物語の外で、悪役令嬢は恋をする
国外追放の馬車に揺られながら、私はため息をついた。
「……静かになったわね」
王都を離れた途端、あれほど重かった空気が嘘のように消えた。
そして馬車が止まる。
「お疲れさまでした、エレノア様」
扉を開けたのは、黒髪の青年――レオン・アルベルト。
隣国最大商会の会頭にして、私の“共犯者”。
「相変わらず、いいタイミングですこと」
「断罪イベントは一度きりですからね。見逃すわけには」
彼は冗談めかして微笑み、私の手を取った。
その仕草は、王太子よりずっと自然で、ずっと誠実だった。
――そう、私は一人じゃない。
三年かけて築いた商会。
情報網。
そして、私を“悪役令嬢”ではなく、一人の女として見てくれる人。
「王都では、すでに噂が広がっていますよ」
「どんな?」
「王太子殿下が、財政難で補佐官に叱責されたとか。例のヒロインも……理想と現実の違いに、少々お疲れのご様子で」
私は思わず笑った。
「ざまぁ、ですわね」
「ええ。とても」
彼は私を見つめ、少しだけ真剣な声で言った。
「エレノア様。これからは――悪役を演じる必要はありません」
胸の奥が、きゅっと鳴る。
「……では?」
「次は、幸せになる番です。私と」
私は一瞬だけ迷ってから、彼の腕にそっと手を絡めた。
「ええ。物語の“その後”は、私が書きますわ」
悪役令嬢の物語は、ここで終わり。
でも――
自由で、甘くて、少し意地悪な恋の物語は、今始まったばかり。




