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4 萌芽

目を覚ますと、チョウガンが家を出るところだった。


確か、初めてこの家に来たときにすれ違った兵士には長期任務だと言っていた。


(長期って、どれくらいなんだろう? そもそも、長期任務って何をするんだ?)


地域情勢に明るいわけでもなく、むしろ何も知らないリョウの内心を見透かしたかのように、チョウガンはこちらを振り返って言った。


「すぐ家を空けることになって、すまんな。半年後には戻る」


(半年……? 一年や一日って、この世界でも同じ長さなのかな。

そういえば、キッズチェアの説明にも五年って書いてあったけど……)


どうやら、リョウの意識は別のところに向いていたらしい。


そんなこととは露知らず、チョウガンは、思索に沈む我が子の表情を寂しさによるものだと受け取った。


「……ごめんな。必ず戻ってくる」


リョウに言うというより、自分自身に言い聞かせるように呟くと、チョウガンは我が子の頬にそっと口づけをした。

そして未練を断ち切るように、扉をやや強く閉めて家を出ていった。


 


家に残ったのは、リンとリョウの二人だけだった。


リンは、麦粥のようなものを木のスプーンでリョウの口に運び、水で口をゆすぐ。

いつも通りの、二人の共同作業としての食事。


ただ一つ、これまでと違うことがあった。


食後、リンはリョウを抱き上げ、街を歩くときに使っていたカゴへと寝かせたのだ。


カゴは植物性の蔓を編み込んだもので、内側には小さなクッションが敷き詰められている。


リョウは体を器用にくねらせながら、落ち着く姿勢を探した。

これから起こるであろう環境の変化、そして目にするであろう新しい光景に、胸が弾む。


家のベッドの上で過ごした二日間で、赤子なりの体の使い方は身についてきた。

同時に、変わらない環境への退屈も、確かに芽生え始めていたのだ。


カゴの中で、化粧や荷造りをするリンを待つ。

だが、身動きの取りづらいカゴの中に固定される生活は、ベッドの上だけで過ごすよりも退屈だった。


家を出るのを待ちきれず、リョウはいつの間にか寝息を立てていた。


 


次にリョウが目を覚ましたとき、見知らぬ女性の顔が至近距離から覗き込んでいた。


驚きは、即座に号泣として出力される。


「びっくりさせちゃったね、ごめんね!

おばさん、顔が怖かったかなあ。リンちゃんはあんまり泣かない良い子だって言ってたけど……」


女性は一度リョウから離れ、何かを取りに行って戻ってくる。


涙を止めようと必死になるが、止め方が分からない。


女性が手にしていたのは、頭の中央から一本のツノが生えたウサギを模したラトルだった。


「ほら、これ。振ってみて!

ガラガラ〜、面白いでしょう?」


リョウは、ぴたりと泣き止んだ。


「あら、良い子。すぐ泣き止んだわ。

これ、貸してあげるから良い子にしてるのよ。

ただでさえ今年は、小さい子が多いんだから……」


そう言い残し、女性は少し離れた場所で眠る別の乳児の世話に向かった。


どうやら、ここは託児所のような役割を担う施設らしい。


ライトオレンジの壁で区切られたこの部屋は、それだけでチョウガンの家よりも広い。

周囲を見渡せば、同じような区画がいくつも続いている。


ここは、リョウと同年代、つまり乳児を預かる部屋のようだ。

先ほどの保母が、この区画にいる数名の乳児を担当しているのだろう。


 


念のために言っておくと、リョウは単にラトルが気に入って泣き止んだわけではない。


……いや、ある意味では、そうとも言えるのだが。


人工土。


リョウの興味を強く引いた、あのキッズチェアの素材。

ラトルは、それとまったく同じ素材で作られていた。


緑がかった独特の外見。

ぷにぷにとした、不思議な弾力。


その質感に目を奪われたという点では、ラトルに夢中になる他の乳児たちと、何ら変わりはなかったのかもしれない。


だが、リョウの中では、リョウ自身も気づかないうちに、新たな成長の萌芽が生まれていたのだった。

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