そのボールは誰のものか
今回は台詞だらけで、わかりにくいかもしれません。
「お前なんなんだよ、さっきの」
ロッカーに戻るなり、剣崎は西谷に詰め寄られた。
「な、なんだよ。シュート打っちゃいけねえのかよ」
「それもあるけどよ。『俺のボール』ってなんなんだよ。お前に渡ったボールは『チームのボール』だろ。GKやDFが奪って、MFがつないでくれたボールだろ。もっと大切にプレーしろよ」
西谷の持論に対して、剣崎もムキになって反論する。
「大事にプレーするって、単に時間つかうだけじゃねえか。味方が俺達FWのゴールを期待してつないだんだろ。ちんたら時間使ってシュートど終われなかったら、それこそ後ろの頑張りを無駄にするだろうがっ」
二人の語気は次第に強まっていく。
「無理矢理なシュートでプレーをいちいち切るんじゃねえよ。ゴールキックに変わったら、また一からやり直しじゃねえかっ」と西谷が言えば、
「んなこと気にしてたらFWなんかやってられねえんだよっ!下手くそな俺にとっちゃ、これがチームプレーなんだよっ」と剣崎も言い返す。
「じゃあもっと基本的な技術つけろっ、このド素人っ!」
「うるせえっこのノーゴール野郎っ!チームプレー言う前にまず自分が点取れっ」
「あぁ?てめぇ今なんつったっ」
いよいよ二人の目に殺気が宿りはじめる。それを察し、竹内が剣崎を、桐島が西谷をそれぞれ羽交い締めで止める。
「アツ、もうやめとけって」
「剣崎。今のは言いすぎだぞ」
ほとんど同じタイミングで、今石監督がロッカールールに入って来た。
「なんだなんだ?えらい賑やかだな」
それが合図となって、この場は収まった。
指示を受けた選手たちがピッチに戻る。その時、西谷は栗栖に尋ねた。
「なあクリ。アイツのどこがお前のお気に入りなんだ」
「ん?気に入るも何も、どうあれ結果は残してるからな」
「そうじゃなくて…」
「はは、わかってるよ。まあ、小学生の頃からの付き合いだけど、全然変わってないところかな」
「変わってない?ガキのころからあんなんか?」
「ああ。頭脳はそのまま、体がでかくなったって感じた」
「…よくそれで試合に出れてたな」
「運があるんだよ。初めてのチームは人数ギリギリで。中学のときは3年の春まで背番号なかったしな」
「マジかよっ!よくそれでユース入れたな」「もともと練習試合じゃ点取ってたんだけど、監督が『基本ができてない』から公式戦には出さなかったんだ。ところが、春の中体連直前でレギュラー2人が怪我、新学期前に一人転校してFWが人数足りなくなってアイツに『9番』が回って来たわけ。そしたらいきなりダブルかまして、2回戦でシード相手にトリプルやらかして」
「ダブル?トリプル?…ってハットトリック!?2試合で15点取ったのか!?」「うち5点は、部活動相手じゃ別格の俺のおかげだけどね。シードは2連覇狙う堅守が売りのチームだけど、試合終わった後選手どころか監督、父兄も真っ青になってたんだよな」
同じように唖然とする西谷を尻目に、栗栖は笑いながら続ける。
「まあ、もともと力はあるって誰もが思ってたけど、目に見える数字が残ったことで監督もレギュラーで使わざるを得なくなった。10年ぶりに準優勝できたことで父兄も立役者扱いしたしね」
「夏も結果出したのか?」
「5試合全部で点取って、うち3試合がハットトリック。13得点でチームを全国に連れてった。んでたまたま今石監督が見ていて『欲しい』って即決。…まあ、俺ともう一人のチームメートは『才能に評価がやっと追いついた』って思ったけどな。あいつはあいつなりに必死だった。ただ人に認めてほしくて、それでいて不器用だから、得点能力をひたすら磨きつづけたんだ」
「わからねえでもねえけど…だからって馬鹿の一つ覚えみたいにシュートを」
西谷が言い終わる前に、栗栖がさらに続ける。
「そのおかげで、あいつはだれのどんなパスもシュートに繋げてくれる。パスの出し手としては楽なところがあいつの魅力だな」
栗栖は言い終わると、西谷を見た。
「お前もさ、もっと自分の持ち味を出せよ」
「なんだよ、いきなり」
「前から言おうと思ったけどな、お前って自分の武器を引っ込めちまってないか?何人掛かりでも強引に突破するドリブルが持ち味なんだろ?監督がお前の何を認めてると思う?チームプレー意識して遠慮しすぎてるよ、今のお前は」
ポンと背中を叩いて、栗栖は自分のポジションに戻った。西谷は去り際の栗栖の言葉を反すうしていた。
「持ち味、か」