1 誕生
有馬史郎と申します。初投稿なので、優しく見守って頂けると嬉しいです。毎週水曜・日曜に1話ずつ投稿する予定です。ストックが貯まったら日曜日に複数話投稿する可能性もあります。
全身が、熱い。
喉の奥が焼けつくように痛む。
手足を振り回して、コンビニでチョコレートを強請る子供のような格好で悶え苦しもうとする。
だが、思うように体は動かなかった。
視界に入るのは、見慣れない木製の天井。
背中には、人工芝のようにちくちくとした感触がある。
自分に、何が起きている?
坂倉良弥は、17歳の誕生日の日、高校へ向かう途中で命を落とした。
7時34分発の市民バスに乗れば、8時12分には高校最寄りのバス停に着く。
それが、彼の日常だった。
普段、良弥はバスの中で単語帳を眺めて過ごす。
ただし体調次第では文字酔いを起こすため、視界が開けていてすぐに外を眺められる、運転手と反対側の最前列の席に座るようにしていた。
それが、不幸を呼んだ。
路面が凍り始める12月初旬。
運転手の過労による集中力の低下もあったのだろうか。バスはスリップし、ガードレールに衝突した。
坂倉良弥の短い人生は、手作りの粗末な単語帳とともに、不運な交通事故で終わった。
良弥は全身の焼けるような感覚で目を覚ましたが、しばらく経つと周りを見渡す余裕が出てきた。
視界の端に、柔らかな笑みを浮かべた女性と、忙しく動き回る白衣の人々が映る。
(……ここは?)
女性が、良弥の横たわる大きなカゴのようなものを覗き込む。
「すぐに泣き止んだ。リョウは、きっと賢い子になるわ!」
良弥は混乱した。
最後の記憶は、単語帳の「irrigation 灌漑」という項目と、体を貫く強烈な衝撃。
いつの間にか寝かされ、体は思うように動かない。
おかしい。
何かが、決定的におかしい。
そう思った瞬間、抗えない眠気が押し寄せ、良弥の意識は再び闇に沈んだ。
再び目を覚ますと、先ほどの女性は椅子に腰かけ、隣では恰幅の良い男性が腕を組んでいた。二人は楽しげに談笑している。
「ねえ、数秒で泣き止んだのよ? 天才に違いないわ!」
「いや……珍しいとは思うが、泣き止んだから天才というのは、さすがに飛躍しすぎじゃないか?」
「そうに決まってるわ! 目元はあなたに似てるし、きっと優しい子に育つわ。ほら……あら?」
女性と良弥の視線が、正面からぶつかった。
わずかな沈黙が流れる。
良弥は多少の気恥ずかしさを覚えたが、吸い込まれるようなダークブラウンの瞳から、目を逸らすことができなかった。
「……本当に静かな子だな。リンの言う通り、リョウは賢そうだ」
「でしょ? ねえ、リョウ?」
坂倉良弥は、自分が「リョウ」と呼ばれる赤ん坊になってしまったという事実を、もはや認めざるを得なかった。




