表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/100

試合開始前

今回はちょっと短めです。

 明けて22日、紀の川市内。一台の車が桃源郷陸上競技場についた。助手席から下りたのは相川玲奈だった。女子サッカーチーム、南紀飲料セイレーンズのオレンジのジャージ姿だ。

「すいません古川さん。無理言って」

「気にしないで。わたしも見に来たいと思ってたから」

「でも生意気な新人もいたものね。先輩を足に使うなんてさ」

 後部座席からは頭をかきながら下りる女性に、相川は平身低頭。

「だって車どころか、あたし免許すら持ってないんで。ここ車なかったら来にくいし」

 相川は、先輩の古川美穂、武藤千恵、同級生の佐伯紗耶香とアガーラの試合を見に来た。無論、目的は剣崎の公約を確認するために。

「ねえ玲奈。剣崎選手って、どんな人なの」

「何よさやか。その聞き方」

「え?だって彼、玲奈の『彼』なんでしょ」

「違う違うっ!ただの幼なじみだって」

 佐伯の思わぬ質問に相川はたじろぐが、

「あら?別にうちは恋愛禁止じゃないわよ」

「照れる必要ないわよ。はっきりいっちゃいなさい」

と、先輩の古川、武藤がちゃかす。

「本っ当にそういうのじゃないですから。あたし中学卒業したあとずっとドイツにいましたから、接点ないんですって」

 こういう場合、否定すればするほど思うつぼである。



 スタジアムは今季最多動員を記録すること濃厚である。やはり強いところは、遠いところから、あるいは近隣の仲間に召集をかけて集まる。両ゴール裏にはほぼ同じ人数が集まった。


 ましてや、相手は今季J2で戦いながら、五輪代表やまだ脂の乗っている元A代表が連ねる東京である。「つくづく改修中の紀三井寺陸上競技場でできないのが悔しい」とぼやくアガーラ関係者は多かった。

「あーあ、せめてサッカー専用のスタジアムだったらなあ」

 アガーラ和歌山の広報、三好香苗もその一人。チームにとっても貴重な入場料収入も、キャパシティーの問題で例年比10%増しで売らざるを得ず、今季の台所事情は火の車であった。スポンサーの好意で、遠征で使う大型バスが無償でなかったらと思うとぞっとする。

「もったいないですね。ほんと」

「あ、浜田さん」

 ため息をつく三好に声をかけたのは、Jペーパーの記者、浜田友美だ。二人は同じ大学の先輩後輩の間柄だった。

「選手たち、気合い入ってた?西谷だけじゃなくてチョンさんも出れないなんてね」

「なんか貧乏クラブに有りがちな怪我でへこんでます。『芝生の切れ目にスパイクが引っ掛かって捻挫』なんて」

「大丈夫よ。まあ部外者の私が気安く言うもんじゃないけど、攻撃陣は調子いいんだから。広報のあなたも元気出して」

 マイナス思考の後輩を励まして、浜田は記者席にむかった。




「はぁ?お前そんなこと宣言したのか?」

 試合前のホームチームのロッカーで、栗栖は剣崎の公約に呆れていた。

「しょうがねえだろ。玲奈があんなことふるからよぉ」

「だからって、ムキになってそんなこと言うなよ。守れなかったら一見さんドン引きだろ」

 友成はさらにきつく毒づく。

「筋金入りの馬鹿だな。爬虫類のほうが頭いいんじゃね?」

「あんだと!?とにかく、まずは勝ちゃあいいんだ。そのために俺はああ宣言したんだっ」

「しかし東京は守備も固いし、今5連勝って調子いいからなあ」

 竹内の言葉に、剣崎はさらに語気を強める。

「ウダウダ考えたって意味ねえよっ。試合前くらい勝った気でいねえと勝つねえぞっ」

 剣崎が言い終わると同時に、今石監督が手を叩いた。

「そういうことだ。向こうはほぼベストメンバー、こっちは攻守の軸がいない。だが気持ちと走る距離は負けるなっ。行くぞっ野郎どもっ!!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ