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45 開戦

コートの中央にボールが置かれる。


バレーボールやバスケットボールほどの大きさの黒いボールは、表面にわずかな凹凸があるのが見てとれた。


リョウは、まだ一度もそのボールに触れていないため、硬さや重さは分からない。


そのため、この「サッサラン」という競技について、ルールは教えてもらって理解しているものの、実際の競技性までは掴めていないというのが正直なところだった。


ルールは、ドリブルのないバスケットボールに近く、パスを繋ぎ、相手陣のリングにボールを上から通すことで得点する球技らしい。


試合開始は教師の合図で行われる。

各チームは自陣のエンドラインに沿って整列し、その合図と同時に中央のボールを奪いに行くか、あるいは持ち場へと展開する。


リョウのポジションは中衛(テンガー)で、開始と同時に中央付近へ走るよう指示されている。


可能であればボールを奪ってもよいとアグースは言っていたが、おそらく無理だろうとリョウは考えていた。


ここにいるフータンの子供たちは、個人差こそあれ全体的にリョウより体格が良い。


ビブスチームで身長順に並べば、リョウは前から二番目か三番目になるだろう。


無理に争って怪我をしたいわけではないので、リョウは最初の争奪には加わらず、まずは観察に徹しようと決めていた。




整列が終わると、教師が右手を挙げる。


「あの手が下りたら、スタートだよ」


右隣に並んでいた少女が教えてくれる。


プラティというその少女は、リョウより頭一つ分背が高く、このチームでも一、二を争う俊足の持ち主らしい。


その争っている相手がアディだが、アディはリョウと同じくらいの背丈である。

脚の長さの分、最初にボールへ触れるのはプラティの方が多いとアグースは言っていた。


それに対してアディは反論していたが、アグースは軽く受け流していた。


その様子から、チーム内の力関係が垣間見えたのだった。




「はじめ」


号令とともに教師の腕が振り下ろされる。


プラティの鋭いスタートに引きずられるように、リョウも走り出す。


ビブスチームからはプラティ、リョウ、アディの三人が中央のボール奪取へと向かう。

一方で、ビブスなしチームは一人だけがボールへ向かっていた。


その他の子供たちは、思い思いのポジションに留まったり、相手ゴールを狙える位置に移動したりしている。


最初にボールへ到達したのは、わずかな差でプラティだった。


プラティは足の裏でボールを後方へ弾き、その勢いのまま体を丸めるようにして突っ込み、その先にいた相手の男子に、体当たりのようにぶつかった。


(こわっ……)


突然の衝突にリョウは目を見張る。


しかし特に珍しいことではないらしく、ぶつかられた男子も受け身を取り、すぐに立ち上がっていた。


その間に、自陣向きに転がったボールを拾ったのはアディだった。


すぐに右側を走るアグースへとパスが送られる。


アグースはボールを両手で受け取ると、その場に止まり、次の一手を探る。


数秒の静止。


この競技では、ボールを持ったまま足を動かすことはできない。

アグースに残された選択肢はパスのみ。


そう考え、リョウは相手の隙を探るために小刻みに移動してパスを受け取ろうと試みる。


そんな中、アグースは、いきなりゴールへ向けて遠投を行った。


オーバーハンドの力強い投球は吹き上がるような軌道を描き、ゴールのはるか上へと伸びていく。


そのまま相手ゴールの先にある建物の壁に当たるかと思われたのだったが、頂点付近で急激に失速した。


ボールはそのまま落下し、相手チームのリングへと吸い込まれるように向かう。


しかし勢いが死にきらなかった分、ボールはリングの奥側に当たり、相手側のエンドラインを超えて外へと弾かれたのだった。


審判役の教師の指示により、ビブスなしチームのボールで試合が再開される。


だがリョウの思考は、先ほどの一投に完全に奪われていた。


(あの失速、魔法だよな。事前に説明は受けていたにせよ、すごい動きだったな……)


ビブスチームの前衛(デパーン)は、アディ、アグースに加え、リニという少女が担当している。


リニは、落ち着いた雰囲気の少女で、「飛んでいるボールに魔法をかけるのが得意」だと言っていた。


先ほどの現象は、アグースの投球にリニが干渉した結果なのだろう。


アグースが時間を使っていたのも、リニが相手ゴールの近くの位置に着くための時間稼ぎだったはずだ。


この競技では、露骨な時間稼ぎは禁止されているという。


だがアグースは、視線や腕の動きでパスの気配を見せ続けていた。


結果としてリョウも引きつけられ、動かされていた。


そこに、チームリーダーとしての巧みさがあるのだろうと、リョウは納得したのだった。




そんなことを考えながら動いていると、いつの間にかリョウは相手のパスをカットしていた。


初めて触れたボールは、想像よりも重く、ごつごつとした手触りだった。


(いや、そもそもこのボールをあんな力で投げること自体とんでもないな)


リョウの中でのアグースの評価はさらに上昇したのだった。

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