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10 土水

シャオユーが医務室に戻って来た。

きっと、カイとランをオレンジの部屋まで送り届けたのだろう。


「リョウ、ガオ、ユイ。一度部屋に戻るわよ」


いつもの優しい口調だ。

シャオユーの立ち居振る舞いには、人を包み込む温もりがある。

が。


「ちょっとだけ待ってください」


リョウの返答に、普段のリョウをよく知るシャオユーと子供たちが驚く。


いつの間にか、リンはいなくなっていた。


それはともかく。


普段聞き分けが良い、もはや良すぎると言っても過言ではないリョウが、頑なな態度を見せたのだ。


想定していなかった反抗にシャオユーは虚をつかれるが、気を取り直して自身の仕事を全うしようとする。


「......分かったわ。チンハオと一緒にできるだけ早く戻って来なさい。ガオとユイは行くわよ」


「俺も......リョウが残るなら残りたい」


「ユイはお兄ちゃんと離れたくない......」


「どうしてそうなるの......まあいいわ。私は部屋に戻らないといけないから、チンハオに連れて来てもらうのよ。お願いね、チンハオ」


「ああ、分かった」


シャオユーは足早に戻って行った。




リョウは医務室の老爺に問いかける。


「さっきの光は何でしょうか?」


「おや、ご存知ではありませんか」


チンハオが口を挟む。


「この村ではある程度成熟するまで教えないんだ。一度子供達だけで南西の壁を越えた死亡事故があったからな」


「そうですか......私が教えてもいいんですかな?」


「......ああ。中途半端に知識を集める方が良くない。元はと言えば、流れで連れて来た俺にも問題はあるしな。後で役所には報告するから、責任は一緒に取ろう」


「はっはっは。そこは俺が責任を取ると言って欲しいところでしたが......私も若者に教えるのは久々なので、楽しみですからな」


「いや、教えるってそこまででは......」


「私が、全責任を負ってこの若者を導きましょうぞ」


「勝手にしてくれ......」


チンハオと老爺の合意が半ば強引ではあるがとれたようだ。

老爺はリョウたちに向き直る。


「この緑の光は魔法。無から有を生み出す、神の恩寵じゃ」


「神の恩寵......」


リョウが呟く。

全く想定していなかった概念に、脳を殴られたような衝撃を受ける。


「ああ、そうじゃ。恩寵の大小は存在するが、あまねく人間は、魔法を使うことで、想定できないような現象を起こすことができる」


「言葉が難しいよ......」


ガオが小さく愚痴を漏らす。


「おお、そうかそうか。すまんかったなあ。それでは分かりやすく説明しよう。この世には魔法という力があって、土魔法、水魔法、......そうじゃな、土魔法と水魔法の二つが存在している。魔法で生み出したものを土みたいに固めるか、水みたいに流れるようにするかの違いじゃ」


リョウは他にも魔法が存在する雰囲気を感じ取ったが、特に質問することはしなかった。


(このお爺さんには出来るだけ気持ちよく話してほしいからな)


リョウは多くの情報を得るための小さな打算を働けるくらいには落ち着いて話を聞けるようになっていた。


「私が今使ったのが土魔法。傷ついていた血管と色々な組織を、魔法で生み出した土で修復したんじゃ」


「土?」


ユイが問いかける。


どうやらユンの容態は安定しているようだ。

緑に光る樹脂のような素材で繋ぎ合わされている腹部が規則的に上下している。


ユイの顔色も大分戻っているように見える。


「魔法で生み出された固体が魔法土と呼ばれている。これと本物の土を混ぜたものが人工土と呼ばれ、魔法土と本土の割合によって形を保てる時間が変わる」


(人工土!)


リョウがよく目にしていた未知の素材は、魔法の産物だったということだ。


「本来純粋な魔法土は、魔法を使った者が離れると崩壊する。そのためユンくんには自身の力で再生するまで、しばらくの間ここにいてもらうことになるじゃろうな」


「あれ、そういえばパパとママは......?」


安心したのか、ユイは考える余裕が出て来たようだ。

確かにユイの両親に関しての情報はない。


「ユイちゃんのご両親はユンくんと一緒に南門から出た記録が残っていたわ。今南の森を捜索中よ」


突然の声に振り返ると、扉の近くにリンが腕を組み、壁に寄り掛かるようにして立っていた。

口を挟むタイミングを伺っていたのかもしれない。


「ユイちゃん、南の森を今兵隊さんたちが探しているから待っててね。ユンくんが意識を取り戻したら色々進展することもあると思うわ......それよりチンハオさんとロウシンさん、なんで子供たちに魔法の説明会を開いているか説明してくださるかしら?」


リンは静かに怒っていた。

子を持つ親の、刺すような迫力を放っている怒りだった。

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