22 制御
練兵場の受付で入場許可証を渡すと、リョウは第一訓練室へ案内された。
以前、チョウガンとガオが模擬戦を行った場所だ。
「室内の区切られた空間だと、魔法の暴走は起きにくい。
細かい魔法制御の訓練は、こういう場所でやることが多いんだ」
リョウが訓練室に入ると、ガイはすでに中にいた。
今日はローブを羽織っているが、ハットは被っていない。
肩のあたりまで伸びた黒髪の中に、赤く染まった一筋があることに、リョウは改めて気づいた。
「前回は中途半端に終わっちゃったからね。
まずは、何が起こったのかを整理しようか。リョウくんは、水魔法生成のイメージをした?」
リョウは頷いた。
厳密には水分子が結合していく様子を思い描いていたのだが、それが水魔法生成のイメージだということなのだろう。
「そうか。正直に言うと、あれだけの魔法水を出して維持できるなら、現時点でも水魔法使いとして暮らしていけるよ。
商会や建築業で高給取りを目指せる。高級宿で働くのもいいだろうね」
「楽しみです」
リョウは素直に答えた。
「たとえば、研究者には、どうやったらなれますか?」
その瞬間、ガイの表情に影が差した。
「……魔法研究は勧めない。
魔物や農学の研究ならまだしも、あそこは平民が行く場所じゃない」
ガイは言葉を選ぶように続けた。
「そもそも、魔法使いを便利な社会インフラくらいにしか考えていないからね」
(え? 自分も魔法使いなのに?)
リョウの胸に、小さな違和感が残った。
気まずい空気のまま始まった個人授業だったが、実践に入ると一気に熱を帯びた。
魔法の終わりを明確に意識すること。
自分の限界を見極め、発動範囲と時間を先に定めること。
それらを繰り返し教え込まれ、前回のような暴走は起こらなかった。
試しに土魔法に挑戦すると、バランスボールほどの魔法土の塊を、あっさりと生成してみせた。
それを見たガイの指導は、さらに熱を帯びる。
最終的には、硬度や耐久性こそないものの、再現性高く十五センチ四方ほどの魔法土のブロックを作れるようになっていた。
「繰り返し練習すれば、硬度も耐久性も上げられる。
形状も、もっと複雑にできるようになるよ」
柔軟な弦と、魔物の皮膚を貫く矢を同時に生成できるガイの技量を思い出し、リョウはその凄さを実感した。
結局、先に帰宅したチョウガンがリョウの不在に気づき、練兵場まで迎えに来ることになった。
まだ遊びたいと喚くリョウを、無理やり引き剥がして連れ帰るほどの熱中ぶりだった。
リョウは、条件付きでの魔法練習の許可を取り付けて帰宅することができた。
魔法土のブロックを生成し、消す。
それだけの反復練習だ。
今回はガイが味方につき、継続的な訓練の重要性を説いてくれたのが大きかった。
その後、リョウが父親に魔法土の生成を見せていると、夜遅くに帰宅したリンがそれを見咎めた。
チョウガンは、息子との約束を守っていた。
リンは、先週末の魔法事故について情報共有されていなかったことに激怒した。
「あなた、ジンさんのところに預けたって言ってたじゃない!
そんな嘘をつく必要があったの?」
「……リョウと魔法のことは黙っておくって、約束したから」
「それ、あなたから提案したなら同じことでしょう!」
リンが怒っているのは、約束を破ったことではなかった。
母親として、我が子の安全に関わる話を知らされていなかったこと、それ自体だった。
ベッドの中で、リョウは嘘の寝息を立てながら、二人の会話を盗み聞きしていた。
庇ってくれる形になった父親への感謝と、少しの罪悪感を胸に抱えながら。
実は、浴場での秘密訓練と、練兵場での魔法事故には、呼び水となるガイの魔法矢があったかどうかの違いしかない。
浴場で魔法事故を起こしたらリンの怒りの矛先は全てリョウに向かっていたわけだが、幸運にもその事態を回避したリョウは、その幸運自体を認識していないのだった。




