5 七年
リョウが生まれてから、七年が経った。
彼が生まれ、育ってきたアワル村では、誕生日を祝う文化がしっかりと根付いている。
アワル村は、石壁と東・南・北の三つの門に囲まれた集落だ。
ケメルデ王国南部開拓の主要拠点の一つとして設置された、いわゆる開拓村である。
もっとも、近年は国家方針として積極的に南進しているわけではないらしく、現在のアワル村は、防衛拠点としての役割が主になっている。
流れ着いた盗賊や、他国から送り込まれた間諜を食い止めるための、前線に近い村という位置づけだ。
こうした不安定な治安を背景に、アワル村では「九歳未満の子供は石壁の外に出てはならない」という決まりがある。
その規則を機能させるため、村の住民は年齢や居住地を厳密に管理されているのだという。
リョウは生まれてから現在に至るまで、昼間は兵舎併設の託児所で過ごし、それ以外の時間を自宅で過ごす生活を続けてきた。
託児所では、ほぼ同時期に生まれた四人と、ひとつのグループとして扱われている。
担当の保母役は、初対面の際に盛大な号泣を浴びせた相手になる、シャオユーという女性だ。
シャオユーは、兵士である夫に嫁ぐ際、その任地であったアワル村へ移り住んできた。
しかし、夫は遠征中に殉職し、それ以降、兵舎併設の託児所で働いているらしい。
シャオユーの従兄弟がチョウガンの部下にいるそうで、こうした事情は、リョウが家庭内で盗み聞きすることで手に入れた情報である。
もっとも、託児所でその話題に触れることはない。
なにせ、リョウの友人の一人であるカイは、シャオユーの息子なのだ。
彼は父親の顔を一度も知らないまま、七年間を生きてきたのだ。
リョウの七歳の誕生会には、同世代の子供であるガオ、カイ、ラン、ユイ。
そして、その世代の担任であるシャオユーと、リョウの母・リンが参加する予定になっている。
会場は、託児所内の明るいオレンジ色で区切られた部屋だ。
誕生会では、リンが村内のパン屋の設備を借りて焼き上げた、果物入りのシフォンケーキが振る舞われることになっている。
チョウガンは、現在も長期遠征に出ている。
彼がアワル村に滞在できるのは、年間でせいぜい半分ほど。
リョウの記憶では、父親が誕生会に参加したのは五歳のときが最後だった。
忙しさは幼心にも伝わっていたため、不満を抱くことはない。
ただ、最初の半年間の遠征から戻った直後、二ヶ月の報告出張として王都へ向かうと聞いたときは、兵士という職業をとんでもないブラック職業だと思ったものだ。
報告出張の直前に聞いた話(例によって盗み聞きだが)によれば、本来、経理や報告書作成といった文官業務は、チョウガンの担当ではないらしい。
だが、役所勤めで優秀な役人でもあるリンと結婚したことで、その手の仕事まで回ってくるようになった、ということだった。
さらに言えば、アワル村の兵舎維持予算は年々削減されており、その皺寄せがリョウの両親に集中している側面もあるのだろう。
リョウは、生後六ヶ月の時点で、両親に深い同情を寄せていた。
もっとも。
数日後、その二ヶ月間の報告出張を、リョウをシャオユーの家に預けるという力技で、新婚旅行に変えてしまう二人の逞しさを目の当たりにし、リョウの同情は一瞬で吹き飛んだのだが。
ともあれ、そんな事情もあり。
リョウの七歳の誕生会は、
四人の友人と、二人の母親に囲まれて行われることになったのだった。




