33 独房
リョウが目を覚ますと、打ちっ放しのコンクリートが視界いっぱいに広がっていた。
背中に触れている床も、ひんやりと冷たい。
おそらく同じ素材だろう。
全身に強い倦怠感が残っている。
体を起こす気力はなく、目線だけで周囲を確認する。
部屋は、せいぜい三メートル四方。
壁のうち三面はコンクリートで、残りの一面には鉄格子が嵌められていた。
独房だ。
(入ったのは、初めてだなあ……)
少し落ち着くと、途切れていた記憶が一気に押し寄せてくる。
アワルの石壁を越えたこと。
ニンニンの森に入り、泉を目指したこと。
大鷲に襲われ、水魔法を力の限り放ったこと。
そして。
絶対に、自分が責任を取らなければならない二人の顔。
リョウは、体のだるさを忘れて飛び起きた。
独房の外は廊下のようになっている。
左側は壁で塞がれていた。
リョウは右を向き、鉄格子を掴み、声を張り上げる。
「ガオ! ユイ! 無事か? 怪我はないか?」
必死な姿が、無実を訴える囚人そのものだと自覚し、少しだけ滑稽に思えた。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
「ガオ! ユイ! 聞こえるか?
リョウは無事だ!」
しばらく叫び続け、肩で息をするようになった頃。
コツコツと、靴底が床を叩く音が近づいてくる。
現れたのは、白い肌に、それ以上に白い長髪と眉を持つ長身の男性だった。
革のチュニックにベルト。
首元にはネックレス。
両腕には複数のブレスレット。
装飾は多いが、どこか高貴な雰囲気を感じさせる。
「エテンナフェソーネッペ?」
男性が何か問いかけてくる。
「え?」
続けて、別の言葉。
「エプフェフェヴェフフェソエッセーネッペ?」
意味は、まったく分からない。
男性は困ったような表情を浮かべる。
リョウも、同じだった。
しばらく見つめ合っていると、右側からもう一人の男性が現れる。
こちらは体格がよく、全体にごつごつとしている。
二人目の男性は、長身の男性の前で深く身を屈め、素早く言葉を発した。
その姿勢から、単なる年齢順ではない上下関係があることだけは分かった。
「テーゼエレップニメックースレップ!
ニパサフリッテルトープウセフヴィシェファップ、ニシーレフェヴェフフェソアヴェーゼ」
「エクェレイオーヴァケメルデ?」
長身の男性が聞き返す。
聞き覚えのある単語が混じった。
「ケメルデ!」
思わず、リョウは声を上げていた。
長身の男性はリョウを見つめ、二人目に命じる。
「セクセレップエラトリオーノ」
「ゼー!」
二人目の男性はそう返事をして、廊下の奥へと走り去った。
意味は分からない。
それでも、目の前にいる人たちが恐らく「森人」であることと、「ゼー」が承諾を示す言葉だということは、何となく理解できた。
しばらくして、先ほどの男性と、リョウたちより少し年上に見える少年が現れる。
十歳から十二歳といったところだろうか。
少年は、長身の男性から耳打ちされ、こちらを向いた。
たどたどしい発音で、問いかけてくる。
「あなたは、ケメルデ、しゅしん、ですか?」
ケメルデ語を話せるらしい。
「はい」
リョウが答えると、少年は再び男性に伝え、またこちらを見る。
「まほう、つかった、あなた、ですか?」
リョウの胸が跳ねる。
(泉での魔法を見られていたのか?)
一瞬迷ったが、今さら誤魔化す意味はないと判断し、頷いた。
「はい。その場所にいた、僕の友人を知りませんか?」
「ゆうじん?」
「ともだち」
少年は理解したように頷き、男性に伝える。
しばらくして、翻訳が返ってくる。
「ちかくの、ばしょ。
ふたり、ほご、している」
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
少なくとも、無事ではあるらしい。
少年は続ける。
「さんにん、どうして、あそこ、いた、ですか?」
リョウは、正直に話すことに決めた。
どうせ、生殺与奪はこの人たちの手の中にある。
「友達のユイのお父さんとお母さんが、この森でいなくなったからです」
少年は、気の毒そうな表情を浮かべ、男性に伝える。
男性は驚いた顔をし、何かを囁く。
少年は、苦しそうな顔で翻訳した。
「ケタマカン、ゆうかい、した、かもしれない。
みなみの、くに。
どれい、はんばい、する、かもしれない」
(ケタマカンは、恐らく人の名前なんだろうな......)
有力で、そして最悪の可能性。
生きているかもしれない。
だが、それは救いとは限らない。
リョウは、その重さを受け止めきれず、何も言葉を返せなかった。
新言語は一定のアルゴリズムに則って作っているので、復元は可能なのですが、普通にめんどくさくなってしまったので、今後あまり登場しない予定です。
解読できたらコメントしてみてください。




