まさかの横断幕
5月3日 J2第12節水戸ホーネッツ戦
スタメン
和歌山
GK20友成哲也
DF6川久保隆平
DF2猪口太一
DF3内村宏一
DF13村主文博
MF4江川樹
MF8栗栖将人
MF10小西直樹
MF7桐島和也
FW9剣崎龍一
FW16竹内俊也
出場停止明けの友成がスタメン復帰。前節結果を出した江川と小西が連続で先発。2トップはユースの時以来のコンビでプロでは初めての組み合わせとなった。
水戸
GK1本田幸一
DF2井上久志
DF7木下博之
DF3上田孝行
DF5大野雄介
MF6川山信一
MF15ソウザ
MF10小島大輔
MF11佐藤琢磨
MF13鈴木稔
FW9高井則康
ここ6試合1得点ながらリーグ最少失点の水戸は、サイドバックにもセンターバックタイプの選手を起用。ダブルボランチの川山、ソウザと合わせて実質6バックで勝ち点1を確実に取りに来た。
試合は和歌山が終始優位に進めるが、ガッチリとカギをかけた水戸の守備に苦戦。1トップの高井すら自陣に引っ込み、剣崎、竹内の絶好調コンビを軸にした猛攻に耐える。
「こんのやろうっ!!」
焦れた剣崎が、ミドルレンジから積極的にシュートを放つが、ボールはあさっての方向へ飛ぶばかりだった。
「ちっくしょう、こんなガチガチに引っ込みやがってえっ」
「剣崎落ち着け。ムキになったら相手の思うつぼだぞ」
声を荒げる剣崎をなだめる竹内だが、彼もまた得意のドリブルで仕掛けても、二人がかりで潰しに来る水戸の対応にストレスがたまっていった。
「よしよし。それでいい」
水戸の円谷哲郎監督は、和歌山の攻撃を食い止め続ける戦況にニヤリと笑った。
「君たちがいかに得点力に長けていたとしても、守備に徹すればそうは点を取れない。いらつけばますますドツボにはまる。何やら揉めているようで悪いが、勝ち点は私たちがもらうよ」
余裕の笑みを浮かべながら、円谷監督は今石を見た。
対照的に、今石は水戸の守備を忌ま忌ましげに見ていた。
「ある程度固めてくるとは思ってたが…ここまでドン引きで守って来るとはねえ」
「どうします。選手代えますか。ここは変化をつけるべきでは」
和泉コーチが進言するが、今石は首を横に振る。
「まだだ。焦ってカード切ったところで、あのディフェンスは崩せねえもう少し様子を見る」
「でも、中盤にもっと突破力のある選手を入れれば、あるいは…」
「剣崎や竹内が自由に攻められるのは、中盤や最終ラインが地に足つけて守ってるからだ。選手代えるだけが流れ代えることじゃねえよ」
監督と和泉コーチのやりとりを、この日ベンチ入りしていたチョンは、妙な違和感を感じていた。
(なんだ?今日の和泉コーチ、ずいぶん監督に反抗的だな…)
「うおりぃやぁっ!」
前半も終了間際、剣崎はこの日6本目のシュートが初めてバーに当たった。
「くあぁっ、やっとバーに当たったかあ。うしっ、もうちょいもうちょい」
「いいぞ剣崎!俊也ももっと挑戦していけ!小西さんやキリはセカンドボールをっ」
この日栗栖は視野の広さを生かして、積極的に指示を飛ばした。最近は中央でプレーするようになり、司令塔としての本領を発揮しつつあった。
守備もキャプテンマークを巻く川久保が、若い選手たちを落ち着かせ、左サイドバックとして先発した村主、桐島が攻めやすいよいに左サイドをしっかりとケアし「後ろは大丈夫だから、お前はもっと攻めていけ」と、桐島に声をかけていた。
おおよそ内服分裂しているとは思えない活気がピッチの選手たちにはあった。
だが、前半終了のホイッスルが鳴った後、一部サポーターの行動が、選手たちに動揺を与えることになる。
ピッチから引き上げる選手たちは、メインスタンドがざわめいているのに気づいた。
“それ”に最初に気づいたのは、ウォームアップのために、スタメンと入れ替わりにピッチに入った鶴岡だった。
「な、なんだよあれ」
鶴岡が指差した方向に、全選手が視線を移すと、スタンドの一角でサポーターと思われる集団が、赤い字で書かれた横断幕を掲げていた。
〜功労者を葬り、教え子をひいきにする暴君・今石は直ちに辞任せよ〜
〜拝啓、竹下GM。横暴な今石よりも、長きにわたりチームを見守った和泉さんが適任です〜
〜天野、猪口、栗栖、剣崎、竹内、友成、お前達の抜擢は実力じゃない!ひいきだ!〜
その横断幕を見た選手たちは、突然の辞任要求に戸惑いを隠せず、今石自身はただ仁王立ちで見続けていた。




