入団会見
今までに2つ書いた短編からようやく本文に踏み出しました。当然フィクションです。
「いよいよか…」
まっさらな深緑のユニフォームに着替えたその選手は感慨深げにつぶやいた。正面にはスポンサーのロゴ、その下にユニフォームとは対照的なライトグリーンの数字がデザインされている。
「この背番号9を、今日から俺の伝説の番号にしてやるぜ!」
「無理だろ」
「ああっ!?」
高ぶる気持ちをそぐような一言に、9番は語気を強めて振り返る。後ろには20番のキーパー用のユニフォームに着替えた男がいた。
「てめえ・・・。ユースのときから同じこと言いやがって。俺はユースじゃリーグ戦もカップ戦も得点王になった男だぞ。バンバンゴール決めて絶対このアガーラ和歌山をJ1に昇格させんだ!てめえと違ってすぐに活躍してやんよ」
「ただタッパがでかいだけのシュート馬鹿のお前と違ってな、オレは天才なんだから問題ねえんだよ。チームメートはおろか、日本代表の河野さんもいつでも抜けるんだしな」
9番は感情むき出しに、20番は静かに思いを熱く言い切る。にらみ合う2人の方を8番の選手がたたいた。
「剣崎(9番)。友成(20番)。ユースのロッカーで見慣れた光景をデジャブにするあたり、本当に似たもの同士だよな、やっぱ」
「どこがだよっ!栗栖」
「…一緒にするな」
「そうやってハモるからだよ。ま、俺たちはユースで十分すぎる結果を残したんだ。今度はトップチームできっちり暴れてやろうじゃないの」
「たりめえだっ!」
「…ああ」
「なんだよ3人とも。まだここにいたのか?」
ロッカーから姿を見せた3人を見かけて同期の選手、猪口が声をかけた。
「早くミーティングルームに行ってよ。もうすぐ会見始まるよ」
「悪いね。この二人がまた例のごとくタイマン張っててさ」
2人が言う前に栗栖が変わって笑みを浮かべながら謝罪する。言われて猪口もあきらめたようにため息をはく。いずれもユースで育った彼らにとって日常茶飯事だったからだ。
「でも相変わらず2人はすごいよね。僕なんか昨日は興奮して寝れなかったのに」
感心したように猪口が言うと、気をよくしたか剣崎が口を開く。
「俺はもうわくわくして仕方ねえぜ。早く試合に出てゴール決めたくてな」と自信満々に言い切る表情には自信があふれている。
「・・・・」
「ん?友成。お前も剣崎と同じくち?」
「まあな」
栗栖の指摘を友成は特に反論しなかったが、言い当てられたことに憮然とした。
それから程なく、J2のアガーラ和歌山の新人選手入団会見が行われた。
今年の入団は全員で15人。その人数の多さに、剣崎らと同じくユース出身のフォワードの竹内俊也と、キーパーの天野大輔は感嘆としていた。
「しかし今年の新加入は人数がすごいな。1チーム出来るほどだ」
「ああ。僕たちユース組でさえ6人いるのにな。ポジションも結構バラけてるし」
今年の新加入の内訳はユースの6人のほかは、高卒4人、大卒2人、海外からの日本人2人、韓国人1人。クラブの所属選手30人のうち、ちょうど半分の人数だ。J2のクラブは人の入れ替わりが激しいのだがここまで大掛かりの例は少なく、特に高校生が10人というのは、即戦力の新卒は大学生が多いJ2では異例と言っていい。集まった記者からは、今年からチームを率いる今石監督にその点を指摘する質問が早速飛んだ。
「今シーズンはルーキーが多く入団しましたが、うち高校生が10人というのは何か意図があるんですか」
質問を受けた今石はめんどくさそうに答える。
「ん~意味は特に無いよ。別に年齢うんぬんで判断してないし。ユースの6人は率いていた俺がプロでも通用すると思ったから上げたし、GMも純粋に能力だけで判断したらこういう面子になったってだけなんで」
「でも30人いるメンバーのうち半分が新人というのは大変なんじゃ・・・」
「俺自身も監督として新人だし、残ってる選手と新加入の違いは『紙にかける記録と実績』であって、使うがわからしたら全員横一線だから問題ないです」
「初めてトップチームの監督になるわけですが、どのようなサッカーをするつもりですか」と采配についての質問には、
「ユースでやってたのは徹底的に体力つけさせて80分走り倒すサッカーやってたけど、上はそれじゃあ無理J2であっても同じプロなんだから力押しだけじゃ通じないのはわかってる。でも前の監督がやっていた『守って守ってカウンター』っていうスタイルはぶっ壊す。積極的にプレスをかけてがんがん前に出て行くサッカーをしていくつもりです」と答えた。
ここで少し踏み込んだ質問をぶつける記者がいた。
「そういう言い方をすると、まるで曽我部前監督のサッカーを否定しているように聞こえますが・・・」
「否定しているよ、全面的に」
記者の言葉が終わる前に即答し、少し空気が重くなる。
「確かにおととし6位にまで順位を上げたけど、あれって活きのいい若手をレンタルしたから本当のチーム力じゃない。そもそも和歌山は『野球王国』なんだから、もっと人をひきつけるサッカー、『見ていて飽きないサッカー』をしないとクラブとして存在感が薄れていく。県民の皆さんが興味を持ってくれるチームにしないといけないと考えてます。だから常に動きっぱなしのサッカーをしたい」
「では最後に、今シーズンの目標を」
「うーん、プレーオフができたっつても、正直今年昇格できたとしたらまぐれ。せっかく新卒オンリーで戦力固めたわけだから、まずは一桁順位で最低11位以上。そしてそれ以上に観客動員の新記録つくりたい。去年以上にアグレッシブなサッカーをサポーターだけでなく、サッカーに興味が無い県民もひきつけられるように頑張りたい」
こうして会見は終わり、選手全員で記念撮影をした後、選手を代表して加入者で最年長の内村が挨拶した。
「全員が自分の力目いっぱいに出してチームに貢献したいと思っているので、サポーターの皆さんには熱い声援をよろしくお願いします」
「なんかありきたりな挨拶だなー」
挨拶中、剣崎は栗栖に話しかけてきた。
「あんなもんでいいと思うぜ。全員を代表しているわけだしさ」
「でもなー・・・・よしっ!」
「あ、おい」
内村の挨拶が終わるのと、剣崎がマイクを取りにいくために動き出したのがほぼ同時だった。そして剣崎は内村からマイクをもらうと、仁王立ちで演説を始めた。
「記者の皆さん!俺は剣崎龍一って言いますっ!バンバン点とって伝説のストライカーになるんで覚えといてくださいっ!」
あっという間のマイクパフォーマンスだった。誰もがあっけに取られる中で、友成だけは平然としていた。
「ずいぶんナメたまねしやがって。知名度は先手取られたな。・・・まあいい。度胸だけは認めてやる。あとは実力で引き離せばいいだけだからな」
その表情は悔しさとうらやましさと自信が混同していた。
近く選手名鑑も書くつもりです。