21 地理
リョウは父親との約束を守り、六日間、意識して魔法を発動しないよう努めていた。
そして今日が、ガイとの約束の日だ。
両親は忙しいらしく、休日にもかかわらず出勤するという。
そのため、リョウは昼に軽食を摂ったあと、一人で練兵場へ向かうことになっていた。
テーブルの上には、受付で渡すための入場許可証と、干し肉を挟んだパンが置かれている。
約束の時刻まで、まだ時間はたっぷりある。
(父さんに新しい雑誌を買ってもらうよう頼むんだったな……アワル書店に行った時に言えば良かった)
リョウはすでに『月刊 魔法と生きる 六月号』を読み終えていた。
魔物辞典については、通して読むものではないと感じている。
第一章を読み終えた後は、雑誌で言及された項目を調べるために参照する程度に留めていた。
そのため、過去の『月刊 魔法と生きる』を何冊か買ってきてもらおうと考えていたのだ。
チョウガンとリンが忙しい理由は、隣街ベルッセからの集団遠征が、兵士だけでなく文官や商人を含む大規模なものになったことにある。
アワル村の周囲には三つの居住圏が存在し、それぞれが石壁に囲まれている。
東にカナン村、北西にアッタース村。
そして、この三つの村と平行四辺形を描くような位置、つまりアワル村から見て北東に、ベルッセ市がある。
ケメルデ王国では、伯爵家が治める都市を「市」、子爵家が治める都市を「村」と呼ぶのが慣例だ。
ただし、市と村の間に明確な上下関係は存在しない。
一方で、その上位に位置づけられる行政単位が「県」である。
ベルッセ市もアワル村も、セラタン県に属する。
県は国内に五つ存在し、それぞれを候爵家が治めている。
ほかにも、商人や特定文化圏に自治を認めた「町」や、王家・公爵家の直轄領などがあるのだが、ここでは一旦遠征の話に戻ろう。
カナン村とアッタース村は、元々は開拓拠点として築かれた場所だ。
石壁こそ整備されているものの、居住者は伸び悩んでおり、近年ではベルッセ市からの集団移住が計画されている。
前線を維持するには、十分な人口が必要なのだ。
一方、最前線の開拓村として歴史の古いアワル村は、居住者数でも兵の質でも二村を上回っている。
チョウガンをはじめとするアワル兵士団は、定期的にカナンやアッタースへ赴き合同訓練を行ってきた。
また、南部の森に直接接していないベルッセ市とも、移住計画に向けた情報交換を続けている。
時には県都や王都へ出張することもあった。
今回のベルッセ市の集団遠征は、その移住計画の最終段階、いわばリハーサルだ。
元々は兵士のみの遠征になる予定だったが、アワル兵士団や村役所の想定以上の働きにより、規模が拡大した。
いわゆる、仕事が早すぎたがゆえに、仕事を増やされた形である。
リョウは、こうした経緯を詳しく知っているわけではない。
ただ、今回の遠征が両親の仕事にとって重要な節目であることくらいは理解していた。
集団遠征が終わるまで、二人とも忙しいだろう。
次に読む本が手に入るのは、当分先になるかもしれない。
そう考えて、リョウは小さくため息をついた。




