表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/100

そのボールは誰のものか

今回は台詞だらけで、わかりにくいかもしれません。

「お前なんなんだよ、さっきの」

 ロッカーに戻るなり、剣崎は西谷に詰め寄られた。

「な、なんだよ。シュート打っちゃいけねえのかよ」

「それもあるけどよ。『俺のボール』ってなんなんだよ。お前に渡ったボールは『チームのボール』だろ。GKやDFが奪って、MFがつないでくれたボールだろ。もっと大切にプレーしろよ」

 西谷の持論に対して、剣崎もムキになって反論する。

「大事にプレーするって、単に時間つかうだけじゃねえか。味方が俺達FWのゴールを期待してつないだんだろ。ちんたら時間使ってシュートど終われなかったら、それこそ後ろの頑張りを無駄にするだろうがっ」


 二人の語気は次第に強まっていく。

「無理矢理なシュートでプレーをいちいち切るんじゃねえよ。ゴールキックに変わったら、また一からやり直しじゃねえかっ」と西谷が言えば、

「んなこと気にしてたらFWなんかやってられねえんだよっ!下手くそな俺にとっちゃ、これがチームプレーなんだよっ」と剣崎も言い返す。

「じゃあもっと基本的な技術つけろっ、このド素人っ!」

「うるせえっこのノーゴール野郎っ!チームプレー言う前にまず自分が点取れっ」

「あぁ?てめぇ今なんつったっ」


 いよいよ二人の目に殺気が宿りはじめる。それを察し、竹内が剣崎を、桐島が西谷をそれぞれ羽交い締めで止める。

「アツ、もうやめとけって」

「剣崎。今のは言いすぎだぞ」


 ほとんど同じタイミングで、今石監督がロッカールールに入って来た。


「なんだなんだ?えらい賑やかだな」

 それが合図となって、この場は収まった。



 指示を受けた選手たちがピッチに戻る。その時、西谷は栗栖に尋ねた。

「なあクリ。アイツのどこがお前のお気に入りなんだ」

「ん?気に入るも何も、どうあれ結果は残してるからな」

「そうじゃなくて…」

「はは、わかってるよ。まあ、小学生の頃からの付き合いだけど、全然変わってないところかな」

「変わってない?ガキのころからあんなんか?」

「ああ。頭脳はそのまま、体がでかくなったって感じた」

「…よくそれで試合に出れてたな」

「運があるんだよ。初めてのチームは人数ギリギリで。中学のときは3年の春まで背番号なかったしな」

「マジかよっ!よくそれでユース入れたな」「もともと練習試合じゃ点取ってたんだけど、監督が『基本ができてない』から公式戦には出さなかったんだ。ところが、春の中体連直前でレギュラー2人が怪我、新学期前に一人転校してFWが人数足りなくなってアイツに『9番』が回って来たわけ。そしたらいきなりダブルかまして、2回戦でシード相手にトリプルやらかして」

「ダブル?トリプル?…ってハットトリック!?2試合で15点取ったのか!?」「うち5点は、部活動相手じゃ別格の俺のおかげだけどね。シードは2連覇狙う堅守が売りのチームだけど、試合終わった後選手どころか監督、父兄も真っ青になってたんだよな」

 同じように唖然とする西谷を尻目に、栗栖は笑いながら続ける。

「まあ、もともと力はあるって誰もが思ってたけど、目に見える数字が残ったことで監督もレギュラーで使わざるを得なくなった。10年ぶりに準優勝できたことで父兄も立役者扱いしたしね」

「夏も結果出したのか?」

「5試合全部で点取って、うち3試合がハットトリック。13得点でチームを全国に連れてった。んでたまたま今石監督が見ていて『欲しい』って即決。…まあ、俺ともう一人のチームメートは『才能に評価がやっと追いついた』って思ったけどな。あいつはあいつなりに必死だった。ただ人に認めてほしくて、それでいて不器用だから、得点能力をひたすら磨きつづけたんだ」


「わからねえでもねえけど…だからって馬鹿の一つ覚えみたいにシュートを」

 西谷が言い終わる前に、栗栖がさらに続ける。

「そのおかげで、あいつはだれのどんなパスもシュートに繋げてくれる。パスの出し手としては楽なところがあいつの魅力だな」


 栗栖は言い終わると、西谷を見た。

「お前もさ、もっと自分の持ち味を出せよ」

「なんだよ、いきなり」

「前から言おうと思ったけどな、お前って自分の武器を引っ込めちまってないか?何人掛かりでも強引に突破するドリブルが持ち味なんだろ?監督がお前の何を認めてると思う?チームプレー意識して遠慮しすぎてるよ、今のお前は」

 ポンと背中を叩いて、栗栖は自分のポジションに戻った。西谷は去り際の栗栖の言葉を反すうしていた。

「持ち味、か」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ