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27 不安

リョウはリンに起こされて起床する。


「母さんたち、今日は早く出ないといけないから。父さんと一緒に行くなら、さっさと朝ごはん食べちゃいなさい」


その言葉を聞いて、リョウの胸がちくりと痛んだ。




基本的に、リョウは周囲の大人を信頼している。


信頼しているからこそ、ユイの両親の捜索が打ち切られるという判断にも、何か合理的な理由があるのだろうと考えていた。


一方で、ユイの友人として、彼女が悩み苦しむ姿を隠し続けている状況には、危うさすら感じていた。


大人の合理的な判断の結果として、一人の友人が心に傷を抱え続けることになってしまうかもしれない。

その可能性を、リョウは受け入れることができなかった。


理性と感情の狭間で、リョウは考え続けた。そして、自分を犠牲にして両方を尊重できる方法があるのであれば、それを選ぶしかないと思っていた。


最高の結末は、もちろんユイの父母を救い出し、無事にアワルに帰ってくることだ。

リョウは当然罰を受けるだろうが、友人の悩みに比べたら安い犠牲だと思える。


次に「良い」結末は、リョウ自身が失踪し、森の捜索の期間が延びることだ。

理由は必ず調べられ、ユイの両親の件と結びつく。


自身の犠牲によって捜索の透明性が上がるのであれば、事態は好転していると言えなくもない、リョウはそう考えた。


リョウは、自分が消えることで悲しむ人がどれほどいるのかを、ほとんど想像できていなかった。


リョウにとっての最悪の結末は、計画が失敗することではない。

何も行動を起こさないまま時間が過ぎていくことだった。


合理的な判断の結果として、ユイの傷だけが残り、やがて周囲の記憶から薄れていく。

それだけは、どうしても耐えられなかった。


だからリョウの中では、自分を犠牲にしない選択肢は初めから存在していなかった。


託児所の友人たちを巻き込んだのは、断れなかったという理由だけではない。

自分が命を賭ければ、二人は守れる。

そんな、少し傲慢な確信があった。


リョウにとって重要なのは、この計画が「リョウ自身の判断」であり続けることだった。

大人を巻き込めば、それは「大人の判断」になる。


責任を引き受けたいからこそ、判断もまた自分のものでなければならない。

母親のこれまでの助言は、皮肉にも、母親の望まない形でリョウの判断基準を支えていたのだった。




「うん、父さんと一緒に行くよ。母さん、朝ごはんありがとう」


そう答え、リョウは決意を胸に朝食を口に運んだ。


父親が扉を開け、リョウが続き、母親も家を出る。

母親は鍵をかけると、そのまま中央の職場へ向かって歩いていった。


リョウはその背中を、ほんの数秒だけ見つめた。

そして振り向き、少し先を歩く父親の背中を追いかける。

父の歩幅に合わせるため、リョウは小走りになりながら、ふと前を見る。


南の空は、どこまでも青く広がっていた。

カラフルな街並みは、一点透視図法の絵のように整っていて、リョウにはその完璧さが、なぜかひどく不安定なもののように思えた。


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