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幼なじみと再開

今後ヒロインになる人物が徐々に増えていきます。

「トークショー?」


 クラブハウスで剣崎は、広報から受け取ったチラシを見て問い返した。

 広報の三好香苗はニコニコしながら答えた。

「そうなの!いつも頼んでもなかなかやらせてくれないのに、今回は向こうから『是非やってほしい』って依頼が来たの!」


 チラシには〜いま絶好調の若いストライカーたちがやってくるっ!!和歌山駅地下広場サイン会&トークショー〜と書いてある。呼ばれているのは6得点の剣崎と5得点の竹内。互いに得点ランキングに名を連ねていることが、こういうところに現れた。

「なんか嬉しいぜ。こう言うのができりゃやりがいあるよな」

「そうだね。ちょっと、緊張するけどね…ん?」

 剣崎とともに照れ臭くポスターを見ていた竹内は、ポスターの端にある一文に目が止まった。

「三好さん。この『サプライズゲスト、あります』ってあるけど、誰かくるんですか」

「へ?…知らな〜い。企画とかの一切は向こうがやってくれたから、わたしもちゃんと知らないの。誰かくるの?」

 二人が「のんきな広報だな」と心のなかで呆れたのは言うまでもない。


 そして4月21日、ホームゲームでの京都戦を前に、JR和歌山駅前の地下広場ステージでトークショー当日を迎えた。

 だいだい300人ほどが集まれる会場には、ズラリとパイプ椅子が並べられ、開始30分前には200人くらいが集まっていた。その多くがアガーラのレプリカユニフォームやタオルマフラーを身につけていた。

「意外と来てるね。ひょっとしたら300以上来るかもね」

「うへー。だんだん緊張してきたー。試合とは全然違うなあ」

 そして時間が来た。まず主催者のきのくに新報社長、田村があいさつ。ダラダラとしゃべる老人に、観客の中には露骨に退屈そうな表情を浮かべる人もいる。だが、めったに開いてくれないイベントを開いてくれているので野次もなかった。

 そして司会によって二人が呼び出されると、集まったサポーターから拍手が起きた。竹内には黄色い声援、剣崎には熱い声援が飛ぶ。二人は登壇してサポーターに手をふる。

「さあ今日の主役のお二人、改めてご紹介します。アガーラ和歌山の剣崎龍一選手と竹内俊也選手です」

 また一際盛り上がる会場サポーターたち。いつの間にか、立見の一般客までちらほらいて、地下広場はごった返していた。「いやあ盛り上がってますねえ、どうですかこれだけのお客さん前にして、竹内選手」

「すごいですねえ。嬉しいんですが…なんかだんだん緊張してきました」

「剣崎選手はどうですか」

「なんか会場狭かったんちゃいますかねえ。次やるときはもっと広いところやりたいっすねぇ」

 照れながらコメントする二人。緊張はしていたが、気分はかなりよかった。

「さあ会場か温まったところで…お二人も知らないもう一人ゲストをお呼びしたいと思いますっ」

 司会者の発言に、会場はキョトンとする。剣崎たちも「例のサプライズの?」といった表情だ。

「先日国立競技場で開かれた親善時間で、アメリカ、ブラジルの強豪国からゴールを奪った次世代のエースストライカー、現役なでしこジャパン、和歌山の女子の星っ、相川玲奈選手ですっ!!」

 瞬間会場は大爆発。二人も驚きを隠せない。特に剣崎は開いた口が塞がっていない。が、次の瞬間、剣崎の口からとんでもない一言が飛んだ。

「この暴力女ぁっ!会場の空気独り占めしてんじゃねえぞっ」

 会場の一同が一斉に剣崎に振り返る。「何言ってんの」的な空気になる。だが相川もやり返した。

「うっさいわねバカ剣っ!久々に会っての第一声がそれかぁっ」

 走り出した相川は、そのまま剣崎に飛び膝蹴り!もみくちゃになる。J2得点王となでしこの新エースが、野良猫のケンカのようにステージ上でじゃれあっている。

 我に帰った司会者が、二人の間に入って仲裁して聞いた。

「え、えーと…剣崎選手と相川選手は…その、お知り合いで?」

「知ってるも何も、実家隣だし」と剣崎が言えば、

「幼稚園から中学校まで一緒で、同じチームでしてました」と相川が返した。

 会場はこの日一番の絶叫が響いた。



 その頃のクラブハウス。休憩室で若手選手たちが談笑していて、友成が栗栖に聞いた。

「ほー。お前あの相川玲奈とチームメートだったのか」

「小中同じチームだったよ。剣崎と同じFWでな。でも入った時からセンスは群抜だったな。中学校でも男子相手に負けなかったし」

「男子とか…。代表戦見てたけど、パワー負けしてなかったからな」と天野がつぶやく。172センチ55キロとモデル並の体格ながら、フィジカルで勝る外国人DFに負けていない力強いプレーが印象的だった。

「体型は俺のほうが小さいからね。横に並んだら姉と弟だよ」

 自虐的に栗栖がぼやくと、天野と友成は笑った。

「しかし、和歌山になでしこのチームがあるなんて知らなかったな。しかもクラブの大口スポンサーに」

 天野の言葉に友成もうなづく。

「男も女も2部のチームなんだからしょうがねえよ。知名度があがったって言ってもまだまだマイナーだからな。調度いい『客寄せパンダ』さ」





 場所は再びトークショー会場に。まさかの再開を果たした幼なじみは、二人揃って暴露合戦を繰り広げ、会場は爆笑の渦だった

 暴露合戦と言っても「幼稚園のお遊戯会本番でおもらし」「テストのカンニングばれて丸一日立たされ坊主」「体育祭の出し物で女装してダダすべり」「告った先輩がゲイだった」など、恥ずかしいエピソードのオンパレード。二人の話しを聞いた竹内は「めちゃくちゃ濃い二人だなぁ」と苦笑するしかなかった。

 やがて話しは、3人がFWと言うことで、「得点へのこだわり」をテーマに意見を語りあった。



「率直に言うと、9番つけてるFWって憧れますよね。サッカーのエースナンバーは10番と言うイメージが定着してますけど、FWとしては9番のほうが付けれたら嬉しいです」

 竹内の意見に相川も同調する。


「10番を付けた選手以上に、9番の選手は『目に見える結果』が求められて、凄い単純に評価される。どれだけ守備で貢献しても点取れないと『でもゴールがね…』って言われますから」


 二人の意見に頷きながら、剣崎も持論を言う。

「9番のFWは一番難しいんちゃうんかな。やらないかんことはどのポジションより簡単やけど、ぶっちゃけ教えられてできるポジションじゃないんや」

「そうそう。こいつが評価されているのは、しっかり得点という結果を残しているから。それがなかったらただ頭の悪い残念なイケメンだから」

「あってるけどよ、そんなはっきり言わんでもええやんけ」

 相川の同調しているような、見下しているような、わかりにくい発言にすねる剣崎。会場のサポーターはまた笑った。

 残り時間も少なくなり、司会者が締めに入ろうとしたとき、ふと相川が提案した。

「ねえ。明日のホームゲームにむけて、なんか公約してよ、二人とも」


 同意するように、会場から拍手が起きる。

「えーと…次は東京との試合なんですが…絶対に、勝ちます」と竹内が言い切り、そこそこの拍手。

「ありきたりやなぁっ!だから俊也は9番になれねえんだよ。男ならどんといけよ」と剣崎が突っ込むと、「じゃあアンタはハットトリック?」と相川が尋ねる。

「それもありきたりやなあ…うしっ!じゃあ俺は4点取ってやるっ!」

 会場がおおぉっと沸く。ただ相川は「見栄張ってぇ〜」と笑い、竹内も「さすがに無茶だって」と突っ込む。だが剣崎も引かない。

「やってみなきゃわかんねえよ。もし失敗したら上半身裸になって桃源郷のトラック一周全力疾走してやらあ。だからみんな桃源郷に来てくれよっ」

 最後はらしく締めくくり、サイン会も好評のうちに終わった。


「ふーん。プロになっても変わってないわね。あたしも見に行こうかな」


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