20 書店
チョウガンが立ち寄ったのは、中央から少し東に向かった場所にある書店だった。
「アワル書店」という名だが、このアワルは村から取ったものではなく、順番が逆なのだという。
元々、全国で書店を展開していたアワル男爵家が、識字率の向上などケメルデ全域の文化発展に貢献した功績を認められ、子爵家へと陞爵した。その際に与えられた領地が、このアワル村らしい。
店の柱に貼られた『アワル書店のあゆみ』と題されたポスターに、そう書いてあった。
(書店を開いてた家が、開拓村に飛ばされることってあるのか?
理由もイマイチはっきりしないし……)
左遷とまでは言わないが、アワル家は体よく使われたのではないか。
リョウはそんな想像を巡らせた。
この書店では、入門的な学術書から言語学習のための書籍、大衆小説や絵本まで幅広く扱っている。
入り口近くの言語学術の棚には、さまざまな国名が並んでいたが、どれもリョウには聞き覚えのないものばかりだった。
『魔物と声を通わす』
『神の言語』
中には、少しオカルトめいたタイトルの本も混じっている。
識字率向上という看板に違わぬ品揃えだ。
チョウガンは店の右奥へ進み、料理本の棚をしばらく吟味した末、
『ゼロから作るスパイスカレー』という本を手に取った。
「その本なの?」
「ああ。ベルッセで親しまれている料理らしい。接待も仕事のうちだからな」
「そういうもんなんだ」
チョウガンは、数枚の硬貨を店主に手渡し、数ラリーの会話を交わした後、鞄から紙袋を取り出して本を鞄に入れる。
(そっちに入れるんだ......)
書店を出た後、二人は家に戻る途中で、村外から来た商会の店や薬草店に立ち寄った。
リョウの知らない香草や野菜が、次々とチョウガンの持つ買い物用の紙袋に放り込まれていく。
その日の夕食は、豆のスープとライス、ヨーグルトに漬けた干し肉を焼いたものだった。
豆のスープは真っ赤で、信じられないほど辛かった。
リョウは辛味に涙を流しながら、数分前までスパイスの香りに胸を躍らせていた自分を呪った。
食後、リョウは日課の読書に取りかかった。
いきなり魔物辞典の後半を開いたのは、『魔物と声を通わす』という言葉が気になったからだ。
もし人型の魔物が存在するなら、このあたりに載っているはずだと考えたのだ。
魔物との実体験はないため、完全に主観だが、魔物辞典は概ね討伐難易度順に並んでいるように見える。
最初は低位魔物から高位魔物の順だと思ったが、スライムの掲載位置がやたらと早い。
更に言うと、人型の魔物は討伐難易度が高いはず、というのも、あくまでリョウの思い込みだ。
二つの憶測が重なった結果、リョウは辞典を最後のページから斜め読みしていた。
だが、その判断は何も間違っていなかった。
人型の魔物は、どこにも掲載されていなかったのだ。
(じゃあ、魔物をペットにするみたいな需要なのかな?)
そこまで考えたところで、魔物への興味は、再び魔法への関心に押し流されていった。
(ホウファレン、このページにも出てくるじゃん……どんだけ暇なんだよ、この爺さん)




