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思わぬ前半

 桃山忠海さんの「幻のストライカーX〜爆誕〜」のチーム、ジェミルダート尾道と選手たちをお借りしました。こちらもぜひお読み下さい。

 今日のピッチコンディションは、気温、湿度ともに上々である。風を除いて。

 キックオフの14時の時点で、ジェミルダート側からアガーラ側にかけて、8メートルの強風が吹いていた。この風はロングボールを前線に放り込む上で大きな影響を受ける。

 そう判断した、コイントスで選択権を得たジェミルダートのキャプテンは、和歌山対策に風上を取った。

 試合は和歌山のボールでキックオフとなった。

 ホイッスルと同時に、ジェミルダートサポーターが、先制点を期待してチャントの大合唱を始める。

 選手もまた、風上に立った精神的優位から、中盤での主導権を握り、積極的に攻勢に出る。だがいくつかの誤算が尾道側に生じ、次第に勢いを失った。

 一つは、味方になるはずの追い風がアダになったこと。前線への浮かせたパス、あるいはコーナーキックが何度も流されて味方に合わず、尾道のキッカー、金田は何度も首を傾げる。直接フリーキックも伸びすぎて枠の上を通過。

「なんだよこの風はっ」と、金田が声を荒げるシーンが目立った。

 ならばと、サイド攻撃からショートパスを繋いで頼みの有川に託すが、二つ目の誤算が有川のマンマークについた、猪口の奮闘である。

「くっ、この、くそっ」

当初は身長差で「大丈夫」と踏んだ有川だったが、懐に潜りこまれてタメが作れないでいた。

有川にとって、自分より小さい選手にマークにつかれ、ここまで手こずるのは初めて。猪口は時に弾き飛ばすほどの奮闘を見せた。

「御野、俺ニヨコセッ!」

 有川の分も奮闘しようと、ヴィトルが気をはく。今も御野からパスを受けてシュートを放つが、友成が好セーブを連発。次第に流れが和歌山に向きはじめた。

 そして三つ目の誤算が、和歌山のキックの精度だった。逆風にも関わらず、友成のゴールキックや、パクのロングフィードが低い弾道で、沢松や鶴岡まで届くのである。

 それでもなかなか失点しなかったのは、尾道のキーパー玄馬、キャプテン港が守備陣が鼓舞し、モンテーロが2トップと互角に渡り合ったからだ。その獅子奮迅ぶりは今石も舌を巻いた。


「くそっ。あのブラジリアン、なかなかやりやがる」

 規格外の超高層2トップを揃えたにも関わらず、予想以上にモンテーロが耐え抜いていた。竹内がサイドから駆け上がってフォローに回るが、巧みなオフサイドトラップに引っ掛かり、ゲームは膠着状態となった。

「またかよっ。せっかく流れがこっちに来てるのにぃっ」

 味方の攻撃が食い止められるたびに、左サイドハーフでのスタメンとなった剣崎は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そもそも2トップの一角でないことから、試合開始直後からストレスが溜まっていた。対峙する御野の対応では後手に回り、シュートもゼロと良いとこなし。ゴールへの意気込み十分だっただけに、悔しさでいっぱいだった。

 そんな時だった。剣崎の足元に、ボールが転がってきたのは。


 ふと前を見たとき、剣崎は自分を疑った。距離にして40メートルぐらいの位置にいたのだが、見えたのである。ゴールへの道筋が。

(行けるっ!)

 脳がそう結論づけたときには、剣崎は右足を振り抜いていた。

(えっ…)

 キーパーの玄馬が気づいたときには、逆風を貫いて飛んできた剣崎のロングシュートが、ゴールネットに突き刺さっていた。



 スタジアムが一瞬の静寂に包まれる。歓喜の声を上げていたのは、アウェー側の和歌山サポーターの一角、そして今石監督はじめ、和歌山のベンチだけだった。


 当の本人は、何があったかを理解していなかったが、チームメートが駆け寄るのを見て、仁王立ちで渾身のガッツポーズを作った。

 前半40分。まさかのロングシュートで均衡が破れ、尾道は攻撃の圧力を強めた。

 風が収まりはじめ、ようやく追い風を味方につけるようになり、尾道の攻撃も迫力がつきはじめる。有川はマークに苦しんだままだが、ヴィトルや御野、さらには山吉、小原の両サイドバックの攻撃参加も効きはじめ、今にもゴールをわらんと襲い掛かる。

「コース絞らせろっ、自由にやらすなっ!」

「サイドからクロスを上げさせるな、川久保は11番のマークにつけっ!」

 友成やチョンが冷静に指示を飛ばし、川久保やパク、さらには竹内までもが体を張る。

 第4審判が「ロスタイムなし」を掲示する。

 尾道の選手たちは「時間いっぱい攻め抜く」、和歌山の選手たちは「この数分を守り抜く」と言う考えに固まっていた。

 だが、剣崎と友成。犬猿の仲の二人の思考だけは違い、そして一致していた。

 ヴィトルのシュートを受け止めた友成の視界に入った剣崎が、「よこせっ!」と目で訴えていた。

 「じゃあ絶対決めろっ」と、低い弾道で前線に蹴り飛ばす。ボールは港のわずか上を通過し、同時に剣崎もギリギリのタイミングで、尾道の最終ラインの裏に走り出した。

「やらすかっ」

 玄馬がペナルティーエリア外まで飛び出し、ヘディングでのクリアを試みる。間一髪、玄馬がクリアするが、ボールの落下点に走り込んだ栗栖が、ダイレクトでループシュートを蹴り返し、無人のゴールに放り込んだ。


 ゴールネットが揺れると同時に、ホイッスルが鳴り響いた。

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