悪役令嬢、商会を制する
隣国・ルヴェリア王国。
その中心街に、新興商会がある。
ヴァレンシュタイン商会――会頭は、エレノア・ヴァレンシュタイン。
「価格は下げませんわ。代わりに“安定供給”を差し上げます」
会議室でそう言い切ると、老舗商人たちは顔を見合わせた。
強気だ。だが、彼女の背後には“実績”がある。
穀物、薬草、織物、魔道具素材。
どれも、彼女が手を出した市場は必ず安定し、利益を生む。
「……王都の商会が、最近息切れしているのは、あなたのせいか」
「“せい”ではなく、“結果”ですわ」
エレノアは微笑む。
かつて王宮で浴びた冷たい視線とは違い、ここではその笑みが“畏敬”に変わっていた。
情報は武器。
信用は防具。
契約は――鎖。
彼女はすべてを理解している。
「エレノア様、例の国から使者が」
レオンが耳打ちすると、彼女は小さく頷いた。
「ついに来ましたのね。……“元”婚約者の国から」
使者は焦っていた。
物資不足、財政難、民の不満。
原因は明白――エレノアが抜けた“穴”。
「支援を、お願いできないでしょうか」
かつて彼女を断罪した国が、頭を下げている。
エレノアは少し考え、そして言った。
「条件があります」
紙に書かれた内容を見て、使者の顔が引きつった。
・不利な関税の撤廃
・商会への王権不介入
・過去の断罪の公式撤回
「……あまりに厳しい」
「でしたら結構ですわ」
即答。
代替市場はいくらでもある。
沈黙の末、使者は膝をついた。
「……すべて、受け入れます」
その瞬間、勝敗は決した。
夜。執務室で帳簿を閉じ、エレノアは窓の外を見る。
王宮では得られなかった静かな達成感。
「無双、ですね」
レオンが苦笑する。
「悪役令嬢ですもの。これくらいは」
彼女はそう言って、柔らかく微笑んだ。
断罪された少女は、もういない。
ここにいるのは――
物語を追い出された女が、現実を制した姿だった。




