ」
とつぶやいた。
ゴールキックで試合再開。風上に立った伊藤が蹴ったボールは、追い風に乗って一気に最前線に飛んだ。落下点には渡辺が待ち構えている。
「OK!」
やわらかいトラップで楽にボールをキープする渡辺。ドリブルで持ち込もうとするが、猪口が執拗にマークにつき、自由にプレーさせない。
「この、ガキがっ」
揺さぶったり、フェイントを入れたりと、渡辺はあらゆる手を使って振り切ろうとするが、猪口はそれでもついてくる。苛立ちが募っていく。
「ナベさん、こっちっ!」
「・・・。ちっ」
すぐさま左サイドの高橋がフォローに入った。渡辺はいささかの敗北感を感じながらパスした。
おととし、レンタル移籍で和歌山でプレーした高橋。ボールを持つと、和歌山サポーターからブーン具が起きた。
(ナベさんがあんなに手こずるとは・・・。ここは俺がサイドを突破して)
「ごっそさん」
あれこれ思考する高橋を、まるであざ笑うかのように、対面する内村が強烈なスライディングでボールを奪う。
見事な不意打ちに、高橋は派手に吹っ飛んだが、ボールに向かっているためにファウルにはならなかった。不満そうに立ち上がる高橋を、内村は見下ろしながらつぶやいた。
「お前らの9番は、うちの猪口がつぶしてるけど。安心しな、お前は俺がつぶしてやるから」
嘲笑を浮かべると、内村は走り去った。
「な、なんか、ムカつく」
ボールを奪われた上に、堂々と宣戦布告まで受けた高橋には、不快感だけが残った。
攻めるが決定力を欠く和歌山。しのぐが反撃の糸口をつかめない奈良。ボクシングで言えば、3-0の判定勝ちという展開だったが、もどかしさを感じるのも事実。結局ロスタイムも無く、前半はそのままスコアレスで折り返すことになった。
「あんのクソガキがぁっ!!」
ロッカーに戻るなり、渡辺はパイプ椅子を蹴り上げた。
「うざってえマークしやがって・・・」
吐き捨てながらベンチに腰を下ろした。
「ナベさん荒れてんな・・・」
「ただ単に自分のふがいなさを棚に上げているだけだろ」
「それにしても、和歌山ってあんなにがつがつ来るチームだったか?」
「全員がな。そのうちスタミナ切らすぞ」
奈良の選手が雑談を交わしていると、曽我部監督が戻ってきた。
「全員、よくしのいだ。だが、何度も言うようにシンプルに仕掛けていけ。ディフェンスはマークの受け流しをはっきりと。中盤はパスの供給源を絶て。前線はもっとチャレンジしろ」
と、一通りの指示を終えると、
「敵は飛ばしすぎているから必ずばてる。そのときできる隙を突くんだ」
と檄を飛ばした。
一方で和歌山のロッカーでは、
「攻めまくっているだけでも上々だ。ボールを持っている時間が長いのも、積極的に奪えている証拠だ」
と、今石が選手たちに前半の戦いを講評していた。
「どうよ猪口、渡辺との攻防は楽しいか?」
今石は、水を口にしていた猪口に声をかける。
「はい。いろんなことして来るんで、すごい大変です。でも、なんかいけそうな気がしてきます」
「俺も同じっすよ、監督。あの高橋ってやつ、本当に真面目すぎるんですね。渡辺さんが封じられてるから、自分で何とかしようって言う気概が見え見えでやりやすいの何の」
内村も続いて手ごたえを口にした。それを聴いた今石は、満足そうな笑みを浮かべた。
「上等上等。向こうの攻撃はあの2人がキーマンだからな」
笑いながら話す今石だが、目線を剣崎に向けたとき、露骨に失望感をあらわにした。
「それに引き替え…。うちの9番は何やってんだかなあ」
白い視線を感じた剣崎は、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「ん…まあ、安心してくれよオヤジ。後半は絶対決めてくるからよ」
「失敗ばかりしてる奴の『絶対』は宝くじよりアテにならねえよ」
「うるせぇよ、友成っ」
また始まった。剣崎と友成は、口を聞いたときは、必ず言い合いになる。だが、そのやり取りは闘牛士のようで、剣崎の怒号を、友成は淡々と受け流し続ける。
「ちくしょうが、見てろよ。今日のマンオブザマッチは、絶対に俺がなってやるからなっ!」
むきになる剣崎だが、声の荒げ方がまるで子供のようで、吹き出すチームメートもいた。
「まあ、それだけ血気盛んなら問題はねえな。よしお前ら。後半は俺達からのキックオフだ。楽に勝ちたきゃ、15分以内に点とってこい。とれなきゃ俺がなんとかする。あと負けることは気にするな。そうなったら、責任は全部俺がとる。前半同様、馬鹿のひとつ覚えみたいに攻めまくれっ」
今石のゲキに、全員の表情が引き締まった。