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9 救急

「自分が求めるなろう小説を自分で作ってみよう」と一念発起して始めた活動ですが、思ったよりも多くの人に見ていただいているようで嬉しく思います。文章力も上げていきたいので、読みにくいところや矛盾しているところがあったら遠慮なく指摘していただきたいです。

お正月にまとまった時間が取れたので、しばらくは日曜日の複数投稿が続くと思います。今後ともよろしくお願いします。

「ユイちゃん、何かご家族の話を聞いていないかい?」


鎧姿の男は、そう言ってユイに問いかけた。


「え、えぇ?」


ユイは困惑したまま立ち尽くしている。

両手はいまだ、大皿を握りしめたままだ。


「チンハオ、落ち着いて説明して」


シャオユーが、子供たちを庇うように兵士の前に立つ。

ユイだけでなく、カイとランも、突然乱入してきた鎧姿の男に怯えている様子だった。


「義姉さん、申し訳ない。実は哨戒任務中に、ニンニンの森で負傷して倒れているユンくんを発見したんだ。ご両親の姿が見当たらなくて……。ユイちゃんが、何か聞いていないかと思って」


「お、お兄ちゃんが……?」


ユイが、消え入るような声で呟く。


「何も……聞いていないです……」


涙を浮かべながら、声を振り絞ってそう伝えた。


その拍子に、力なく手を離された大皿がテーブルの上で揺れ、

しばらく不安定に動いた後、カタンと音を立てて静止した。


宴の席にいた一同は、チンハオと呼ばれた兵士に導かれ、託児所の医務室へと向かうのだった。




リョウは、ニンニンの森がどこにあるのかを知らなかった。

だが、負傷者が託児所の医務室に運ばれてきたということは、南門から搬送されたのだろうと推測する。


アワル村の外周を囲う石壁は、東西に引き延ばされた楕円形をしている。

中央には役所と広場があり、そこから縦横に大通りが伸びる。


役所から南へ向かう大通り沿いには、食事処や日用品を扱う店が並ぶ商店街が二百メートルほど続き、その先に住宅街が広がっている。

住宅街もまた、三百メートルほどの奥行きを持って並んでいた。


この一帯は、リョウが生まれた時に初めて目にした街並みを含んでいる。

一階建ての立方体の建物が、途切れることなく並ぶのが特徴だ。


建物はそれぞれ、色とりどりに塗られ、看板や絵で飾られている。

だが、すべてが同じ大きさであることに気づいたかつてのリョウは、ここが大規模な都市計画によって作られた、いわば建売住宅の街なのだろうと想像していた。


住宅街の南端には兵舎があり、その向こうに南門があるらしい。

南門近くの住宅街には兵士が多く住んでいる。

元々そのために整備された区画なのだろう。


兵舎に併設された託児所に通う子供たちの家も、この住宅街に集中している。


ユイの家も、その南部住宅街にある。

隣り合う二軒を借り、一方を住居に、もう一方を倉庫兼店舗として使っていた。


壁外で薬草や山菜を採取し、それを売ることで生計を立てているらしい。

託児所に立ち寄った足で、兵舎へ薬草を届けに行くユイの両親の姿を、リョウは何度か見かけたことがある。


ユイの兄であるユンは、半年前に九歳になり、家業を手伝っている。

ユイが誇らしげにそう話していたことを、リョウは覚えていた。




医務室に入ると、ユンはベッドの上でうつ伏せに寝かされていた。


ユイが、息を呑む。


ユンの右脇腹から、とめどなく血が溢れている。

脇腹を押さえている白い布は、みるみるうちに赤黒く染まり、次々と新しい布に取り替えられていく。


ガオは、直立不動のまま涙を浮かべていた。

カイとランは、すでにシャオユーに連れられて部屋の外へ出されている。

遠くから、えずくような声が聞こえた。


ユイの顔からは血の気が失せ、何かをうわごとのように呟いている。

リョウは、ただ茫然と立ち尽くしていた。


(このまま失血し続けたら、助かるはずがない……)


最後に医務室へ入ってきたチンハオは、状況を把握するために一瞬を費やし、

次いで、ユンの傍らに座る白髪の老爺に気色ばんだ。


「おい! 子供にこんなものを見せるな! 処置しておくって言ってただろ!」


老爺は、小さく頷いた。


「……すまん」


老爺はタオルを外す。

肉が抉れた傷口が露わになった。


骨ばった老爺の手が、傷口へとかざされる。


次の瞬間、眩いほどの緑の光が生じる。


光が消えると、傷口が、樹脂のようなもので覆われていた。

血は止まっている。


老爺は振り返り、静かに言葉を続ける。


「毒に侵されている疑いがあったのでな。ある程度、血を流す必要があったのじゃ。……恐ろしいものを見せてしまったな」




リョウは、なおも立ち尽くしていた。


だが、その理由は、先ほどまでとは違う。


今、目の前で起きた出来事が。

自分の理解の範疇を、明確に超えていたからである。


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