40 開示
円卓の周りに、三人は座った。
人数が少ないため、等間隔ではなく、半円を描くように寄っている。
ディアンは斜め向きに腰掛け、リョウとガオに向き合う形になっていた。
「まず、トリオーノとユイちゃんは婚約するわ。
それによって、ユイちゃんはケタマカンの奴隷販売会に参加する権利を得られるはずよ。
ユイちゃんのご両親がそこに出てくるかには運も絡むでしょうし、無事に買い取れるかは、正直チャンドラー次第ね」
「あの……どうして、そこまで協力してくれるんですか?」
「トリオーノの婚約者のためよ?
ケタマカンに奴隷二人分の代金を払うくらい、たいしたことじゃないわ」
「いや、そうじゃなくて……順番が違うというか……」
ディアンは、少し考えるように視線を落とした。
「……そうね。順番が変よね。ちゃんと話すわ」
そう前置きしてから、ディアンは続ける。
「トリオーノはね、私に憧れて、ずっとケメルデ王国に行きたいと言っていたの。
使う機会があるかも分からないのに、ケメルデ語まで勉強して」
リョウは、鉄格子越しに必死で言葉を伝えようとしていたトリオーノの姿を思い出し、腑に落ちた。
あれは、初めて訪れた成果発表の場だったのだ。
「そんな時に、あなたたちが現れた。
トリオーノがトンジョランの友達と大きな水魔法を見に行ったら、気絶しているあなたと、泉でもがいているガオちゃんとユイちゃんを見つけたそうよ。
大量に水を飲んでいたガオくんとユイちゃんは屋敷に運ばれて、魔法酔いで気絶していたリョウくんは地下牢に入れられた、というわけ」
「目が覚めたら知らねえ天井だったからびっくりしたんだよ……」
ガオがぼやく。
「じゃあ、その時点でトリオーノさんとユイたちは……?」
「どうかしら。運ばれている時に意識があったかは分からないわね。
特にユイちゃんは足を脱臼していたから、すぐ治癒院に回されたし、ゆっくり話す余裕はなかったと思うわ」
「……なるほど。
それでも、婚約を認めてくれた理由には、まだ繋がらない気がするんですが」
「今度はユイを奴隷にするためですとか言わねえよな?」
リョウとガオの視線が、同時にディアンに向く。
ディアンは、少しだけ言葉を選ぶように沈黙した。
「……意味が分からないわよね。
本当は私から話すことじゃないかもしれないけど、隠して信頼を失う方が良くないと思うから言うことにするわ」
一拍置いて、ディアンは告げる。
「トリオーノはね、ユイちゃんの心の強さに惹かれたそうよ」
「「へっ?」」
二人の声が重なった。
トリオーノが乗り気であるなら、この婚約は一方的な犠牲ではない。
「じゃあ……ユイのために色々してくれるのは……」
「ええ。トリオーノのため、という面もあるわね」
その後、リョウとガオは、泉へ辿り着くまでの経緯をディアンに話した。
捜索打ち切りの噂を聞いたこと。
託児所の仲間の助けもあり、書店で地図と本を手に入れ、託児所からの脱出したこと。
リョウの魔法で石壁を越えたこと。
森で大鷲と遭遇し、水魔法を必死に発動した人。
全てを聞き終えたディアンは、静かに息を吐いた。
「……あなたたち、まだ小さいのに凄いわね。
でも、その話を聞く限り、一刻も早くアワルに戻って説明した方が良さそうね」
「確かにそうですね。ユイたちが戻るまで一週間近くありますし、無駄に心配をかけないためにも、一度戻った方がいいかもしれません」
「でもさ、俺たち絶対めちゃくちゃ怒られるぞ?」
「その分、ランやカイはもう怒られてるはずだよ。状況を共有できるのは、僕たちだけだ」
リョウは少し考えてから続ける。
「問題は、ここからアワルと、この屋敷の往復をどうするかだよ。
アワルへ行くのは何とかなるとしても、自力で戻ってくるのは難しいだろ?」
「それなんだけどね……」
ディアンが、微笑んで口を開いた。
「アワル村、私も一緒に行っていいかしら?」




