23 大福
ベルッセの留学生たちが来たらしい。
北東区域の宿を借り上げ、空き家を整理して宿泊場所を確保していると聞いていたが、リョウの暮らす南部にもその影響は及んでいた。
「ベルッセ名物、チーズパンはいかがですかー!」
「王都から取り寄せたアクセサリー売ってますよー!」
ベルッセから来た露天商たちだ。
どこかでカレーも売っているらしく、微かにスパイスの香りが漂っている。
朝、家を出る前、これだけの規模で商隊が来るなら来た後に材料を調達すれば良かったと、父親が自虐気味に愚痴っていた。
それに対し、母親は「こういうのは気持ちが大事なんじゃない?」と言っていた。
言っていることと、それを言いそうな方が逆だと思ったが、口に出すと失礼だと感じ、リョウは黙って朝食を食べた。
今日の託児所の送迎担当は父親だった。
正直なところ、リョウはもう送迎の必要はないのではないかと思っていた。
前回、練兵場には一人で行っている。それが許されるなら、託児所も問題ないはずだ。
もっと言えば、その日の午前中は一人で家にいたのだから、そもそも託児所に行く必要があるのかも怪しい。
だが、友人たちと過ごす時間は楽しい。
そう思い直し、リョウは考えるのをやめた。
託児所に到着し、オレンジの部屋に入ると、見知らぬ母娘がいた。
「ラーメイさん、タオちゃん。こちら、リョウくんです。自己紹介してね」
シャオユーに促され、リョウは挨拶をする。
「おはようございます。リョウです。七歳になりました」
「しっかりしてるわね。私はラーメイ。ベルッセ市で学園の先生をしているの」
そう言ってから、後ろに隠れた娘に声をかける。
「ほら、タオも」
タオという女の子は、ラーメイの背中から顔を半分だけ出した。
「……タオも七歳」
それだけ言うと、すぐに隠れてしまう。
高めのツインお団子の左側だけが見えていた。
「照れ屋さんなのよ。金曜日に帰るまで、ここに通わせて貰おうと思っているから、仲良くしてあげてね」
タオは最初こそ人見知りしていたが、おやつの時間までにはかなり打ち解けていた。
一学年上の子供たちが使う「パイナップルの部屋」から、六人用のゲームを借りてきたランの功績が大きい。
三対三で、それぞれが赤と青の石を一つずつ持って行う、三目並べの亜種のようなゲームだ。
最初はリョウ、カイ、ランが青チームだったが、赤チームが負け続けたため、途中でチームを入れ替えた。
リョウとユイを交換した結果、戦力の均衡が取れた。
ユイは不満そうだったが、カイに嗜められていた。
以前よりも落ち着いたその様子に、リョウはカイの小さな変化を感じたのだった。
タオは、負け筋に気付くのが得意だった。
特にガオが焦って仕掛けを急ぐと、後ろから肩を叩き、
「そこじゃないよ」
と小さく助言するようになっていた。
おやつの時間になり、子供たちはテーブルを囲む。
今日のおやつは、餅米と黒砂糖を混ぜて蒸した団子に、すりおろしたココナッツの果肉をまぶしたものだった。
「俺、このおやつあんまり好きじゃないんだよな……」
ガオは、ココナッツが苦手だ。
すると、タオが遠慮がちに手を挙げた。
「私も……食べられないかも。お母さん?」
ラーメイは菓子を確認し、少し考えてから首を振る。
「ココナッツは大丈夫だと思うけど、念のためやめておこうか」
タオはナッツ類を食べると軽い中毒症状を起こすという事情を聞いたシャオユーが、困った顔をする。
「どうしますか? おやつは無しになってしまいますけれど……」
シャオユーがそう言うと、ラーメイが少し考える。
「それなら、ベルッセから来たお友だちのお店が開いているはずだから、買ってきてもいいですか?
もし迷惑でなければ、みんなの分も」
「それは構いませんけど、みんなの分までは……」
ラーメイが遠慮がちに言いかけたところで、ガオが身を乗り出した。
「え? それ最高じゃないですか!
ラーメイさん、俺も一緒に行っていいですか?」
「ガオ、別について行かなくてもよくない?」
ランが首を傾げる。
「でもさ、せっかくなら自分で選びたいだろ。
それに……」
ガオは一瞬だけ視線をタオに向ける。
「タオだって、好きなの選びたいだろ?」
タオは少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく頷いた。
「……うん」
「ほらな」
ガオは満足そうに胸を張る。
「ユイ、俺の分のお団子食べていいぞ」
「えぇっ、やったあ!」
ユイが歓声を上げると、ラーメイはくすりと笑った。
「いいわよ。それじゃあ、私とタオとガオくんで行きましょう。
お土産は、タオと仲良くしてくれたお礼に何か買ってくるわ」
一時間後、三人は戻ってきた。
ラーメイが持ち帰った箱の中には、様々な果物の砂糖漬けが入った大福が詰められていた。
そんな中、なぜかガオは顔を真っ白にし、その日は何を聞いても、生返事を返すだけだった。




