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西谷敦志

今回は西谷視点の一人称です。


ついでに言っておくと、「俊也」は竹内のことです。念のため。

 入団した時、俺にレギュラーは約束されたもんだと思っていた。

 ユースですごい結果を残したっつっても、俺だって選手権で結果を残したつもりだ。だから開幕戦でスタメンだったのは、当たり前だと思っていた。



 …それが自惚れだってことに気づいたのは、怪我から戻ってきてからだった。

 俊也が結果を残すのは分かっていた。だが、剣崎と鶴岡さんがあそこまでやるなんて思ってもいなかったけど、二人とも自分の一番の武器を生かして戦っていた。

 復帰してからずっとサイドで今日久々に2トップでプレーしてるけど、改めて剣崎の凄さを実感している。…いや下手くそには変わりないが、ゴールへの集中力、執着心が半端ねえ。それが体からオーラとして発散されていて、人間かどうかわからなくなるくらいの身体能力で点を取っている。

 ついでに言うと俊也の適応力もすげえ。元はFWなのに今やリーグ屈指のサイドアタッカーで、今日初めてのサイドバックでも、剣崎と俺へのアシストでキッチリと失点の借りを返しやがった。

 おかげで吹っ切れた。与えられたポジションで結果を出すのがプロだってことと、監督は可能性を見出だしているからポジションを与えるってことを。

 もうポジションなんかどうだっていい。今は試合で使われたポジションで結果を出すだけだ!

「アツっ」

 栗栖から俺にいいパスが来た。ディフェンダーがボールを奪わんと体をぶつけてきやがる。だが簡単にやられる俺じゃない。誰か上がってこい。



「アツっ」

 ちっ、お前かよ剣崎…。まあいい。絶対決めろよ。


「どりゃっ!」

ガツンっ


 けっ。案の定バーを叩きやがった。でもお前を信用しきらなくて正解だ。百が一のためにゴール前に詰めといたおかげで、跳ね返りが俺の目の前に転がって来やがった。押し込むだけでよかった。




 3−2になってから10分ぐらいか。俺達はコーナーキックのチャンスを得る。味方のベンチを見ると、監督が寺島さんと藤川さんに準備させている。こっちを見てないから、このセットプレーがどうあろうと代える気だ。藤川さんは俊也との交代だって想像はついた。だが寺島さんはどっちだろうか。同点ゴールの後は外しまくってる剣崎か、それとも疲れてきた俺が。俺だとしたらなんとかこのコーナーキックで点を取りたい。

 剣崎や俊也がやっているなら、俺だってハットトリックを決めたいからな。一瞬、栗栖と目があった。頼む、ニアの俺にくれ。そう念じていると、ショートコーナー(直接蹴らず、近くの味方とのワンツーパスの後に蹴る方法)を使ってうまい具合に俺のところにきた。だが、俺はこの絶好球をふかしてしまい、ボールはあさっての方向に飛んでいきゴールキックになった。


 やっちまった。真っ先にそう思った。

 ただそれは、すぐに安堵に変わる。第4審判に連れられて寺島さんと藤川さんがタッチラインのそばにくる。下がるのは…剣崎と竹内だった。

 そして、寺島さんが持ってきた監督の伝言に俺は張り切った。


「ハットトリック決めてほしいから残したぞ。がっちり決めてこいや」


 ハットトリックはそんなに簡単じゃない。普段の俺なら妙に覚めてしまって、残り時間を安全にプレーするだろう。

 ただこの日の俺は、意欲は満々なのに普段以上に冷静だった。どうすればゴールを決められるか。それだけに集中していた。たぶん「ゾーン」に入っていたんじゃないかと思う。

 だから決めた瞬間を、何もかもハッキリと覚えている。

 藤川さんが思い切ったオーバーラップを見せて、フォローに入った小西さんにパス。小西さんはそれをゴール前にきれいなクロスを上げて、相手ディフェンダーと競り勝った寺島さんが俺の目の前にボールを落としてくれた。

 ただ蹴り込むだけだった。あっけねえなとつぶやいたのも覚えてる。



 これで吹っ切れた。




 監督、どんなポジションでもいい。俺を使いたいところで使ってくれ。



 できればFWで(笑)

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