試合を前にテンション上々
5月13日午後1時。試合開始1時間前。日韓ワールドカップでも使われた長居スタジアムは、キャパシティを埋め尽くすほどの客は入っていなかった。それでも今季初めて5千人を超えることはほぼ濃厚であった。
「すいませぇん。ゴール裏の皆さぁん、なるべくつめてくださぁい」
ホームゴール裏では、リズムキーパーの亜由美が、アガーラサポーターに呼び掛けていた。広いスタジアムでは、より集まって声を出すのが一般的である。普通ホームゲームですることはまずないが、馴れない「よその家」を間借りしての試合。勝手も違うし屈辱的でもある。
「えー、今日我々がこの長居スタジアムをお借りしているのは、集客が見込めるのに紀三井寺(陸上競技場)が使えないからです。馴れない場所での応援になりますが、せめて全勝できるように、頑張りましょうっ」
サポーターグループのリーダー・ケンジが集まったサポーターに訴えた。
スタジアムに違和感を感じているのは、選手も同じである。J1のセレーノ大阪がJ2にいたときに試合をした経験はあるが、今日は自分達のホーム扱いである。妙な違和感を多くの選手が感じてはいた。何人かを除いては。
「…な、なんか近寄りがたいなあ」
猪口は、タオルを株って顔を伏せて座っている友成を見て、戦々恐々としていた。
試合前には、今日のように精神統一していることが多いのだか、この日は特に入り込んでいた。
剣崎がいつも以上に「今日は絶対点とるぞおっ!」と、雄叫びを上げても無反応なのだ。
「ま、好セーブが多いとは言え、失点自体は少なくないし、ライバル天野は無失点だからねぇ。強力な甲府を相手に、そうとう入れ込んでるんだろうね」
内村がニヤニヤとしながら話す。その内村の肩を、ベンチスタートの川久保が叩く。
「まあ、今日はおまえらディフェンス陣がカギを握ってるんだ。内村は蓮本、猪口は泊つぶしを頼むぞ」
「はいっ!」
「ういっすぅ〜」
そして竹内も、いつも以上に気合いが入っていた。
「また今日も右サイドか…」
今や和歌山不動の右サイドハーフとなった竹内だが、最近はどこか不満を持つようになった。別に今のポジションが嫌いなわけではないし、リーグ2位の7得点だけでなく、ドリブル突破からの高精度のクロスでアシストも記録している。
ただ、決勝点を挙げた水戸戦で久々に2トップに入ったことと、得点王争いに絡んでいることで、FWとしての欲が芽生えた。
「…まあ、どこでやろうと、得点王は取れるし、チーム内で争って、それが勝ちに繋がればいい。…負けないぞ、剣崎」
一方ど、左サイドハーフの西谷はいらついていた。
(くそっ!開幕戦で2トップだったのに、今じゃ一列後ろかよ…)
前節京都戦で復帰し、プロ初ゴールを挙げたが、後で冷静になって恥ずかしくなった。
(負けてんのにうかれちまった…。だが今日は勝ちに繋がるゴール決めてやるっ)
「うっし!準備はいいか野郎ども!」
そこに威勢よく今石が入ってきた。
「さあ、スタジアムの皆さん、お待たせいたしましたっ!Jリーグディビジョン2、第14節。アガーラ和歌山対甲府バンディッツ、両チームのスターティングメンバー、ご紹介しましょう。まずは、アウェーチーム、甲府のスタメンです」
その頃、スタジアムではスタメンの発表が始まっていた。まず、赤と青に彩られた甲府サポーターが盛り上がる。ウグイス嬢がメンバーを読み上げ、合いの手で甲府サポーターが叫んだ。
甲府スタメン
GK1奥田哲郎
DF2モラエス
DF3ノゲイラ
DF19桂木慎吾
DF25香山信一
MF5キム・ミョンチョル
MF10十村高明
MF20泊雄太
FW9蓮本順平
FW11ポール・マッケンジー
FW13津雲一樹
リザーブ
GK21小安祥
DF4吾妻豊和
DF6杉山孝志
MF7高木亘
MF8高橋由之
FW14山田太郎
FW22川野亨
そして、スタジアムに少しの沈黙のあと、テンションの高いBGMが流れ、スタジアムDJの威勢のいい声が響いてきた。
「さあっアガーラサポーターのみんなあっ、大変、お待たせいたしましたあっ。続いては、ホームチーム、アガーラ和歌山。本日のスターティングメンバー、ご紹介しましょおぉっ!!」
その声に、甲府サポーターより若干多い和歌山のサポーターが叫んだ。
天下無双の、超攻撃的守護神っ!背番号、20っ、GK、友成っ哲也っ!
(ドンドンドン)「ともなりぃっ!」×4
無失点のカギを握る、エースキラーっ!背番号、2っ、DF、猪口っ太一っ!
(ドンドンドン)「いのぐちぃっ!」×4
逆境を跳ね退ける、熱きファイターっ!背番号、15、DF、園川っ良太っ!
(ドンドンドン)「りょおたぁっ!」×4
その男、天才につき…。背番号、3っ、DF、内村っ宏一っ!
(ドンドンドン)「ひろいちぃっ!」×4
ドリブルの切れ味は、まさに名刀っ!背番号、7、DF、桐島っ和也っ!
(ドンドンドン)「かずやぁっ!」×4
ピッチのイレブンを、統べる闘将っ!背番号、17、MF、キャプテンっ、チョン・スンファンっ!
(ドドン、ドドン)「チョンスンファ−ン」×3
放つパスは正確無比!閃くアイディアは唯一無二!背番号、8っ、MF、栗栖っ将人っ!
ピッチを吹き抜ける、一陣の風っ!背番号、16っ、MF、竹内っ俊也っ!
(ドンドンドン)「としやぁっ!」×4
敵を薙ぎ倒すドリブルは、猛獣の如しっ!背番号、22っ、MF、西谷っ敦志っ!
(ドンドンドン)「あつしぃっ!」×4
テクニックも完備。走る巨塔っ!背番号、18、FW、鶴岡っ智之っ!
(ドンドンドン)「つるおかぁっ!」×4
成長率は無限大っ!今や我等のエースストライカーっ!背番号、9、FW、剣崎っ龍一っ!
(ドンドンドン)「りゅーいちぃっ!」×4
「続いて、リザーブをご紹介しましょう」
つねに冷静。泰然自若のジャニーズ系っ!背番号、1、GK、天野っ大輔っ!
(ドンドンドン)「だいすけぇっ!」×4
チームと共に、歩みつづけるバンディエラっ!背番号、6っ!DF、川久保っ隆平っ!
(ドンドンドン)「かわくぼぉっ!」×4
冷静沈着に、任されたサイドを制圧!背番号、13っ、DF、村主っ文博っ!
(ドンドンドン)「すぐりぃっ!」×4
粘り強く、マークを続ける潰し屋っ!背番号、4っ、MF、江川っ樹っ!
(ドンドンドン)「えがわぁっ!」×4
華麗さと泥臭さを併せ持つ、汗っかきナンバーテンっ!背番号、10、MF、小西っ直樹っ!
(ドンドンドン)「なおきぃっ!」×4
勝ち点を生み出す、「持ってる」漢っ!背番号、25、MF、野上っ康生っ!
(ドンドンドン)「こーせーぇっ!」×4
ここ一番で頼りになる、ベテランストライカーっ!背番号、19っ、FW、寺島っ信文っ!
(ドンドンドン)「てらしまぁっ!」×4
監督は、叫びつづける、ミスターポジティブっ!今石っ博明っ!
(ドンドンドン)「いまいしぃっ」×4
そして、チームを鼓舞するっ背番号、12、俺達アガーラサポーターぁっ!!!
「わーかやっまっ!」(ドドンドドンドン)×4
互いのスタメン発表が終わり、テンションは高まりつつあった。
セレッソ大阪をモデルとしたセレーノ大阪ですが、「セレーノ」はイタリア語で「晴れ」を意味します。




