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2 両親

リョウは、恰幅の良い男性に籠ごと抱き上げられると、自分が生まれた木製の小屋から運び出された。


空は真っ赤に染まり、その色は遠く彼方まで途切れることなく広がっている。


それが高い建物が存在しないからなのか。

それとも、自分の体が小さくなっているからなのか。


リョウには判断がつかなかった。


(たぶん、両方だ)


理由を考えることは、昔から嫌いではない。

リョウは、そういう少年だった。


 


リンと呼ばれていた女性と、リョウを抱く男性は、歩きながら時折、籠の中を二人で覗き込み、微笑み合っている。


リョウが彼らを両親だと認識したのは、ごく自然な推論だった。


そこへ、正面から鎧姿の若い男性が歩いてきて声をかける。


「チョウガンさん、おめでとうございます! 男の子ですか、女の子ですか?」


「男の子だ。リョウって名前にした。昼間はお前の担当だろ? よろしく頼むな」


「了解です。シャオユーにも伝えておきます。明日からですか?」


「来週から長期任務でベルッセなんだよ。明日と明後日は休みをもらってる。その次から頼む」


「分かりました! それじゃ、また兵舎で!」


若者は手を振り、そのまま去っていった。


 


この短いやり取りだけで、リョウは理解する。


父親の名はチョウガン。

そして、兵士のような役割に就いているらしい。


(兵士……昔の世界に生まれ変わった?)


彼らは、日本語を話しているわけではない。

それなのに、言葉の意味が自然と頭に入ってくる。


(どうして、理解できるんだろう)


まず、ここは現実なのか、それとも夢なのか。

そして、現実だとしたら、なぜ自分は、こんな状況にいるのか。


(確か、バスに乗って単語帳を見ていて……強い衝撃のあと、気づいたら赤ん坊で……)


そもそも、自分は今、どんな姿をしているのだろう。


(……死後の世界なのか?)


努めて冷静に分析しようとするが、初めて尽くしの状況に思考は散らかる一方だった。


ガラス張りの窓のようなものは見当たらず、自分の姿を直接確認する術はない。


それでも、周囲の様子から判断できることがある。

自分は、チョウガンという男と、リンという女の間に生まれた子供として、違和感のない姿をしているのだろう。


そう、確信めいた推理に至っていた。


 


チョウガンは、適度に脂肪もついているが、全体として筋肉質で大きな体躯をしている。

ラグビーやアメリカンフットボールの選手を思わせる体格だ。


垂れ下がった太い眉、無造作に生えた顎髭、後ろで結ばれた短髪。

髪と目の色は黒く、顔立ちはリョウの知る日本人の範疇に収まっていた。


リンも同様に、日本人と言われて強い違和感を覚えることはない。

ただし、より正確にはアジア系の美人と表現した方がしっくりくる。


長い髪と瞳にはわずかに茶色が混じり、柔和な表情の奥には芯の強さが感じられた。


筋肉質で背の高いチョウガンと、端正な顔立ちで笑顔の多いリン。

二人は、どう見ても幸せな夫婦だった。


リョウは、自身の浅くはない、だが決して豊かとも言えない人生経験から、新しい両親はきっと愛し合って結ばれたのだろうと感じ取っていた。


 


坂倉良弥の両親は、幼い頃に離別している。


十年以上、良弥は母と二人で暮らしてきた。


父親の記憶は曖昧で、厳しい人だったという印象ばかりが残っている。

褒められた記憶よりも、叱られた記憶の方がはるかに多い。


小学校への入学を心待ちにしていた時期に、父は突如として姿を消した。

それが、良弥の中で最大の父との出来事だった。


後から聞いた話では、数年前に勤め先を解雇されていたらしい。

だが、プライドが邪魔をして家族に言い出せず、限界を迎えた時点で、すべての連絡先を断ち切って消えた、という噂だった。


もっとも、それは親戚の話をつなぎ合わせ、良弥自身が導き出した推測に過ぎない。

父がなぜ会社を辞めたのか。

今も生きているのか。

父と母は、法的には夫婦のままなのか。


高校生の良弥ひとりでは、どうしても辿り着けない疑問が多すぎた。


ただ一つ確かなのは、女手一つで、厳しくも優しく育ててくれた母から、確かな愛情を受け取っていたという事実だ。


そのため良弥にとって、父の存在は

『有名大学を出て、良い企業に就職し、母を幸せにする』

という人生目標を形作るための、動機付け以上の意味を持たなくなっていた。


 


リョウは、前世の母を思い出し、胸の奥に罪悪感を覚えた。


できることなら、元の世界に戻って母を幸せにしたい。

それが叶わないのなら、せめて......

自分の手の届く範囲だけでも、誰かを幸せにしたい。


そんな感傷に浸っていると、チョウガンがふと足を止める。


どうやら、目的地に着いたようだった。

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