13 帰還
リョウの七歳の誕生会が終わり、今年の祝い事は、半年後に控えたユイの誕生日を残すのみとなった。
リョウが通う託児所のオレンジの部屋にも、平穏な日常が訪れたように見える。
たとえば、カイの人工土ボールを用いて、リョウの提案したPKゲームを行った。
壁の塗装が少し黄ばんでいる場所をゴールにして、キッカーとキーパーを順番に交代していく。
あるとき、ランの蹴りあげたボールがガオの額に直撃してしまい、ガオは涙目になった。それを見て、ユイが手を叩いてからかう。
「おい、笑ってんじゃねーよユイ。カイも目を逸らしやがって。絶対やり返してやるからな!」
「でもガオはゴール外したじゃん。ユイはまだ蹴る順番あるけどガオはありませーん!」
「もう一周やる!キーパーユイで俺が蹴るのをやる!」
「まだガオとランしか蹴ってないんだから、順番にやりましょうよ」
「リョウまでユイの味方になりやがって」
「いや、味方というか......」
ガオが言い争っている間、カイはガオに見えないようにしてランに「よくやった」と親指を立てていた。
こんな風に、限りなく今までと同じ日常が流れている。
ユイの両親はまだ帰ってきていないにも関わらず。
リョウが聞こえる範囲では、ユイの両親に関する新しい情報は何も入ってきていない。
どうやらユンもまだ目を覚ましていないようだ。
先日、リョウは、カイからとある相談を受けていた。
ユイが夜中に急に泣き出すことがあるそうで、それをどうにかしてやれないかというものだ。
正直、年齢的にどうにもならないのではないかとリョウは感じたが、ユイの悩みを解決したいという思いは共通のものなので、普段からユイのことを注視するようにしている。
しかし、少なくともみんなで集まっている昼の間は、ユイは悲しみや苦しみを微塵も感じさせない。
急に相談に乗ることを申し出るわけにもいかず、リョウは悩ましい日々を送っていたのだった。
リョウの家庭には、目に見える変化があった。
チョウガンが隣村への長期任務から帰って来たのだ。
アワル村は周囲の開拓村と比べると社会制度の整備が進んでいるため、階級としては上官にあたり、文官仕事にも理解があるチョウガンが、指導役として派遣されているらしい。
そんな中でチョウガンが予定より早めに帰って来た背景には、リンがリョウの誕生日の件を共有して働きかけたということがあるようだ。
連日深夜に行われる夫婦間の話し合いの原因が自分だと察していたリョウは、罪悪感を埋め合わせるように盗み聞きをやめてすぐに眠りにつくようになっていた。
ひとまず結論が出たのだろう。
夕食の後、リョウはチョウガンに声をかけられた。
「話さなければいけないことがある。手と口をゆすいだらすぐに戻って来なさい」
父親の真剣な表情に、リョウは緊張感を覚えた。
「ロウシンさんの魔法を見たんだろ?どこまで教えてもらったんだ?」
「無から有を生み出す魔法というものがあって、土と水があるところまでは聞きました。死亡事故があったから、小さいうちは秘密にされているとも」
「分かった。実は、リョウが魔法に強い興味を持っていると聞いて、アワル兵士団の魔法使いの方に時間を取ってもらっている。
ガオくんやユイちゃんにも中途半端な説明になってしまっていたようだしな。
魔法でできることを教えた後は、必ずリスクや副作用を教える必要がある。
現状ではそれが不十分なんだ。
母さんにも、判断と責任の関係を教えてもらったんだろ?」
リョウが頷く。
食器類を洗い終え、布巾で拭いて片付けている途中のリンも向こうを向いたまま頷いた。
「まあ、ちょっと難しい話だったとは思うが.....
とにかく、出来ることが増えたら、危険なことが増えたことも理解する必要があるんだ。
正しい判断をするためにな」
「分かりました」
「先に軽く説明しておくから、友達が分からなそうにしている時はお前がフォローするんだぞ。
授業は次の日曜日、練兵場の中の施設で行う。
魔法の発動とその副作用、実際に魔法を使ったことによって起こった事件に関して教えてもらうことになるだろう。
本来は七歳になった子供に教えるんだが、今回は特別だ」
チョウガンは立ち上がり、後ろの棚から見慣れない装丁の本を2冊手に取り、リョウの前に置いた。
「魔法活用例をまとめている雑誌と、魔物辞典だ。授業までまだ1週間近くあるから、予習しておくといいと思う。分からないところがあったら父さんでも母さんでも好きな方に聞いてくれ」
(魔物......!授業も楽しみだな。魔法使いってどんな人なんだろう?やっぱりハットとローブなんだろうか?金髪美少女だったりするのかな?)
リョウには、ファンタジーが大好きな男子高校生の血液がしっかりと流れていたのだった。




