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スポンサーも満足げ

 守護神友成のPKセーブからのカウンターを決め、先制に成功した和歌山。そのムードに乗ってさらに追加点を狙ったが、剣崎のロングシュートが枠の上を飛んでいったと同時に前半終了の笛が響いた。

 ロッカールームに引き上げる際、栃木の明石監督が首を傾げるのを見た今石は、満足げに笑みを浮かべだ。

「うちのシュートを警戒していたようだが、あいにくと俺も一辺倒じゃないんでね」





 ガリバー大阪からの移籍騒動は、今石にとって都合がよかった。尋ねた記者のほとんどが和歌山の練習に関心が薄く、番記者たちも今石監督への第一印象から「ゴール前でシュートを打たない」攻め方のオプションづくりには気づいてはいなかった。


「まあ付け焼き刃にしちゃあ出来過ぎなぐらいだな」

 カラカラと笑う今石に、西谷がムスっとした。

「失礼な。俺達の技術ならできないこてじゃねえよ。あんた信頼してなかったのか」

「おまえの方こそあまり浮かれんなよ。相手が無警戒だったから決まったようなもんだからな」

 キャプテンのチョンの戒めに、西谷は恥ずかしそうに頭を下げる。

「まあ、点を取った時間帯が終わり際だったからな。たぶんあっちはいま修正に躍起になっているはずだ。たぶん後半の出だしは、ばたついたの無理矢理押さえ付けた状態だ」

「つまり開始10分で点がとれたら、あちらさんの収拾はつかなくなる。だから10分で点をとってこい。と言いたいんでしょ」

「聡明だねえ内村。まあ後半まずやってほしいのはそれだ。それも今度はいつも通りシュートを打ちまくってな」





 今石監督の指示どおり、後半は開始早々からシュートを打ちまくった。

 まず高い位置でプレスを仕掛け、ボールを奪った剣崎が30メートルのミドルシュートをぶっ放す。これがバーを叩いたもんだから、栃木は焦ってしまう。以後も、剣崎のみならず西谷や鶴岡、竹内がシュートを叩き込む。その度に栃木の選手達が体を張る。だが、そこで得たコーナーキックで、鶴岡のヘディングシュートまでは止められなかった。後半9分だった。




「ちくしょー…俺も点取りてえ」

 2−0とリードしてチームの雰囲気はいっそう良くなるばかりだが、剣崎はどこか歯がゆかった。理由は自分が点を取っていないことだ。チームが勝つに越したことはないが、どうせなら自分も点を取りたかった。

「どうした?なにうずうずしてんだ」

 相棒の様子が気になった栗栖が声をかける。

「今チームは勝ってんだぜ。そんな顔すんなよ」

「そうだけどよ…やっぱ俺も点取りてえんだよ。ストライカーだからさ」

 剣崎のぼやきに、栗栖は苦笑せずにはいられなかった。

「まあ、セットプレーでない限り、俺は『自分で何とかしろ』としか言えないね」

「わかってらい。そんかわり、お前ももっとパス出してくれよな」



 2点のリードを奪った和歌山だったが、後半20分にまたもPKのピンチを迎える。ドリブルを仕掛けた栃木のトップ下・竹下を、マークについていた猪口が倒してしまったのだ。

「チッ。せこい野郎だ。猪口が体をよせたのを見て、うまくぶつかってきやがった」

「さすがに名の知れたマリーシア(ファールをもらいやすいようにプレーする選手)だな」

 苦い表情を浮かべる今石監督と松本コーチ。しかし表情の奥には余裕もあった。

 今度のPKも松田が蹴る。栃木にとってもっとも決定力のある選手だし、何より松田自身も借りを返したい思いがあった。

 しかし、この選択は栃木にとって結果的に凶となる。松田は裏をかいてあえて真正面に蹴りこんだが、これを友成は完璧に読み切って微動だにせずがっちりと受け止めた。

 これで試合の大勢は決まった。ならばなおのことゴールを決めなければ、剣崎の気は晴れない。

「あいつばっか活躍しやがって…負けてたまっかよっ!」

 それは、犬猿の仲の友成の活躍に対しての嫉妬でもあった。

 エースの連続でのPK失敗で、ただでさえ気落ちしている栃木に、飢えた猛禽のように襲い掛かる。そんな剣崎の殺意に近いゴールへの意欲に答えたのは、幼なじみの栗栖だった。

「そいじゃボールやるよ」

 中盤から、前に突っ走る剣崎へ、柔らかいロングパスを送る。剣崎は、背後から飛んできたボールを左足でトラップすると、そのまま右足でゴールに叩き込んだ。

「っしゃあっ!面目躍如っ!」

 会心の笑みでガッツポーズを作った剣崎は、そのままゴール裏のサポーターのもとへ駆けた。




「…すごいな」

 メインスタンドのスポンサー席で、そんなつぶやきが聞こえた。声の主は木原だった。

「なるほど。FWにあれだけの選手がいれば、客が見たくなるのもわかるな」

「珍しくベタ褒めだね」

 山田は木原を茶化したが、木原は気に止めずさらに言う。

「契約の更新は、前向きに考える価値があるな」

「…それはなによりだ」

 歓喜に沸きかえるスタジアムを見ながら、木原は口元を緩ませた。



 試合はその後、ロスタイムに剣崎がさらに1点を追加。栃木に一度もゴールを割らせることなく、4−0の快勝でリーグ前半戦を締めくくった。

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