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魔法

作者: 熊猫パンダ
掲載日:2026/04/07

この世界に魔法なんてものは無い。


「あんたなんて産まなければ良かった」


「お母さんの子供になんてなりたくなかった」


一度口に出した言葉は、そう簡単に消せる物じゃない。


大喧嘩して家を飛び出てから二回目の冬。

元々私をシングルマザーで育ててきた母親は、過労で身体をしょっちゅう壊していた。

勿論感謝はしているのに、どうしても伝えられなかった。


母親自身もそう言うのは照れ臭い様で、そんな母の血を継いでいるのだと思っていた。


メールは繋がっていたけどお互いに酷く頑固者なせいで、家を飛び出した日の夜10時24分、熊のスタンプと「ご飯冷めるよ」を既読無視してからすぐに新しいスマホを契約して、母親に買ってもらったスマホは充電ケーブルに繋がったまま、机の上で埃を被っている。ずっと連絡は取っていない。最後に母親からのメールを確認したのは二、三ヶ月程前だろうか。


最近はバイトをして食い繋いでいる。

母親との最後の記憶は、お互い酷い言葉を浴びせあった事。


毎日死にたいくらい必死で生きている。小さな頃からのお年玉貯金を殆どはたいてボロアパートの一室を借り、家賃、光熱費、食費と、遊ぶ時間や贅沢をする余裕なんて無かった。

バイト先の客に理不尽な事で怒鳴られても、どんどん怒り返す気力なんて無くなっていった。


お母さんって凄かったんだな、と、心の中でだけは素直になれた。

それでも今更家に帰る勇気なんて無いけど。


家に帰ると、ずっと机の上に置いて埃を被っていたスマホが床に落ちていた。


なんだろうと思い手に取って確認すると、 新着の通知と留守電話が一件ずつ来ており、思わず急いで内容を確認した。


その文章はどうも母親らしく無かった。


母はいつも適当なスタンプを打ってから、短い文で要点だけ伝えるのだ。


そのメールの内容は、「お元気ですか。母です」から始まった。

それより後はちゃんと読んだ記憶は正直あまりない。


禄に荷物もまとめず、夜間から入っていた居酒屋バイトのシフトも忘れてボロアパートを飛び出し、母のいる家に走った。


新幹線やバスに揺られ二時間、1年ぶりに使う合鍵を回して玄関に入った。


一生会わないつもりだったのに、鍵ポーチには合鍵が入ったままだったし、こんなにすぐ会いに来れる距離に住んでいたのか。


「お母さん!!ごめん、私...」


「...久しぶり。彩花。お母さんって、久々に呼ばれたわ」


「...!私も名前呼ばれたの、久しぶり」


一度放った言葉は取り消せない。


魔法もこの世には無い。


それでも、二度と取り消したくない魔法みたいな言葉も。


意外と傍にあるらしい。



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